『駆け足』の上ってなんだろう?『全力疾走』?
黒崎家から『黒崎隣互』という少女がいなくなって早6年。
黒崎一護は高校生に、そして死神になっていた。
ある日家に現れた虚から家族を守るため、戦いで傷ついた死神『朽木ルキア』から死神の力を借り受け、以降は死神代行として虚と戦ってきた。
活動を始めてから暫くした後、クラスメイトである少年『石田雨竜』から勝負を挑まれる。
彼は滅却師であり、とある理由から死神を憎んでいた。
自分さえいれば死神など不要な存在であると証明するため、彼は虚を呼び寄せる撒き餌を使い、どちらが多く虚を倒せるかを競うという暴挙に出た。
武器が刀であり霊を感知するのが苦手な一護と、武器が弓矢で優れた感知能力を持つ石田。
競い合う前に勝負がついていると言っていい。
勝負を仕掛けた石田自身もそう考えていたが。
(おかしい……幾ら何でも虚の数が多すぎる……?)
一撃で虚を倒すことができなくなってきた。能力も体力もすでに大きく消耗している。
しかし『このままでは自分が物量に飲み込まれてしまう』……という危機感までは持っていない。
(そして……誰なんだコイツは!)
それは街を縦横無尽に駆け巡り、石田以上の速さで虚を狩り続ける謎の存在がいたからだ。
滅却師は石田が最後の一人のはず。他に霊を倒せる人間もいないことはないだろうが、こんな図抜けた能力を持っているとは思えない。故に最も可能性が高いのは死神。
黒崎一護ではない。別の場所から霊圧を感じるし、石田に言わせればはっきり言って奴は大したことがない。
では朽木ルキアかと言えばそれも違う。
そもそも彼女が死神の力を失ったから黒崎が代わりに戦っているのだ。
黒崎以上に戦えるのなら黒崎を頼る理由がない。
(っ!動いた!!)
一帯の虚を倒し終えたらしいそいつは、黒崎の方へと猛スピードで移動を開始した。
数秒後には合流するだろう。
そしてそいつが死神だとすれば、二人は協力して虚を狩り始めるはず。
すでにペースを落とし始めている石田を大きく引き離して。
(何を弱音を吐いているんだ僕は!僕は負けるわけにはいかない!!)
そして石田の予想通り黒崎と謎の戦力は共に行動を始め、町中の虚をなぎ倒しながら彼の前に現れる。
「……やっと見つけたぜ……石田ァ!!」
「黒崎……それと……!」
黒崎の隣にいるのは見たこともない一人の少女。
腰に刀……おそらく斬魄刀を下げている。
だが死神の服……死覇装を身に着けてはない。男物の和服ではあるが、普通の服だ。
そして何より霊体ではない。肉体を持ち、確かにそこに存在している。
「えぇと……どちら様で?」
偶然石田と同じ場所にいた朽木と、一護の体を預かっている改造魂魄のコン。
後者が真っ先に少女に問いかけた。
「儂の事情を説明するには、ちぃと時間が足りんな。ホレ」
妙な口調で話す少女が空を指さすと、空のヒビがが一か所に集まっていた。そしてその一点を目指し町中の虚が集まっていく。
「アレは儂がなんとかしてやる。
一護はそ奴と話をつけておけ」
「あれだけの数を一人でって……大丈夫かよ?」
「かっかっか。儂を誰だと思うておる?」
「……頼んだぜ、姉貴!!」
「「「姉貴!?」」」
一瞬で虚たちの前に移動した少女は、空中を足場にして高らかに名乗りを上げる。
「やぁやぁ遠からん者は音にも聞け!近くば寄って目にも見よ!
我が名は隣互!黒崎隣互!
貴様らを斬る者の名じゃ!冥途の土産に覚えておけ!!」
紅い斬魄刀を抜いた隣互は、目にも止まらぬ速さで次々と虚を斬り倒し始めた。
「人間が……斬魄刀だと!?」
「姉……!?やはり彼女も死神なのか!?」
黒崎が死神の力を持っているのは、死神である朽木ルキアから力を譲渡されたからのはず。
朽木も驚いていることから、黒崎の姉だという人物の力に関わっていないことは明白。
「知らねーよ。昔っから姉貴のことは俺もよくわかんねー。
確かなのは、姉貴は俺の知る限り誰よりも強くて……誰よりも家族思いな奴ってことだ」
「黒崎……!」
「突然帰って来たかと思ったら、てめーの名前と状況を説明した途端に『しっかり話し合って仲直りしてこい』だとよ。
仲直りも何も、そもそもてめーとはダチでもねぇってのに…」
黒崎は斬魄刀を持ち上げ石田に突き付けたかと思うと、そのまま後ろに持っていき背負う。
「俺が倒した虚の数より、お前が倒した数の方が多かったのは間違いねぇ。
だがお前も姉貴にゃ及ばねぇだろ。
だからこれはもう無効試合だ」
石田は彼の都合で町の人たちを巻き込んだが、巻き込まれた側が石田の都合に付き合う義理はない。
彼らの勝負は乱入者によってめちゃくちゃにされてしまった。
上空では虚が凄まじい勢いで消滅していく。もはや勝負を続けることはできず、石田と黒崎が戦っても意味がない。
「死神を憎むのは勝手だが、てめーが憎む死神は俺じゃねぇんだろ?
だったらただの八つ当たりじゃねーか。
せめて理由くらいはちゃんと話せ。
でなきゃ俺はてめーがどんだけ強かろうが、勝負に負けようが、てめーを認めねぇ」
「……一護」
「……いいだろう」