『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第45話 旅立ち

 

「……」

 

(……き、気まずい……)

 

黙って歩くリンネの後ろをついていく明日菜。

何度か声をかけたがほとんど反応を示さないので彼女も何も言わなくなってしまった。

 

「……ついたぞ」

 

「……え?へ?……ここは」

 

やがて辿り着いたのは世界樹前広場だった。

この時間帯なら多少は人がいてもいいはずだが誰もいない。人払いの結界が敷かれているようだ。

リンネと明日菜は学園祭で話題になったまほら武道会の本戦参加者であり、学祭最終イベントでも大暴れしたのでかなり有名になってしまった。

特にリンネは明日菜以上に活躍しており大会準優勝のネギの保護者であり師匠、そして学祭後もずっと姿を隠しているので彼女を探し求めるマスメディアは非常に多い。

超と共に引き籠っていたのは、人払いの結界でも張らねば外を出歩けないと言うのも理由の一つだった。

 

目の前の手すりに体重を預けるリンネの隣に立ち、眼下の麻帆良の街を見下ろす。

間もなく日も沈む頃。ここからの夜景はさぞ美しかろう。

……それが人でにぎわう学祭の間なら猶の事。

 

「すまなかった」

 

「へ?」

 

明日菜が声に反応して横を見るとリンネは深々と頭を下げていた。

 

「本当ならあの日……お主はタカミチと共に、この場に立っていたはずだった」

 

「あ……」

 

それが学祭最終日に予定されていたタカミチとのデートを指していると、明日菜もすぐに気付いた。

 

学祭二日目のまほら武道会、および超とリンネが結託して麻帆良の魔法使いたちに勝負を挑んだ。

その対処のため、タカミチもネギも明日菜たちも以降の予定を全てキャンセルせざるをえなかったのだ。

そうなるとわかっていてリンネは事を起こした。

明日菜の学祭デートの予行演習の相手まで勤めておきながらだ。

 

 

 

「……あはははははっ!

 神妙な顔してたから何かと思ったら、そんなこと気にしてたの!?」

 

「っ、じゃがお主は、あんなにデートを楽しみにして……」

 

「……そりゃ、惜しかったなって気持ちもあるよ。

 でも超さんのあんな話聞いちゃったら仕方ないなって納得しちゃったもん。それに……」

 

言葉を区切った明日菜は、顔を上げたリンネの瞳をまっすぐに見て微笑む。

 

 

 

「偽物だとしても、もう一度ガトウさんと会えてうれしかったよ。『ナギ』」

 

 

 

「…………いつから?」

 

「全部思い出したのはついこの間、夢でね。

 それであんなにガトウさんのことをわかってる人は、消去法でナギしかいないじゃん」

 

「……参ったなぁ」

 

ナギは観念して力なく笑う。

 

『紅き翼』の一人としてずっと行動を共にしてきた『アスナ』は独力で答えに辿り着いていた。

あそこまで完全にガトウを理解し人格模倣ができる者はやはり『紅き翼』の誰かしかいない。

であればリンネは彼らの内の誰かの変装か分身の類だと考えるのが自然だ。

 

ラカンは魔法世界から容易には出られないし、粗野で大雑把な彼が技ならともかく人格の模倣までできるはずがない。

タカミチはガトウの弟子で誰より師を理解しているが、アスナからガトウの記憶を消した彼がガトウのフリをして明日菜の前に顔を出すなんてありえない。

詠春は関西呪術協会の長であり式神や配下を遣わすこともできるが、修学旅行の本山襲撃事件で別人だとはっきりしている。

アルビレオの可能性が一番高かったが、であれば武道会決勝にてナギの魔法書の力を消費してまでナギを完全再現する理由がない。

 

となればリンネの正体として残る可能性はナギしかいない。

 

「……ま、最初は信じらんなかったけどね。

 あのナギが可愛い女の子になってるなんてさ」

 

「~~っ、絶対ネギに言うんじゃねぇぞ!?

 いや、もしかしてもうバラしてたりしてねぇよな!?」

 

「ちょっ、揺らさないでよ!

 ちゃんと秘密にしてるから!ネギたちにも、高畑先生にも!」

 

「本当だな!?嘘じゃねぇよな!?

