『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第61話 千年

 

「ふざけるな……ふざけるな!

 『救われたい』と、『幸せになりたい』と願っておきながら与えられた幸福を拒絶するだと!?

 強欲に全てを求めておきながら今度は『何もかも思い通りになるのが嫌』だと!?

 一体何様のつもりだ!!」

 

「人は『自由』と『達成感』に幸福を感じる生き物じゃ。

 故に彼らは時として、定められた楽な道を歩くのではなく苦難に満ちた道なき道を切り開こうとする。

 だから我らは彼らが踏み出す世界の大地をこしらえてやることしかできんのじゃ……歯痒くはあるがな」

 

「そこまで……そこまで愚かなのか、人は!!」

 

「人は愚かだからこそ人よ。そして矛盾に満ちている。

 不幸を体験せねば幸せを理解することができず。

 新たな刺激を求める癖に未知に恐怖し。

 怠惰でいたいと望みながら与えられるだけでは満足せず。

 進化により理性と知恵を手に入れたのに……畜生にも劣る愚行を幾度も繰り返す」

 

「~~~~~!」

 

「『そんな種族は滅びた方が良いのでは』、そう考えたな?

 じゃが無駄じゃ。時が過ぎれば別の獣が進化しまた新たな人類種が生まれる。

 別の惑星や平行世界にもいくらでも人類は存在する。

 この太陽系に住まう全てを滅ぼしたところで何も変わらんよ」

 

「くっ……そぉぉぉ……!」

 

「『完全なる世界』により救われる人間は、確かにいる。

 だがそれは一部でしかなく、緩やかな安楽死でしかない。

 全ての人間に永遠を与えるようなものでは、決してないんじゃ」

 

これが圧倒的な力を持って生まれたただの勝者であるならば、ヨルダは聞く耳を持たなかっただろう。

だがヒノカミが人から神に変じた存在であることを、ヨルダは知っている。

誰よりも弱くて、誰よりも不幸で、誰よりも負けず嫌いだっただけの凡愚であり生まれながらの負け組。

ヨルダが定義した『救われるべき弱者』に当てはまりながら、ヨルダですら気が遠くなるほどの長い時間をかけて、ついに頂にまで這い上がり神となった人間。

今ヨルダが借り受けている肉体こそが、ヒノカミが人であった証だ。

 

だからこそヒノカミの言葉には無視できない重みがある。

彼女の言葉は栄光しか知らぬ空虚な勝者の戯言ではなく、敗北の苦痛を伴う経験者の金言だ。

感情に任せてただ拒絶すればその先には、彼女が経験した失敗が待っている。

そしてヨルダはヒノカミの意見を覆す言葉を持っていなかった。

納得し……敗北を受け入れてしまったのだ。

 

 

 

「……なぁ、ちぃといいか?」

 

そこで聞くに徹していたラカンが手を上げる。

先ほどのヒノカミの発言に、どうしても聞き逃せない単語があったからだ。

 

 

 

「『別の惑星に人類』ってこたぁ、つまり宇宙人っていんのか?」

 

「「「「「あっ!?」」」」」

 

 

 

「あー……この場で言うことでもないと思ったが、まぁえぇか」

 

立ち上がっていたヒノカミはゆっくりとまた椅子に座る。

彼女の後ろでナギとエヴァが顔に手を当て俯いていた。誰にも視線を合わせずに済むように。

 

 

 

「先ほど、本当は火星とは別の星に魔法世界を移す予定と言うたじゃろ?

 儂はその候補を探すために先日まで宇宙を飛び回っとったわけじゃが」

 

「まさか、そこで見つけたというのですか!?太陽系の外に、人類を!?」

 

流石に黙ってはいられないとクルトたちも立ち上がり声を上げる。

 

 

「うむ。銀河中心方向に六千光年ほど行ったところで……」

 

「「「六千光年!?」」」

 

 

 

「巨大銀河帝国をな」

 

「「「……銀河帝国ぅっ!?」」」

 

 

 

ヒノカミが掌を叩き、円卓の上に映像を映し出す。

 

「数千光年規模の領土を持ち、数百万年以上の歴史を誇る大帝国らしい。

 その領域外周部を巡回する艦隊と遭遇してな」

 

映像では小惑星に匹敵するサイズの巨大戦艦が宇宙に群れをつくっていた。

 

「礼儀と思い挨拶に向かうと、歓待を受けてな。

 どうやら儂が力ある神と察したらしい。通信越しに皇帝とも対話した。

 話も弾んで、『是非直接お会いしたい』と本星にも招待されたんじゃ。

 『今は辺境惑星で仕事中だから』と断ったが」

 

