『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第58話 

 

「だ、だだ、誰だよあのどえれぇ別嬪はぁっ!?」

 

「あ、姐御によく似てるけど……お姉さんとか?」

 

「違うネ。アレが『六道リンネ』サンの正体ヨ」

 

別室で中継を見て困惑していた白き翼の面々の疑問に、同席している超が答える。

 

「名を『ヒノカミ』。あの人は『人じゃない』。

 こことは別の平行世界から来訪した神様ネ。

 ナギサンに貸してたのは彼女が下界に降りる時に使てた仮初の体、端末ヨ」

 

「神様……って、何の神様なんですか?」

 

京都で目にしたリョウメンスクナノカミも鬼神であり神の一種。

日本には八百万の神がいるとされており、神と呼ばれる存在にもピンキリがあるのだと彼女らはすでに知っている。

 

「宇宙創生の神様ヨ。

 ガチで宇宙一つ作り上げて所有してるらしいネ」

 

「「「ぶふぅっ!?」」」

 

だが彼女らの予想に反し、ヒノカミはキリ寄りではなく思いっきりピンだった。

 

「んだそりゃあ!何でそんな奴がナギさんと一緒にいたんだ!?」

 

「……正確には、彼女を呼び寄せたのはネギ坊主らしいヨ」

 

「へ?僕?」

 

「小さい頃のネギ坊主は、『ピンチになったら英雄の父が助けに来てくれる』と思て危ないコトばかりしてたらしいネ?」

 

「うっ……は、はい。若気の至りで……」

 

「ヒノカミはでろんでろんに子供に甘いネ。

 だから助けを求める子供の声が自分のところに届いた瞬間この世界にきたらしいネ。

 そして悪魔の襲撃に居合わせ……後は皆も知てのとおりヨ」

 

「……は?そんな理由で宇宙作っちゃうような神様がネギくんのところに来たの?」

 

「……そんな理由で動いてしまうネあの人わぁ!!」

 

突如絶叫し、目の前の台の上に力の限り拳を振り下ろした超に全員が怯える。

 

「フットワークが軽すぎるんだヨォ!

 馬鹿みたいに力と存在のスケールがデカいから身じろぎするだけでその余波は天変地異の大災害ネ!

 なのに自分勝手で気軽に動くし、行動原理は徹頭徹尾誰かのためだし、結果的に皆を救てしまうから始末に負えないヨ!

 アレに比べたらナギサンもラカンサンもチワワのじゃれつきみたいなモンネェ!!

 ゲホッ、ゲホッ!……茶々丸ぅ!」

 

「はい。胃薬と水です」

 

「んぐっ、んぐっ……ぷはぁ。

 飲まなきゃやってられないヨちきしょー」

 

「超が荒れてるアル……」

 

「荒れてるのはワタシの胃壁の方ヨォ……」

 

まるで飲み屋で管を巻く酔っ払いのようにやさぐれでいる少女に、彼女のクラスメイトたちは何も言うことができなかった。

ナギの発言によるならば、彼女は12億人の人間が住まう魔法世界丸ごと一つを一人……いや一柱で背負える輩なのだ。

そんな存在が気ままに振る舞う有り様を間近で見続けていたのなら……その心労は察するに余りある。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「ただ儂に言わせれば、まだ『救い終えた』とは言い難いんじゃよなぁ」

 

別室のネギたちが騒いでいる内に自己紹介を終えたヒノカミが、半ば放心しているフェイトと要人たちに構うことなく話を続けていた。

 

「この世界の強度なら銀河系規模くらいの力が使えるからな。惑星一つ程度、儂にとって大した負担でもない。

 これからの発展を考慮しても数十万年どころか数億年でも片手間で維持できる。

 しかしこのままでは魔法世界が儂一人に依存することになる。

 万が一儂に何かがあれば崩壊するような状態では『救い終えた』とは言えぬ」

 

ヒノカミもこの世界にずっと滞在するつもりはない。

彼女がいなくとも維持できる世界でなくては意味がない。

だから当初想定していたヒノカミによる魔法世界救済計画の全容は、次の通りとなる。

 

