『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第36話

 

『クウネル・サンダース選手、優勝ーーーーーーーッ!!!』

 

ネギのダウンからの10カウントで、勝敗は決した。

クウネルがアーティファクトの力で変身したかつてのナギとの戦い、それはつい先ほど行われたネギとリンネの戦いの焼き直しだった。

そうだと気づいていたのは、魔法関係者の中でも高い戦闘力を持つ上澄みだけだったが。

 

幻影のナギは『かつての自分には劣る』と評しながらも、想像以上の実力を見せたネギをほめたたえ、強く育っていることに心の底から安堵していた。

 

「しっかし、ここまでオレを模倣するたぁ驚いたぜ。誰から習った?

 ラカンやタカミチは無理だろうから、アルか?それともエヴァか?」

 

「僕のマスター……六道リンネさんからです」

 

「誰だそりゃ?」

 

「え……!?」

 

ネギたちは、リンネはナギの個人的な友人と考えていた。

だが10年前とはいえ当人からまで詠春たちと同じ反応を返されて困惑する。

 

「じゃあマスターはここ10年以内にできた父さんの知り合い……?

 でももっと昔のことも知ってる素振りだったのに……」

 

「……あ、そういやエヴァはどうなってる?

 結局オレ、アイツの呪い解いてねぇの?」

 

「父さんから頼まれて、マスターが代わりに解いたと聞いています。

 ……でもエヴァンジェリンさん、一体どこにいったんでしょう。

 父さんと会えるのを楽しみにしてたはずなのに……」

 

「……ふぅ、誰だか知らねぇが感謝しとかねぇとな。

 ずっとほったらかしにしてたから殺されちまう。

 ……って、ここでこうしてお前と話してるってことは、オレはもう死んだっつーことなんだろうがな」

 

「えっ……」

 

「悪ぃな。お前には何もしてやれなくて」

 

「……待ってください!」

 

天を仰いで力なく笑うナギの幻影に、幻影だとわかっていてもネギが駆け寄る。

 

「父さんは死んでない!生きているんです!

 6年前に、父さんの残した杖が……それに、マスターも『生きてる』って!」

 

「何?……そっか。まだしぶとく生きてんのか、オレは」

 

「父さん……?」

 

目の前のナギの幻影は、ヨルダの侵食を受けている頃の模倣体。

彼はネギの発言から、己が未だにヨルダに抗っているのかと推測した。

……いや、おそらくとっくにヨルダに呑みこまれてしまったのだろう。

であればいずれ我が子は、悪の首魁と化した己自身と向かい合うことになるのかもしれない。

 

そこで、ナギの幻影の体から光が立ち昇る。

『イノチノシヘン』の制限時間が来たようだ。

 

「お前に何があってどう生きて来たのかは今のオレにはわからない。

 ……けどな。若くして英雄となった偉大かつ最強無敵のお父さまに憧れる気持ちはわかるが、オレの後を追うのはそこそこにして止めておけよ?」

 

「なっ……」

 

「お前は、お前自身に……」

「イヤです!!」

 

残り僅かな時間の、父の言葉を遮ってまでネギが叫ぶ。

 

「僕は、これからも父さんを追いかけます!

 追いかけて、追いついて……追い抜くために!!」

 

「……!」

 

目の前の父は過去の幻影。

彼への宣誓は何の意味もない。ただの独り言でしかない。

 

「……はっはっは!オレを、追い抜くか!

 よく言った!それでこそオレの息子だ!」

 

「はい!」

 

だが過去の幻影とは言え、ネギはナギの想像を超えてみせた。

 

「頑張れよネギ!オレなんかに負けんじゃねぇぞ!」

 

「はいっ!!」

 

その一言を最期に、ナギは光の柱となった。

光が収まったその場にはフードを被ったクウネルが立っていた。

 

「……うっ……ぐすっ……ひっく」

 

そしてネギは、父の前では決して見せぬと誓っていた涙と嗚咽を漏らした。

 

「……よく頑張りましたね、ネギくん」

 

彼らの一部始終を大勢が見ていた。

何も知らぬ観客たち。

事情を知るネギの仲間たち。

潜入捜査から戻ってきたタカミチとアスナと委員長。

そして主催者である超も。

気を利かせた彼女がしばらく登壇を伸ばし、間をおいて授賞式と閉会式が行われた。

 

復活した伝説の格闘大会『まほら武道会』は、大喝采の中で幕を下ろした。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「職員室まで来てもらおう、超くん。

 君にいくつか話を聞きたい」

 

武道会が終わり人気のなくなった龍宮神社の廊下を歩く超とリンネを、タカミチを筆頭とした学園の魔法使いたちが取り囲む。

 

「高畑先生、何を甘いことを言っているんですか!?

