『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第54話 6年

 

「父さん……父さんが、本当に……!」

 

「……おぅ」

 

視線の少し先で震える、六道リンネとして振る舞いずっと共に暮らしてきた幼い息子。

だがこの姿で……父として彼と対峙するのは、これが初めてだ。

『待たせた』と言ったが、『待っていた』のはナギの方もだ。

だが実際に待ち望んでいた瞬間が来てみれば何を話してよいのやら……話したいことはいくらでもあったはずなのに。

細かいことを考えるのが苦手なナギは、だからネギの言葉と振る舞いと成り行きに任せることにしてただ待った。

 

 

 

 

「本当に父さんが『六道リンネ(マスター)』だったんですか!?」

 

「ぶぐへぁぁっ!?」

 

前のめりに倒れたナギの顔面が勢いよく地面にたたきつけられた。

 

「う……ぐぐ……!アスナぁっ!!」

 

鼻血を出しながら顔を上げたナギが闘技場の上のVIPルームの窓を見上げると、深々と頭を下げたアスナが体の前で両手を合わせていた。

 

「…………!」

 

そしてアスナの隣に一冊の本を掲げた『宮崎のどか』が、同じように頭を下げて立っていた。

 

「いどの、えにっき……!」

 

それは『読心』の力を持つアーティファクト。

名前を呼んだ相手の心をページとして出力する本。

 

魔法世界に来たのどかはこのアーティファクトを有効活用できる魔道具が存在していることを知り、クルトに頼んでそれらを手配してもらった。

仲間に協力してもらってそのテストを行う際に、不参加だったアスナの名前を無意識に口にしてしまい。

同じ部屋におらずともVIPルームという狭い区画にいる彼女の心を読むことは距離的に可能であり。

偶然麻帆良にいるリンネのことを考えていたアスナの情報がのどかの耳に響いてきて。

のどかの驚愕と狼狽を、ハルナと朝倉が見逃すはずもなく追求し。

 

のどかが人の心を読むアーティファクトを所有し、のどかが隠し事を苦手としている以上、誰か一人にバレた時点で芋蔓式になることをナギは理解しておくべきだった。

すでに『六道リンネ=ナギ・スプリングフィールド』という情報は白き翼の共通認識となっていた。

タカミチももちろん把握している。

リンネに直接会ったことがない魔法世界の関係者であるクルトとラカンとテオドラたちには流石に伝えていないが。

 

「……だぁぁーーーーー!もうグッダグダじゃねぇか!

 オレの6年間は何だったんだよチクショーーーー!!」

 

「6年……じゃあ、本当に……!」

 

 

 

「んで、ネギの親父さん、なんであんなことになっとったん?」

 

「詳細は後で奴自身が話すだろうから簡潔に説明すると、奴は肉体を奪われていてな。

 そこに現れた六道リンネという女が奴に自分の体を貸していたのだ。

 だが己がすでに死んだことになっており、自分に恨みを持つ人間も多いからと、元の体に戻るまではリンネの真似をすることにしたのさ」

 

「あー……アッチの過激な方が姐御本人なんか。

 別人みたいと思うとったがマジで別人やったんかい」

 

いつの間にか舞台の隅に移動していた小太郎とエヴァは完全に観戦モードであり、瓦礫の上に座ってネギたちを眺めながら駄弁り始めた。

 

「もうしばらくはあのままの予定だったが、お前たちがこちらでテロに巻き込まれたと知り慌てて動くことになってな。

 色々と予定を繰り上げることにしたのだが、計画では奴のネームバリューも必要だ。

 よって急遽元の体に戻ることになった。およそ2週間前のことだ」

 

「そないにアッサリ予定が変えられるっちゅーことは、その気になりゃいつでも戻れたんか?」

 

「あぁ。本人も一刻も早く戻りたがってはいた。

 だが長期のリハビリが必要になるので、ぼーやの周囲が不安定な内は離れられなかったそうだ。

 なので当分は戦いを避け計画に専念する予定だったが……こちらでお前たちが拳闘大会に出ていることを把握してな。

 奴が『どうせならそこで息子と向き合いたい』と駄々をこねたので、この茶番に付き合ってやることにした。

 以降はずっと魔法球に閉じこもり、今日と言う日が来るまで地獄のリハビリだ」

 

