『さぁ遂に……遂に伝説の格闘大会『まほら武道会』決勝戦です!
お聞きくださいこの大歓声!大変な盛り上がりです!!』
「おい、いかなくていいのか?」
「本物がここにいるのに、偽物に会いに行く理由がどこにある」
「ま、そりゃそうだわな」
感極まったエヴァにしがみつかれ、そのまま随分と時間が経過していた。
会場から聞こえてくるアナウンスと歓声でようやく沈黙が解かれたくらいだ。
「で?いつまでそうしてるつもりだ?
大会が終われば、オレたちは超の嬢ちゃんと動き出す。
あんまり時間はねぇぞ?」
「ヤダ。離さない。もうどこにも行くな」
「そりゃ、オレにずっとこのままの姿でいろってことか?
やること済まさねぇと、オレはいつまでも元に戻れねぇんだぞ?」
「むぐっ……わかった……」
目の前の人間は中身はナギでも、体はリンネという女の物だ。
彼を男として愛しているエヴァが現状を受け入れられるはずもなく、彼と話をするためにゆっくりと胸元から離れる。
「……教えてくれ、私と別れた後でお前に何があったのか。
なぜそんな姿になっているのか……」
「……ネギや他の連中には内緒にしてくれよ?」
涙で目をはらしたエヴァが頷いたのを見て、ナギは簡潔に説明する。
20年前の大戦でナギたち『紅き翼』が打倒した『完全なる世界』の首領『ヨルダ』は精神寄生生命体だった。
ヨルダは己を殺した相手に憑りつく能力を持っており、ナギもまたヨルダに寄生され少しずつ侵食を受けていた。
大戦後のナギはヨルダの侵食に抗いながら、ヨルダと魔法世界をどうにかするために旅を続けていた。
「では、私と出会った15年前も……」
「あぁ。初期段階だが侵食は受けていた。
……言い訳になるが、その頃はまだしばらくは持つと思ってたんだ。
だがその3年後のオレはもう、自分を維持するだけで手いっぱいだった」
日を追うごとに侵食は悪化し、心は弱り自殺も考えた。
しかしナギの死体から抜け出たヨルダがまた別の人間に憑りつくだけだから意味がない。むしろ犠牲者を増やしてしまう。
少しでもヨルダを長く己に封じ込めるためにと足掻き、さらに時間は経過しおよそ10年前。
彼は限界が近づいてきたと判断し、自分が暴走して仲間たちを傷つける前に仲間たちの前から姿を消すことにした。
そして6年前、ついに肉体を奪い取ったヨルダは未だ反抗するナギの心を折るために彼の息子であるネギを殺そうとした。
「そうか……ぼーやの村を襲った悪魔はお前が……」
「ネギから聞いたか。ならその場に現れたヒノカミが悪魔を呼び出した元凶のところに向かったのも知ってるな?」
「……『ヒノカミ』?」
「あぁ、コイツのもう一つの呼び名だ。
『六道リンネ』も間違いなくコイツの本名なんだが、紛らわしいからな。
そんでヒノカミのことについては今は触れないでくれ。
説明が長くなるし、簡単に信じられる話でもねぇからさ」
「いいだろう。私も今はお前の事情の方が知りたい。
ではそこで、ヒノカミとお前が出会ったということか」
一時的にヨルダから肉体の制御権を奪い返していたナギは、目の前に現れたヒノカミに己を封印するように頼み、彼女はそれに応じた。
しかしヒノカミは寸前でナギの魂をナギの肉体から切り離し己の内に保護した。
「そんで時間をかけてボロボロだった魂を治してもらった。
その後はずっとこの体を貸してくれてんのさ。
『テメェの息子の面倒くらい、テメェで見ろ』ってよ」
「そしてそのままヒノカミ……六道リンネのフリをして、ぼーやの師匠に収まったと。
……フン、戦い方が同じになって当たり前だな。
ヨルダとお前の肉体は、今どこに?」
「こん中だ」
