『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第4話

 

被害の確認と今後の話し合いが一通り済み、まもなく夜が明ける頃。

 

「後回しにしてすまんな。不都合はないか?」

 

「「…………」」

 

ヒノカミはCGSの一室に軟禁していたグレイズのパイロット2名、クランクとアインに面会した。

最初は隊長機に乗っていたオーリスという男も同室だったのだが己の置かれた状況も理解せず傲慢な態度でひたすら怒鳴ってくるので、監視役だったライドとタカキが辟易し、許可を得て彼一人だけ倉庫の奥に押し込めた。

 

「この声……貴様がさっきの女……?コイツも、子供!?」

 

「違うな。彼女は大人だ。少なくともその精神は」

 

「いかにも。儂はこのCGS副社長を務めておる、ヒノカミじゃ」

 

青年のアインはヒノカミを見た目で侮ったが、壮年のクランクは容姿ではなく彼女の目を見て察した。

初見で気づいてくれるものは少ないのでヒノカミから彼への印象が結構ガッツリ上方修正された。チョロい。

 

 

「さて、ではいくつか聞きたいんじゃが……」

 

「その前に答えろ。貴様は何故子供らを戦場に連れ出した!」

 

「ふむ……?」

 

椅子に座って対面するヒノカミに、クランクは自分が捕虜だとわかっていても力の限り叫ぶ。

 

「子供は……守られるべきものだろう!?

 大人の戦争に巻き込まれ犠牲になるなどあってはならない!!」

 

「…………」

 

「てめぇ、オッサン!攻めてきたくせに何ふざけたこと言ってやがんだ!

 それにオレたちは自分の意志で、社長や姐さんの力に!」

 

ヒノカミが手を広げ、彼女の後ろに立っていたライドを制止した。

隣にいたタカキがライドの肩を押さえ引き下がらせる。

 

 

「その通りじゃな」

 

「……何?」

「姐さん!?」

 

「静まれライド。彼の言うことは何も間違っておらぬ」

 

「そんなことねぇよ!姐さんたちが拾ってくれなかったら今頃俺らは飢え死にしてた!

 住む場所と仕事をくれたんだ!こんな口先だけの奴の言うことなんて!!」

 

「違う。子供に仕事をさせとること自体がおかしいんじゃ。

 まして武器を持たせ戦力として数えるなど、ふがいないにもほどがある」

 

「お前は……!」

 

子供たちの前で見せかけのポーズを取っているのではない。心からの言葉だった。

彼女もまた子供らの未来を憂う者と察し、クランクは姿勢を正し頭を下げた。

 

「……失礼した。暴言を撤回させていただきたい」

 

「いや、忠告感謝する。

 最近はオルガやユージンも儂らを持ち上げるばっかりでな。

 正面切って言ってくれると己がまだまだだと痛感できる」

 

「……先ほど、この会社は子供ばかりだと言っていたが……事実か?」

 

「うむ。ここは事実上クリュセの孤児院じゃ。

 警備会社ではあるが街への人材派遣を主な収入源としておる。

 そのまま巣立って欲しいんじゃが街でも満足に仕事がなくてな。

 放り出すわけにもいかずズルズルと、大半はそのままウチに就職する形となり……こんなヤクザな仕事はさせたくないんじゃがなぁ」

 

「ならば警備会社なぞやらねばよかろう」

 

「治安の悪い火星では、やはり武力がなければ子供らを守れない。

 兵器を所有するなら警備会社を名乗った方が手続きやらの面倒が少ないからな。

 これもまた、ふがいないながらもやむを得ずと言ったところか」

 

「……なるほどな」

 

その気になれば、ヒノカミはいくらでも金を稼ぐことができる。いくらでも浮浪児たちを匿い養うことができる。

だが治安の悪い火星で羽振りが良いところを見せれば間違いなく悪党どもに襲撃されるだろう。何しろ治安維持組織であるギャラルホルンがその候補に挙がるという有様だ。

そして今のヒノカミには全てを守り抜く力がない。今抱え込んでいる人数でもすでに限界を超えている。

強力な兵器を作り出せば敵を滅ぼすことはできるが、その力を奪おうとする輩により新たな争いが引き起こされるだろう。そして多くの人が死に、多くの孤児が生まれることになる。がんじがらめだ。