 ……って、タカミチは気付いてねぇのか?」

 

「直接尋ねた訳じゃないけど、どう見ても気付いてないのよね……。

 高畑先生って結構ぽやっとしてるところあるし、いつか気付くとは思うけどいつになるかしら?」

 

「はぁ……だったら悪いがそのまま秘密にしててくれ。

 あと1年くらいすりゃ元の体に戻れる予定だからよ」

 

「そ。なら黙っててあげる。

 ずっとこのまんま隠すつもりなら許さなかったけどね。

 ……なんでそんなことになってるのかも、それまで聞かないでおくわ。

 色々知ってると話したくなっちゃいそうだし」

 

「わりぃ、そうしてくれっと助かる」

 

一人の少女が大きな安堵の息を漏らし、それを見たもう一人の少女が堪えきれず笑う。

二人とも中学生程度にしか見えず、実際に一人は中学校に通っている。

だが一人は『千の呪文の男』と呼ばれた魔法使いが操る神の端末。

そしてもう一人は『黄昏の姫御子』と呼ばれた魔法世界の亡国の姫君。

彼女もまたリンネと同じく見た目通りの年齢ではない。幼い頃に成長を止められていたため100を優に超えている。

 

「……だがアスナ、記憶が戻ってるなら猶更なんでだ?

 お前が魔法世界に行くことの危険性は嫌っつーほど理解してんだろ?」

 

ナギは彼女の中に眠る『アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア』の記憶を呼び戻そうとしていた。

アスナが過去のすべてを捨ててようやく手に入れた平穏を手放すことになるとわかっていても踏み切ったのは、彼女に『己が狙われていること』を自覚してもらうためだ。

『完全なる世界』の連中が企てている『魔法世界救済計画』を実行するためには『黄昏の姫御子』の存在が必要不可欠。

事実20年前の魔法世界の大戦でも連中にアスナを利用され、魔法世界が滅びる一歩手前にまで陥ったのだ。

残党が生きていた以上『神楽坂明日菜』が『黄昏の姫御子』だと知れば何としてもその身柄を押さえようとするだろう。

だから連中から身を隠すために麻帆良に移り住み記憶まで封じていたのだ。

なのに彼女が麻帆良の庇護を離れ魔法世界に向かうなど、事情を知っていれば選択するはずもない。ましてや狙われる当人が望むなど。

 

「もしお前が魔法世界の存亡に責任感じてんなら、やめてくれ。

 『王族だから』とかそんな理由で危険な旅なんてされちゃあオレたちの立つ瀬がねぇ」

 

「違うわよ。言葉にするのは難しいけど敢えて言うなら……私も何かしたいから、かな」

 

「んあ?」

 

「ナギたちと一緒にずっと旅してきたけど、小さかった私は見てるだけしかできなかった。

 でも私もようやく、ちょっとくらいは戦えるようになった。

 なのにもうすぐナギが超ちゃんたちと全部解決しちゃうんでしょ?

 だったらこれが最後の機会だもん。

 魔法世界を救うために何かができる……私が本当の『紅き翼』の一員になれる、最後のね」

 

「……そんなことしなくても、お前はオレたちの仲間だよ」

 

「わかってる。みんなが心からそう思ってくれてることは。

 記憶が戻ったことを高畑先生に伝えたときも、同じように心配してくれた。

 ……でもやっぱり見てるだけは苦しいよ。私も、何かしたい」

 

「そうか……記憶のこと、他の奴らには?」

 

「まだ高畑先生だけ。ネギや皆には魔法世界についてから伝えるつもり。

 今伝えたら絶対大騒ぎになっちゃうもん」

 

「ハハハハ……だろうなぁ。

 いきなりクラスメイトが『紅き翼』の一員で、魔法世界のお姫様で……ネギの『叔母さん』だなんて知られた日にゃあなぁ」

 

「なっ!?叔母さんはやめてよ!せめてお姉さんでしょ!?」

 

「なぁに言ってんだ、お前アリカの妹みてぇなモンだったろ?

 だったら間違いなく叔母さんじゃねぇか。

 そもそもお前、実年齢オレより上だろ」

 

「~~~~っ、だったら私もナギのこと『お義兄さん』と呼びましょうか!?」

 

「うひぃっ、ぞくっとした!

 わかった、この話はナシだ!だから勘弁してくれ!!」

 

「フン!わかればいーのよ」

 

「……もう止めねーよ。だが絶対に生きて帰ってこい。

 お前に何かあったらそれこそガトウに顔向けできねぇ」

 

「大丈夫。私、『幸せになってみせる』から。

 そのためにも……全部、終わらせなきゃね」

 

意志は固く、説得は不可能と理解したナギは素直にアスナを送り出すことにした。

 

部活名を『白き翼』と改めた一行は夏休みが始まるや否や、イギリスを経由し魔法世界へと向かった。

 

 

 

そしてネギたちが魔法世界に旅立ってから十数日後、何者かのテロにより世界中の魔法世界へのゲートが破壊された。

 




原作では夏休み前半を麻帆良で満喫しましたが、本作は旅行でなく大切な調査であり急ぐ必要もあるので夏休み始まってすぐに出発しています。
原作での案内役だった委員長も身内側。
よって魔法関係者以外のクラスメイトが巻き込まれることもなく、フェイトによるテロの場には居合わせておらず、ネギたちは全員揃って無事にメガロメセンブリアに到着しています。
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