「皇帝の誘いを……ことわっ……!?」

 

「オイそれこっちに飛び火してこねぇだろうな!?」

 

「中々の豪傑じゃったよ。そんなに狭量ではあるまい。

 んで、しばらくこの太陽系には手出しせず見守ってほしいと頼んだ。

 まだ外宇宙への進出すら済ませておらぬ未開文明じゃからとな。

 皇帝は快く了承してくれたんじゃが……」

 

「……な、なんじゃ。止めるでない!一体何があった!?」

 

 

 

 

「『ならば千年後にこちらから足を運ぼう』と、皇帝自身が、な」

 

 

 

 

「「「「「……なんだとぉっ!?!?!?!?」」」」」

 

「そのくらい経てば外宇宙に進出するくらいには発展するだろうから、皇帝旗艦含めた主要艦隊総出で挨拶にいくとな。

 その時に太陽系人類と良好な関係が結べそうならば、是非友好国として共に歩みたいそうじゃ。

 ……だがあ奴は明言しなかったが、逆にこの宇宙の害となる野蛮な民族と見なされた場合は」

 

「ば、場合は……!?」

 

 

 

 

「監視下に置くため武力制圧で属国化じゃろなぁ」

 

 

 

 

「「「「「ふざけんなぁーーーーーーーーーっ!!!!!!」」」」」

 

悲報。地球圏の命運、あと千年。

 

「嘘でしょう!?嘘って言ってちょうだい!!」

 

「儂は冗談や誤魔化しは言うが、嘘はつかんぞ」

 

「じゃあ本当に……テメッ、何てことしてくれやがったんだぁっ!」

 

「何を言う、明確なタイムリミットが定まった分マシじゃろ。

 儂が動かねばもっと早くに、抜き打ちで彼らがここに辿り着いていた可能性すらあったんじゃぞ?」

 

「ち、ちなみにだが……お主の眼で見て、今の魔法世界はセーフか!?」

 

「そりゃアウトじゃろ。後先考えず資源を浪費して世界一つ食い潰す寸前まで行った連中がセーフなわけあるかい。

 無論、地球の方もな」

 

「……仮に属国にされたら、人々はどうなるのです!?」

 

「ふむ……一般市民はむしろ環境が良くなるかもしれんな。

 彼らの進んだ文明の恩恵が受けられるわけじゃし、衣食住は保証されるじゃろ。

 既存の組織の枠組みは軒並みぶっ壊されて誰も彼もが等しく平民になるじゃろうが」

 

「「「「「ひぃぃぃぃぃっ!!!!」」」」」

 

あと千年。『まだ千年』などとは言えない。長命種の多い魔法世界では『わずか千年』だ。

迫り来る審判の日までに魔法世界と地球の民度を彼らが満足するラインにまで押し上げられなければ、国家も宗教も団体も全て平定され消滅する。各々の組織の長であるこの場の面々には死活問題どころではない。

円卓の上の映像に映る圧倒的戦力が巡回警備隊に過ぎず、千年後に訪れるのが皇帝率いる本隊だというなら武力による抵抗は無意味。

そして更に恐ろしいのは、それほどの力を持つ帝国が出会った瞬間に襟を正して誠実に対応しようとするほど目の前の神が『ヤバイ』という事実。

おそらく彼女は少なくとも……少なくとも帝国軍全戦力に比肩する力を持っているのだ。

 

「あ、言っとくが儂はお主らの肩を持つような真似はせんぞ。

 彼らの統治は今の魔法世界よりもよっぽど真っ当なもののようじゃしな」

 

「「「「「ちくしょぉーーーーーーーーーーっ!!!!!」」」」」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「ヒャハ、ヒャハハハハハハ!!

 思い知ったか世界ィ!コレが『ヒノカミ』さまヨォ!

 貴様らもワタシと同じ絶望と苦痛を味わうがいいネェ!!

 アァ~~~~ッハッハッハッハァ!!!」

 

 

 

「超が壊れたアル」

 

「協力してたってことは、ちゃおりんはコレ知ってたんだよね?」

 

「そりゃ胃も心も荒れ果てるわ」

 




ちなみに銀河帝国はUQ最終話にて言及されている原作設定です。
そちらでの会合はネギま原作の時代より1万2千年後でしたが、ヒノカミのせいで大幅にフライングすることが決定しました。

次回、本章最終話となります。
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