『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第47話 『紅き翼』のアスナ

 

時は遡り、タカミチと白き翼一行が魔法世界のメガロメセンブリアに降り立った頃。

 

「やぁ。久しぶりだな、クルト」

 

「フン……私はもう顔も合わせたくなかったがな」

 

ゲートポートに辿り着いた一行を迎え入れたのは多数のメガロメセンブリア兵を引き連れたクルト・ゲーデルだった。

彼はメガロメセンブリア元老院議員の一人。

メガロメセンブリアは超の未来にて地球に侵攻したという潜在的な敵対勢力だ。

それが大量の兵士を伴って現れたとなれば、ネギたちが身構えてしまうのも当然のこと。

 

「大丈夫よネギ、皆。クルトさんは高畑先生の友達だから」

 

「「「へ?」」」

 

「ハハハ。いいとこ悪友、精々腐れ縁ってところだけどね。

 ……だが、コイツも元とは言え『紅き翼』の一人。

 魔法世界を大切に思う気持ちは僕らにも負けないさ」

 

「『魔法世界を救う方法がある』など、お前一人の言葉ならば信じなかった。

 ……だが『姫』の連名となれば無視はできん」

 

いつの間にかクルトの連れて来た兵士が他の人間たちを追い出していた。

今ゲートポートの大部屋にいるのはクルトたちとタカミチたちだけ。

それを確認したクルトはネギたちの前に歩み出て、一人の少女の前で跪く。

 

 

「おかえりなさいませ。『アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア』様」

 

 

「「「へ?」」」

 

「もう、やめてよクルトさん。

 私が戻ってきたのはそういうのに全部ケリをつけるためなんだから」

 

未だ事情を知らされておらぬネギと少女たちが困惑する。

アスナは少し前に出て振り返り、ネギたちを見渡す。

 

「私も記憶が戻ったのはついこの間なんだけどね……」

 

かつて魔法世界の大戦にて活躍した英雄たちのチーム『紅き翼』。

その構成人数は『公には』8名。

 

ナギ・スプリングフィールド

近衛詠春

アルビレオ・イマ

フィリウス・ゼクト

ジャック・ラカン

ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ

タカミチ・T・高畑

クルト・ゲーデル

 

だが彼らが連れ回していた幼い少女もまた、間違いなく彼らの仲間だった。

 

「私は『紅き翼』のNo.9。ナギたちと一緒に魔法世界を旅してたの」

 

「「「……え?」」」

 

「事実だよ。ナギがいなくなる10年前までね。

 紅き翼が解散したときに師匠……ガトウさんの指示で、彼女の記憶を封印したんだ」

 

「ネギくんと木乃香嬢はともかく、本来ならば貴方たちのような一般市民がお目通りできる相手ではないのですがね。

 ……何しろ彼女は、ウェスペルタティア王国の姫君なのですから」

 

「「「えぇぇぇぇ~~~~~~っ!?!?!?」」」

 

甲高い絶叫が大部屋に響く。

兵士たちが徹底的に人払いをしていなければ大騒動になっていただろう。

 

「……私の権限で、万全のセキュリティ対策を敷いたVIP室を押さえてあります。続きはそちらで」

 

「だってさ。ホラ行きましょ、そっちで説明するから。

 ずっとここにいたら他の人の邪魔になっちゃうわ」

 

「そういえばクルト、ラカンさんはいないのかい?

 迎えに来るという話だったけど……」

 

「……彼がメガロメセンブリアに入国したなら相応の話題になっているでしょう。

 彼なら気付かれぬように入ることも可能でしょうが……」

 

「……すっぽかしたんだな」

 

 

半ば放心状態のまま一室に案内された一行。

クルトは兵士たちを部屋の外で待機させネギたちと一人で向かい合う。

そこでアスナとタカミチとクルトの話を聞いている内に、ようやくネギ一行も頭の中で情報の整理を終え再起動した。

 

クルトはメガロメセンブリア元老院議員の一人であるが、それは獅子身中の虫となってメガロメセンブリアを内側から変えるしかないと判断したため。

現在彼はウェスペルタティア王国の王都だったオスティアの総督府を治めている。

メガロメセンブリアに実効支配された王国を、他の連中に荒らされないようにするためだ。

 

ウェスペルタティア王国の王族は二人。

『災厄の女王』アリカと『黄昏の姫御子』アスナ。

前者は20年前の大戦を引き起こした元凶……という罪を擦り付けられ処刑された悲劇の女王。

後者は成長と感情を止められ道具として利用されてきた哀れな人形姫。

しかしアリカは処刑に乱入した紅き翼が救出。後者も彼らと共に旅する内にやがて自分を手に入れた。

 

「そのアリカって人がネギくんのお母さんなの!?

 じゃあ王子様じゃん!!」

 

「えぇと、そうらしいです。

 魔法世界に来るのも今日が初めてだから実感は全くないんですけど」

 

「ではネギ先生とアスナさんは親類なのですか!?」

 

「そうなるんやねぇ~、アスナがアリカさんの妹なんやったら、おば」

「『お姉さん』ね!!」

 

「……いや待て、20年前の大戦でも『黄昏の姫御子』は駆り出されてたんだよな?