そういってナギは懐から小さな瓶を取り出し掲げる。
「ヒノカミの協力がありゃ今すぐ封印解いて、ヨルダを追い出してオレが元に戻ることも可能だ」
「そうなのか?ならばなぜそうしない?」
「元の体に戻ったら年単位でリハビリになるそうだ。
方々から狙われてるネギをほったらかして離れられるかよ。
『完全なる世界』の残党なんてもんまで出てきちまったんだから猶更だ」
「フェイトとかいう小僧か……知っていればあの時に、何としても始末したものを……!」
「同じことさ。残党がアイツ一人なわけがねぇからな。
そんで連中をどうにかしない内は、連中のトップであるヨルダに寄生されているはずの『ナギ・スプリングフィールド』が姿を現すことはできねぇ。
絶対に接触しようとしてくるし、そこでヨルダが封じられてるなんて知ったら命がけで取り戻しに来る」
「ぼーやや周囲の連中を巻き添えにしてでも、か。
……私にできることは何がある?」
リンネの……ナギ自身の手で呪いは解かれすでにエヴァは自由の身。
だからもう一度出会えたのなら今度こそ、決して彼を離さないと誓っていた。
それこそ地獄だろうとどこへでもついていく覚悟もできている。
だがその必要もない。なぜならば。
「……実はな、もう道筋はできてんだ。
『完全なる世界』どころか『魔法世界』の問題まで全部解決しちまえる計画の道筋がな。
超の嬢ちゃんに手を貸すことにしたのもその計画の一部さ。
うまくいけば、後1年で全部に片が付く」
「なんだと?……では私もそちらに合流するべきか?」
エヴァは悪の魔法使いであり、魔法の秘匿などどうでもいい。
自らの従者である茶々丸も、今回ばかりは彼女の創造主である超と葉加瀬に協力することになっている。
であればエヴァもそちらに協力するのは自然な流れだ。
ネギや彼の従者たちにはそれなりに情も湧いているが、彼らは学園の連中のようにガチガチの石頭ではないし、ことが終われば匿うこともできる。
ナギがこちらにいるのだからタカミチやアルビレオの協力も得られるかもしれない。
何より『千の呪文の男』と『闇の福音』の最強タッグ。
それにネギたちも魔法使い全体で見ればすでに上澄みだ。
そこに規格外の化け物であるヒノカミを加えれば、魔法世界の連中が抹消に動いたとして全て返り討ちにできるだろう。
「あー……お前の考えは何となく読めてるが、ちと事情が違うんだよなぁ」
「どういうことだ?」
「手ぇ貸してもらえるならありがてぇが、今回の祭り、できるならお前には別の仕事を頼みたい。
時間もねぇから手短に説明する。念を押すが、ネギや魔法使い連中には秘密だぜ?」
ナギがエヴァにお願いをしている内に会場の方が騒がしくなった。
どうやらナギとクウネル……『イノチノシヘン』で再現された過去のナギとの戦いに決着がついたのだろう。
なんとかその前に、最低限の情報をエヴァに共有することはできた。
「さぁて、大会も終わったし学園の連中が動き出すか。
……そんじゃ、そろそろ行くわ」
「わかった。ぼーやたちの方は任せておけ」
「……頼んどいてなんだが、随分と素直じゃねーか。何か企んでるわけじゃねぇよな?」
「フン……ここ数か月、貴様の演技だと知らずに散々醜態を晒した身だ。今更取り繕う意味もない。
だがそうだな……恩を感じているというのなら、元の体に戻った後でデートにでも付き合ってもらおうか」
「呪いのこともあるし、そんくらいは応じるべきだよな……。
わかった。今度は約束破ったりしねぇからよ」
「言ったな?一滴残らず搾り取ってやるから覚悟しておけ」
「元の体に戻ったばっかでそれやったら死ぬっての。加減しろよ、馬鹿野郎」