 

「では、そろそろこちらからも伺いたい。

 コーラルがここまで短絡的な行動に踏み切った理由はなんじゃ?」

 

「…………」

 

「クーデリア嬢を殺害することで火星の民に反乱を起こさせ、それを鎮圧することで功績を得る。そこは理解しとる。

 おそらくノブリスの奴からの支援も受けておるじゃろう。

 あとはノーマン・バーンスタインからもか?」

 

(そこまで読んでいるのか……!?)

 

「だがあまりにもお粗末が過ぎる。焦りすぎている。

 奴を駆り立てたものはなんじゃ?」

 

ギャラルホルンの一員としては、当然沈黙が正しい。

拷問にかけられても口を割ってはならない。それが軍人として正しい姿だ。

 

 

「……まもなく地球からの監査が来る」

 

「クランク二尉!?」

「ほぅ」

 

だが彼は答えた。

敬愛するクランクに任せここまで沈黙を貫いていたアインも驚いて声を上げる。

 

「コーラル支部長はそちらの把握しているとおり、方々の組織や人物と癒着している。入念に調べればすぐに露見するだろう。

 今までは監査の相手にも賄賂を渡してごまかしていたが、今度やってくる人物はギャラルホルンでも重役らしくその手は使えない。

 故に、監査が来る前に功績を立てる必要があった。

 ……革命の乙女の身柄を押さえることができれば統制局からの覚えはめでたいだろうな」

 

「聞いといてなんじゃが、あっさり話すな」

 

「『口先だけの奴』にはなりたくないからな。

 いや、結局口にするだけであるのだが。

 ……少年、先ほどは済まなかった」

 

「お!?おぅ……」

 

「それに、クーデリア嬢も子供だ。俺はそんなことすら気付かなかった。

 いや、見ない振りをしていたのかもしれん。

 ……この暴露は俺個人の暴走によるものだ。

 アインには一切の非がないことを証言してもらいたい」

 

「あいわかった。タカキ、オーリスとやらから同じ証言を取るようオルガに伝えよ。

 ただしクランクが漏らしたとは絶対に口にするな。

 全部オーリスが漏らしたことにする予定じゃからな」

 

「わかりました」

 

「……ふん、とんだ狸だな」

 

「げらげらげら。儂は嘘はつかんが隠し事はする。

 これくらい強かでなければ子供らは守れぬよ。

 ……まもなく夜が明ける。望むなら朝食を用意するが?」

 

「かたじけない。お言葉に甘えさせていただく。

 アインも、それでいいか?」

 

「はっ、クランク二尉!」

 

引き続きライドとタカキに監視を任せ、ヒノカミは退室した。

間もなくオルガより、オーリスから同じ証言が得られたと報告があった。カマをかけたら一発だったらしい。

よってヒノカミは翌朝、クリュセの方々に人材派遣……事実上バイトに向かう子供たちに要請する。

 

「昨晩の轟音は街まで届いておるじゃろう。

 店主や客から尋ねられたら『CGSはギャラルホルンから襲撃を受けた』と正直に話せ。

 ただしクーデリアがここにいることは決して話すな」

 

「「「はいっ」」」

 

「おい、オレがギャラルホルンに送ったメールの返答期限はまだ先だぞ?」

 

「『映像を公開する』わけではないからセーフじゃろ。

 所詮は子供の噂じゃからな」

 

「……ったく、あくどい奴だぜテメェは」

 

CGSには僅かだが、ほんの僅かにだが内乱の引き金となる可能性を秘めている。

クーデリアの存在を隠しても、コーラルが動く理由がある。それだけで十分だ。

CGSの社員の子供たちが口にした話はあっという間に街中に広がり。

当然、火星に降りて来た監査の耳にも届く。

 

 

「失礼。CGSとはこちらで間違いないかな?」

 

 

襲撃から数日後。

ギャラルホルンの紋章を掲げた車に乗った身なりの良い二人の青年がCGSを尋ねて来た。

 

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