『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第52話 挑み続ける者

 

「か、カカカカカカ、カモさん!?

 あれはいったいどーいうことですの!?

 ネギせんせ、ネギ先生がっ!?」

 

「お、おおお落ち着け嬢ちゃん!オボロロロロロ……」

 

「おやめなさい、あやか。それではカモさんが気を失ってしまうわ」

 

カモを握りつぶす勢いで掴み思いっきり上下にシェイクしていた委員長は、千鶴に諭されようやく彼を解放した。

だが今のネギたちの状態について尋ねたいのは彼女だけでなくこの場にいる全員だ。

白き翼の少女たちはもちろんタカミチに、『どうせなら一緒に観戦しよう』と言い出し同席しているテオドラたち3人も台の上に放り出されたカモを取り囲んで彼の言葉を待っている。

 

「ハァ、ハァ……ありゃ兄貴が昔姐御に教わった『フュージョン』っつう合体技だ」

 

「フュージョン……『融合』……まんまじゃん!」

 

「つうか合体技っつったら普通は『技』を『合体』させるもんだろ!

 『合体』する『技』ってそれもう技なのか!?」

 

「知らねぇよ。条件を満たしてさっき兄貴たちが見せたポーズをきっちり成功させると合体して強くなれるんだ。

 合体してる時間は30分、それが過ぎればまた二人に別れる」

 

「ではネギ先生はちゃんと元に戻りますのね!?」

「小太郎くんも!?」

 

「おうよ。しかもその強さは1足す1じゃねぇ。

 個人差や相性によるが数十倍にまで膨れ上がるって話だ。

 実際に技が成功したのを見たのはオレっちも初めてだが、姐御が言うだけあって嘘じゃなかったみてぇだな」

 

「すげぇじゃねぇか!そんな簡単に強くなれんのかよ!」

 

「ことはそう簡単じゃねぇんだリカードさんよ。

 この技は欠陥ばっかで、こんな大一番で使うなんざ大博打さ。

 ……まず、ポーズがカッコ悪くて隙だらけだ」

 

「「「うん」」」

 

「しかもその動きに少しでもズレや間違いがあると合体はするがむしろ弱くなっちまうらしい。

 そしてさっき『合体してる時間は30分』っつったろ?

 失敗しても30分は元に戻れねーんだよ。よわっちいまんまでな」

 

「……なんつーリスキーな」

 

「更に条件として、合体できる二人の体格やら強さやらが近くなきゃならねぇ。

 その『近い』ってのを具体的な数値にすると、『総合的な誤差が数パーセント未満』だそうだ」

 

「数パーセント!?そんなん双子でも難しいぞ!?」

 

「あぁ、普通なら肉体の差異や魔力の波長のズレだけでオーバーしちまう数字だ。

 だからそれらが『総合的に見ればわずかな誤差』になるくらいに本人たちの『強さ』を上げるしかねーんだよ」

 

「なるほど……総数を大きくすれば、どうしようもない部分の数字は相対的に小さくなると」

 

「んで、条件が満たせそうな強さがどのくらいかと言えば兄貴と小太郎くらいに体格やらが近いとしても『魔法使いの最高峰レベル』は必要ってわけだ。届いてなけりゃ仮にポーズが上手くいっても合体そのものができねぇ。

 つまりこの技は『自分より弱い奴がほとんどいないほど強く』て『体格やら何やらが似通っている上に強さまで互角の二人組』が、『失敗すれば弱くなるリスクを抱えながら』も『敵の前で隙だらけの動きを晒して』挑むもんなんだよ。

 ……使いどころがどこにあるってんだ」

 

「「「「「うわぁ…………」」」」」

 

「なもんで、オレっちはこの技のことなんざ完全に忘れちまってたぜ。

 もし覚えてたとしても……兄貴もよく踏み切ったもんだ」

 

説明をし終えたカモと説明を聞き終えた面々は再び窓に近づき試合を見つめる。

眼下では合体したネギと小太郎……ネギ太郎がラカンたちを滅多打ちにしていた。

確かにハイリスク極まりない技だ。

だがそのリターンもまたリスクに見合うものであった。

まともに戦っていればどれほど善戦したとしても、このような光景にはならなかっただろう。

観客たちもあまりに予想外の事態に歓声を上げるどころか言葉を失っている。

 

 

「ちっ、合わせろカゲちゃん!」

 

「承知!!」

 

試合は2対2のタッグマッチだが合体したことで相手は一人。

カゲタロウが大量の影の槍を、ラカンがアーティファクトで無数の刀剣を呼び出したった一人に殺到させる。

 

 

「手数でもオレには勝てませんよ!『狗神召喚・百一鬼夜行(101匹ワンちゃん大行進)』!」

 

 

