『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

679 / 786
第3話

 

ギャラルホルンのモビルスーツ3機は全て捕獲し、モビルワーカーは撤退した。

対してCGSの被害は建物の至る所が破壊され、衝撃や崩落に巻き込まれた子供たちから怪我人が出た程度。

モビルワーカーに乗って戦闘に参加した者たちにも相応の被害は出たが、重傷者や死者まではいない。

 

「言いたかねぇが、こんくらいで済んだのは幸いだな」

 

「……じゃな」

 

外から敷地内を見渡しマルバとヒノカミが呟く。

彼らの傍にはフミタンに連れられたクーデリアが立っている。

 

「あ、あの……?」

 

「……お嬢さんにも話しといた方がいいよな?」

 

「仕方あるまい……はっきり言おう。儂らはお二人が来た直後に今のこの展開を予測できていた」

 

「!?」

 

クーデリアの支援者『ノブリス・ゴルドン』は火星の武器商人だ。

行動理念は己が儲かるか否かしかない、血も涙もない男。

奴が理由もなく火星独立を目指すクーデリアを支援するはずもない。

虐げられる民衆のため?寝言でだって口にしないだろう。

 

奴は武器商人。儲かるには武器を売る必要がある。人々が武器を必要とするのは、争いが起きるとき。

例えば……『火星独立を掲げる旗頭が殺害される』なんて状況になれば、民衆は怒りに燃え武力での反乱に踏み切るだろう。

そうなればこの世界の治安維持組織であるギャラルホルンは大手を振って武力による鎮圧に踏み切る。

結成から300年、平和な世が続きその存在意義が問われているギャラルホルンにとって久しぶりに自身の存在意義を示す絶好の機会だ。

特に火星支部は実質ギャラルホルンの左遷先。地球に戻りたがっている支部長のコーラルには喉から手が出るほど欲しい功績だ。

 

「ではこの襲撃は!?」

 

「CGSにお嬢さん方がいらしたその日の夜にこの有様。

 間違いなくギャラルホルンに情報を漏らした奴がいる。

 もしアンタが今日の日程をノブリスに伝えていなかったとしたら……」

 

「お父さま……!?」

 

「クリュセ独立自治区代表、ノーマン・バーンスタイン。

 アレはギャラルホルンとずぶずぶらしいからのぅ。

 ノブリスと結託したコーラルが奴に共謀を打診した可能性は高い。

 ……受け入れがたいとは思うが」

 

「そんな……では、わたくしのせいで皆さまが……!」

 

「「…………」」

 

この期に及んでも己ではなく他者の身を案じるとは。

世間知らずではあるが、その高潔さは間違いなく本物だ。

民衆が『革命の乙女』ともてはやすのも無理はない。

 

「其方のせいではない……ふがいない儂ら大人のせいじゃ」

 

「え……?」

 

「其方のような子供が声を上げねばならぬ状況。

 それをおかしいと思わず担ぎ上げる大人たち。

 理解しておきながら未だ何もできずにいる儂ら。

 悪いのは全部儂ら大人じゃよ」

 

「それに、ウチだけでも同じ状況になる可能性はあったからな。

 ノブリスの狙いに気付いたのも備えてたからだしよ」

 

CGSは警備会社としての信用はまるでないが、『何でも屋』としてならクリュセの住民から多大な信用を得ているからだ。

街の浮浪児を積極的に引き取っているだけでも街の治安維持に貢献している。

しっかりと躾を受け読み書き計算を学んだ少年少女たちは、人手不足の際に頼れる安価な労働力。

その能力を見初められ、CGSを離れて一人立ちし、街で正式な従業員として働いているOBもいる。

メカニックの雪之丞の腕を見込んで『壊れた機械を修理してくれ』と依頼されることも多い。

そしてヒノカミはCGS副社長であると同時に医者でもある。

多少の怪我なら医療ポッドに入れれば回復するが病はそうはいかない。

貧乏人ばかりの火星では医者自体が希少だ。昼夜問わず駆け込みがある。

故にCGSがいなくなるとクリュセの治安は確実に悪化するのだ。ギャラルホルンによって力づくで排除されたとなれば、市民の反乱にまで至る可能性は低いがゼロではない。

 

慰めているのではない。これは懺悔。

だがそれを聞くクーデリアは未だに目を見開いており、そしてヒノカミを見つめ呆然と呟く。

 

 

 

「……え?『大人』?」

 

 

 

「ぐぼぁっ!?」

 

「「「ぶふっ!」」」

 

「「ギャハハハハハハハハ!!!!」」

 

ヒノカミが崩れ落ち膝をついた。一切の悪意のない若者の言葉は時として年寄りの心を傷つける。

 

「……ハァ」

 

「やっぱバカだよね、シノって。今回はユージンもだけど」

 

「ハハハハあぁん!?んだと三日づ……き……?」

 

目を閉じ深々とため息をつく昭弘。爆笑する二人に呆れる三日月。

そして側頭部にあった鬼の仮面を正面に移動させて再起動するヒノカミ。

 

 

「「ぎぃやぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」

 

 

即座に逃げ出したシノとユージンは、しかしヒノカミの左腕から伸びた帯に足をからめとられ、そのままずるずると引きずられ屋内へと消えていった。

 

「学習しねぇなぁ、あの馬鹿ども」

 

「すんません、社長」

 

「え?え?」

 

「姐さんは大人だよ。実年齢はオレたちも知らないけど、確実に30は超えてる」

 

「っ!?も、申し訳ございません!!」

 

ヒノカミは己の容姿が幼いことを自覚している。

だから何も知らぬ相手から子供と思われてもショックを受けるだけでやり返すようなことはしない。思わず吹き出してしまった者も、抑えようと努めていたのなら睨むくらいはするが手までは出さない。

だが憚ることなく笑いものにする輩は許さない。

お調子者とうっかり者の二人は今回も彼女の逆鱗に触れ医務室の奥……別名『拷問部屋』へと運ばれていく。

怪我をして先に医務室に運び込まれていた子供たちはヒノカミたちを見ても『またか』とすぐに目を逸らし、助けを求める二人の視線を無視した。

 

 

「「うあ”あ”あ”あぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

 

防音壁を超えた断末魔の叫びが、半刻ほど響き渡った。

普段より短いのは他にけが人がいたので彼らを慮ってのことだった。慮ってコレである。

 

相棒が馬鹿をやっている内に、マルバはビスケットから受け取った襲撃の一部始終の記録映像を確認・編纂しギャラルホルン火星支部へと送り付けた。

『期日までに正式な謝罪と賠償がない場合、この映像を公開する』と添えて。

尤も、返事が来るとは思っていない。あくまで牽制、そして次の襲撃までの時間稼ぎだ。

絶対の正義を掲げる連中が非を認めることなどあり得ない。例え公開されても偽造だと突っぱね続けるだろう。

それが腐敗しきったこの世界の治安維持組織、ギャラルホルンの実態である。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。