 彼女らは危険です!……君もだ、六道くん!」

 

「儂か?」

 

「魔法使いの存在を公表するなんて……それがどれだけとんでもないことかわかっているのか!

 ネギ先生……サウザンドマスターの息子の師と言うから見逃してきたが、やはりこんな不審な人間を麻帆良に入れるべきではなかったのだ!

 相応の罰は覚悟してもらおう!大人しく従いたまえ!!」

 

「ふむ、麻帆良の学生の超を職員室に呼び出すのは至極当然。

 だが儂に対してその言い分は道理が通らぬな。

 この街に『魔法使いの命令に従え』という法があるとは聞いておらんが?」

 

「くっ……減らず口を!

 この人数差で逃げ出せると思っているのか!?

 直ちに拘束させてもらう!捕らえるぞ!」

 

「「「ハッ!!」」」

 

「待つんだ!」

 

タカミチの制止を聞かず、彼と共に来ていた5人の魔法使いが飛び出す。

彼らは未だに正確に理解できていなかったのだ。彼我の戦力差を。

 

 

「あまり強い言葉を使うな。弱く見えるぞ」

 

 

一瞬リンネの顔の横にある鬼の仮面の目が光ったかと思えば、5人の魔法使いの身体は顔を残して氷漬けになっていた。

 

「っ!?なに、が……!?」

 

「馬鹿な、魔力の反応はなかった!」

 

「なんじゃタカミチ。こ奴らに伝えておかなかったのか?」

 

「ははは……一応伝えたんだけどね」

 

顔以外は一切動かせなくなった5人を見て、唯一無事なタカミチは困ったように笑う。

リンネは魔法ではなく特殊能力を使うこと、その実力は闇の福音すら一目置くほどであることも、彼はちゃんと報告していた。

荒事に発展させないよう、力づくは避けるようにとも。

リンネがタカミチに攻撃しなかったのは、彼は攻撃しようとしていなかったから。

そして他の5人が凍らされたのは、彼らがリンネたちを捕らえるつもりだったからだ。

もし彼らがリンネたちの生死を問わず攻撃しようとしていたなら、彼らは物言わぬ骸と化していただろう。

 

「私が言うのもなんだが、あまり彼女を刺激しないでほしいネ。

 ……私もこの人の手綱握れてるわけじゃないネ。

 暴れ出したら手が付けられないヨ」

 

「なんじゃい人を猛獣みたいに」

 

「猛獣の方がマシネ。核地雷の上で運動会してる気分ヨ……。

 だから魔法使い諸君。私たちと勝負するネ」

 

「「「勝負……!?」」」

 

超は懐から取り出した冊子を掲げる。

 

「コレに明日の私たちの計画の概要を記してあるネ。

 誓って、嘘偽りはなイ。

 計画を阻止できたなら諸君らの勝ち。私は大人しくお縄につくネ」

 

「ふむ……では、君たちが勝ったら?」

 

「……特に無いヨ。いや、無いことは無いがこんな勝負で呑ませることでもナイ。

 敢えて言うなら、敗北を受け入れてもらうことかナ?」

 

「君たちにメリットがないように思うけれど……」

 

「互いに一般人や街を過剰に傷つけないこと、明らかに外道な手段を取らないこと、これをルールとしたいネ。

 この人は自分が認め受け入れたルールなら、相手が破らない限り絶対に破らないヨ。

 この人が暴発する可能性が減らせるなら多少のハンデなんて安い出費ネ……」

 

「超くん……今からでも遅くない。思いとどまらないかい?」

 

「……お気遣い感謝するネ。だけど、私は止まらぬと決意したヨ……!」

 

調査から戻ってきた後で、二回戦以降も暴君として振る舞ったリンネのことをネギたちから聞いていたタカミチは純粋に超のことを心配して説得しようとした。

そして超の覚悟が並大抵ではないと理解した。

 

「この勝負、受けてくれると信じてるヨ。また会おう、諸君」

 

リンネが超の肩に手を乗せると、二人は姿を消した。

そして魔法使いたちを拘束していた氷が砕けた。

 

「……反応、ありません。完全にロストしました」

 

「申し訳ありませんでした、高畑先生。

 忠告を受けていながら……」

 

「信じられないのも無理はないよ。

 それよりも……対策を議論する必要がありそうだ」

 

タカミチは先程まで超たちがいた場所に残されていた冊子を拾い上げた。

 

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