「1時間が1日で、1日が24日。

 んで2週間は14日やから……ほぼ1年やん!」

 

「それでもまだ全盛期には程遠いがな。

 そして我らは魔法世界に移動し、決勝を観戦していたのだ。

 相手がラカンならば奴の努力が無駄になるかと思ったが……見事だったよ」

 

「まぁ、ネギがフュージョンなんて提案せんかったら勝ち目はなかったやろな。

 いずれオレ一人でもラカンさんに勝てるくらい強くなってみせるわ。

 ……お、ナギさんがネギに突っ込みおったで」

 

「気恥ずかしいからと試合を再開して有耶無耶にするつもりだな。

 ……お前も私との戦いを再開するか?」

 

「やめとくわ。フュージョン抜きでアンタやラカンさんに勝てる思うほど自惚れとらん。

 それにアンタとなら散々やりおうとるし、今ここでやることに拘らんでもええやろ」

 

「賢明だな。では後は奴らに任せよう。

 ……オイ、お前も離れていろ」

 

『アッハイ』

 

雑談するエヴァと小太郎のすぐ後ろには、この大会の司会役である魔族の少女がいた。

彼女の握るマイクはオンのままであり、二人の雑談は彼女を通じて会場だけでなく、中継映像に乗って魔法世界全土に届いていた。

 

「そんなに怯えへんでも、エヴァさんは取って喰ったりせぇへんて。

 えぇ人やでこの人。オレもネギも散々世話んなっとるし、ナギさんとも仲えぇみたいやし」

 

『こ、小太郎選手たちは闇の福音とお知り合いなのでしょうか……?』

 

「知り合いも何も、ネギはエヴァさんが魔法の師匠やで?」

 

『えぇっ!?』

 

「あ、そういやエヴァさんてナギさんにホレとるんやろ?

 再婚したら師匠どころか、ネギの義理のおかんになるんか?」

 

「!?……ハハハハハハ!私がぼーやの『母親』か!

 なるほど、その考えはなかったが確かにそうなるな!」

 

「あー、いやでもなぁ……ナギさんとエヴァさんやと外見年齢と実年齢に差がありすぎてぷぺらっ!?」

 

「女の年齢に触れるな犬っころ。

 だが多少の差など問題なかろう。私ほどいい女もそうはおらんからな。

 己を裏切った男を15年間も想い待ち続けるなど誰にでもできることではあるまい」

 

『それって悪質なストーカーの一歩手前なんじゃ……ナンデモアリマセン!』

 

小太郎を殴り飛ばしたエヴァの右腕が再び持ち上がるのを見てすぐさま司会は姿勢を正して敬礼する。

小太郎は完全に意識を失っており、試合としてもダウン判定。

そしていつの間にか舞台のど真ん中ではボロボロのナギとネギが互いの顔面に拳を叩きつけたまま動きを止めており、揃ってその場に倒れ込む。

 

「……ワン、ツー、スリー……」

 

「負けて……たまるかぁぁぁああ!!」

 

委縮して動けない司会に代わりエヴァがカウントを取り始めると、20を数えきる前にナギが意地で立ち上がった。

ネギは立ち上がれず、このエキシビションマッチ、エヴァに言わせれば茶番の勝者はナギ・スプリングフィールドに決定した。

ラカン戦に備え急成長したネギとリハビリ途中のナギの実力はほぼ互角。

決め手は父親としての意地と戦闘経験、そして何より『体格差』。

子供と大人がクロスカウンターを決めれば、腕の長い方が深く刺さるに決まっている。

 

震える体でナギが拳を天に突き上げ、英雄の復活を魔法世界に知らしめた。

しかしそれはわずか10才の己の息子に顔面をボコボコにされた上での辛勝という、締まらない勝利であった。

 

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