ネギ太郎の足元から現れた狗神は小太郎が呼び出すそれよりも一回り以上大きく、白く輝くエネルギーを纏っている。

 

「アレが遊び相手だ!行ってこい!!」

 

『『『『『わぉぉぉーーーーーん!!!』』』』』

 

狗神はラカンたちからの攻撃をかみ砕きながら前へ前へと進んでいく。

何体かはダメージを受け送還されるが狗神たちが押し返す勢いの方が強い。

 

「なんとでたらめな!」

 

「カゲちゃん!」

 

「っ!?」

 

刃と狗神の激突に意識を奪われている内に、ネギ太郎がラカンたちの前に移動していた。

二人は合わせ技を放つために隣り合うほど近くにいて、ネギ太郎の両の掌にはそれぞれ白い光と黒い影が握られていた。

 

 

「『双掌・白雷/黒狼(お手&おかわり)』!」

 

 

「「ぐぉぁっ!!」」

 

腹に直撃を喰らった二人が再び吹き飛ばされる。

黒い方を受けたラカンは何とか立ち上がったが、白い方を受けたカゲタロウは雷撃で体がしびれて動けないようだ。

そのまま彼の上に生き残っていた狗神が殺到してのしかかり、やがて小さな山が出来上がった。カゲタロウはリタイヤと見做してよいだろう。

 

「……ガッカリですよ、ラカンさん」

 

「あぁん……?」

 

剣を杖代わりにして何とか立っているラカンを、少し離れたところにいるネギ太郎が見つめる。

彼の言葉通り、その眼には明らかに落胆の色が映っていた。

 

「へっ、確かにテメェらの強さは圧倒的だ。今のオレより遥かに強ぇ。

 ……だがそれほどの力だ。相応のリスクはあんだろ?」

 

「リスクは技を行使できる条件の達成と技に失敗する危険性。

 成功した今となっては時間制限くらいですよ。30分しかこの姿ではいられない」

 

「ふん……まだ20分近く残ってるわけか。その余裕も当然だな」

 

どう考えても勝てる気がしない。

こんな気持ちになったのは20年前の大戦で完全なる世界の首魁を見た時以来だった。

だがあの時とは違ってこれは決して負けられないわけでもないのだからと、ラカンは自嘲気味に笑う。

 

 

「何故貴方は成長していないんですか?」

 

 

「……んだと?」

 

「オレは……『僕』と『オレ』は大戦での貴方の活躍と映像を研究してきました。

 それから20年が経ち『更に強くなっているジャック・ラカン』を想定して、それを超えるつもりでこの戦いに望んだんですよ?

 落胆したのは力の差じゃない。『貴方が歩みを止めていたこと』だ」

 

「!?」

 

最強の男。

ナギが行方をくらましたことで彼の称号は不動のものとなっていた。

ラカンが放ったこの試合での最初の一撃は久々の全力だった。

……全力を出すことすら久々だったのだ。

 

「…………クハハ」

 

ネギたちに出会い彼らを焚きつけてから2週間、自分は何をやっていた。

そこで『六道リンネ』という『自分に勝る強者がいるらしい』という情報を得てもなお。

多少はできるようだが子供二人に敗れるはずもないなどと高をくくって、この体たらく。

『ウサギとカメ』?違う、今の自分は怠惰なウサギにも劣る。前に進もうとする意志すら持っていなかったのだから。

 

 

 

「ははハはハハハははハハは!!!!」

 

 

 

ふざけた話ではないか。

子供たちに対し『絶対に勝てない強者』のように振る舞い立ちはだかっておきながら、自分が逆の立場になった途端に勝ちを諦めるなど。

笑いが止まらない。自分の弱さと愚かさが、死にたくなるほど笑えてくる。

 

 

「ふぅーーーー…………目ぇ覚めたぜ。ありがとな」

 

 

「いえ。オレもこんなあっけない終わりは面白くないので」

 

「ハハ、本当にデケェ口と態度だ。

 だがそれも当然か。何しろオレの方が『挑戦者(チャレンジャー)』だからな」

 

杖にしていた剣を掲げたラカンが子供のような笑顔を浮かべる。

 

「今ので少し経って、あと15分ってとこか?

 生涯で最も濃密な15分になりそうだな……!」

 

「ええ。ですが耐えられると思いますか?」

 

「馬鹿言え!それまでに倒しきってやるぜ!!!」

 

震える足をしかりつけるように四股を踏んだラカンが、己の全てを振り絞って走り出す。

 

そして戦いが再開し、試合開始から30分が経過する寸前に。

 

 

『……勝者!ネギ・小太郎ペア!!』

 

 

力の差を覆すことはできなかった。

だがラカンは最後まで立っていた。

立ったまま笑顔で気を失っていた。

人々はその姿に偉大な英雄の覚悟と誇りを見た。

 

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