まず魔法世界にいる実体を持つ人間6700万人を一時地球に退去させ、魔法世界を幻想体だけの状態にする。

これは魔法世界全体を領域で覆って選別し『書国漫遊』により強制転移させるので自主的に動いてもらう必要はなく、退去していてもらう時間も数分ほどでいい。

その数分の間にゲートを破壊して魔法世界を完全に切り離し、グレートスピリッツの権能で魔法世界を丸ごと自分の内側に保護。媒介として適した別の惑星に移動し、オーバーソウルで魔法世界を半実体化する。

これで魔法世界崩壊のタイムリミットは解消されるので、地球とのゲートを新たに設営し退去させていた住民をオーバーソウルになった魔法世界に戻す。

後は時間をかけて、『刻思夢想』と『不可死犠』を併用し半実体である魔法世界の全てを完全な実体へと再構成する。

以上である。

 

「が、お主らが予定より早くゲートを破壊しおったのでサブプランを採用するしかなくなったんじゃよ」

 

オーバーソウルの媒介として最上なのは火星であることは間違いない。

火星にそのままオーバーソウルすれば実体を持つ住人を退去させる必要はなく、一度魔法世界を己の内に保護する手間もかからず、媒介に使えそうな別の惑星を探して移動する労力もかからない。

だが突然火星に魔法世界が出現したら地球からも観測できてしまう。そして間違いなく社会は大パニックになる。

 

だからまほら学園祭の後、神霊ヒノカミはこの世界の銀河を飛び回り媒介候補となる惑星を探し続けていた。

超は葉加瀬と茶々丸にも協力してもらい、ヒノカミが送ってきた宇宙の情報を精査していた。

そしてどの惑星を新たな魔法世界の土台にするかを選別するために魔法世界の詳細な情報が必要であり、住民の一部を一時地球に避難させる際に生じる騒動を押さえるために魔法使いたちの協力が必要だったのだ。

これら諸々の準備にかかる時間として、1年を見込んでいた。

 

だが完全なる世界が再始動しいつ魔法世界が崩壊するかわからなくなったため、火星を媒介としてそのまま魔法世界を再構成する『最短スピードプラン』に方針転換した。

 

「流石の儂も、魔法世界が崩壊しては完全な再構成はできぬ。

 一度火星を媒介にしてオーバーソウルしてしまった以上これを解除して別の惑星に動かすのも難しくなってしもうた。

 だが今の魔法世界の造物主はヨルダではなく儂となっている。この意味がわかるか?」

 

「……『リライト』は、もう使えない……!」

 

「然り」

 

『黄昏の姫御子』を鍵とし、ヨルダの力によって魔法世界の理を書き換える能力『リライト』は計画の要だ。

これが封じられたとなると完全なる世界の救済計画の実行そのものが不可能となる。

『黄昏の姫御子』すらまだ手に入れていないと言うのに、これでは手に入れたところで何もできない。

 

「だがまだ、お主らの計画の遂行も不可能ではない」

 

「……なんだって?」

 

「まだ魔法世界は完全に実体化されてはおらぬ。

 故に儂がオーバーソウルを解除すれば魔法世界は再び幻想へと戻る。

 ……つまり、お主が『完全なる世界』の計画を完遂したいのならば」

 

 

 

 

「儂を倒せばよい」

 

「…………!」

 

宣言と同時に放出された銀河系すら掌握するという女神の神気を真正面から受け、前のめりに立ち上がっていたフェイトは崩れ落ちるように脱力し座っていた椅子に体を預ける。

人形のように無表情な彼でも明らかにそうとわかるほど、彼の心は折れてしまっていた。

 




別の惑星にオーバーソウルする他にもいくつかのプランがありました。
その一つは、幻想である魔法世界をヒノカミの世界に持ち込むというもの。
彼女が所有する宇宙ですから、誰にも迷惑かけませんからね。
ヒノカミも自分の世界なら当然全力が出せるので何があっても対処できるし。
幻想体はグレートスピリッツであるヒノカミの中に入れれば世界移動も可能です。
ですが実体のある人間は連れていけないので却下となりました。
メガロの住人が悪党ばかりだったならともかく、善良な一般人も多くいるため彼らを現実の火星に置き去りにすることになるので。
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