 ってことはテメェもエヴァとおんなじロリババアかよ神楽坂ぁ!!」

 

「やめてよ千雨ちゃん!!」

 

「ネギくん、君はアリカ様のことをどこで……!?」

 

「昔、マスターが教えてくれました。『口外しないように』と言われていたんですが」

 

「『六道リンネ』、でしたか。

 魔法世界の秘中の秘だというのに……一体何者なのです?」

 

(そりゃナギなんだから知ってるわよねぇ……)

 

この場でただ一人、全てを把握しているアスナはむず痒さを感じながら口を閉じる。

魔法世界の英雄の妻が、魔法世界の大罪人の姫君。言うまでもなく魔法世界のトップシークレットだ。

だから紅き翼の面々と事情を知る関係者は『ネギが成長するまで秘密にする』という取り決めをしていた。

だがその場にネギが生まれてすぐに姿を消したナギは含まれていなかった。

そしてリンネとして息子の面倒を見ていた彼は事の重大さを気にせず、かつてネギに尋ねられた時にあっさりと明かしてしまっていた。

 

話を区切ったクルトは様々な情報が記された書類を机の上に広げる。

 

「……タカミチからの連絡を受けて直ちに信頼できる手勢に命じて調査させました。

 結果は御覧の通り、我々の想定を遥かに超える速度で魔力が減少していました。

 魔法世界の崩壊が間近だと言うのは……事実でしょう」

 

「そう、ですか……」

 

「となれば、やっぱり姐御とちゃおりんに協力するしかないってことだね」

 

「ですね。並大抵のことではないでしょうが……みんなで協力すればきっとなんとかなりますよ!」

 

「アンタも頼りにさせてもらうぜ、クルトの旦那!」

 

 

 

「お断りいたします」

 

 

「「「「「えぇ!?」」」」」

 

「魔法世界救済……確かに叶うならこの上ない。

 ですがはっきり言って『信用できない』んですよ。

 素性も明かさぬ小娘の言うことを鵜吞みにするなど危険極まる」

 

「だがクルト、他に魔法世界を救う方法はないだろう?」

 

「私はこれでも、多くの人民の命を預かっている身。

 『かもしれない』方法に魔法世界12億人の命運全てを託すことなどできませんよ。

 それよりも『確実に』メガロメセンブリア国民6700万人を救う道を選ぶべき立場にいるのです」

 

「まさか……アンタ、地球に侵攻するつもりか!?」

 

「「「!?」」」

 

「……すでに何年も前から元老院で計画は検討されています。

 私が魔法世界を調査させた件の秘匿には最新の注意を払いましたが、どこからか魔法世界の崩壊が目前に迫っている事実に辿り着くかもしれない。

 そうなればすぐにでも地球侵攻計画を強行する可能性は高いでしょう」

 

「そんなことになりゃ俺たちだけじゃねぇ、姐御も黙っちゃいねぇぞ!?」

 

「サウザンドマスターに匹敵、いやそれ以上の戦力ですか。

 事実であれば確かに脅威ですが、それすらも信じるに値しない。

 麻帆良での戦闘映像は見せていただきましたがあの程度なら偽造することも難しくないでしょう」

 

「このっ……クルトさん!あの人はねぇ!」

 

最悪の事態に陥るならばと、約束を破りリンネの正体を伝えようとしたアスナ。

 

 

 

「ですからネギくん。キミに証明していただきたい」

 

 

 

「「「え……?」」」

 

だが彼女の発言を、続くクルトの言葉が遮った。

 

「まもなくオスティアにて終戦20年記念の格闘大会『ナギ・スプリングフィールド杯』が開かれます。

 私の推薦で参加枠を一つ用意いたしましょう。

 そこで『六道リンネの弟子』だというキミの力を証明してください。

 キミと六道リンネを敵に回すくらいなら、協力した方が良いと思える力を。

 この大会で優勝できたのならば……私個人は全面的にキミに協力すると約束しましょう」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「……オイ、その代わり負けたら地球侵攻に協力しろなんて言うつもりじゃねぇだろうな?」

 

「いえいえ。かのサウザンドマスターの息子が、父の名を関した大会に参加する。

 そうなれば盛況と成功は約束されたも同然。開催地であるオスティアも大いに潤う。

 ひいてはそれを治める私の実績にもつながるわけです。

 ネギくんが参加してくださるだけで多大な利がある。失敗した時の条件を付けるつもりはありませんよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

(……よく言う。『ナギの息子が自分の手の中にある』と周囲に示すことが目的なんだろう?)

 

(……さて、なんのことだろうな)

 

(まぁいいさ。お前が手を貸してくれるならな)

 

(フン、大層な自信だ。

 ……アリカ様の遺児がどう成長したのか、見極めるとしよう)

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