マクギリス・ファリド。
ガエリオ・ボードウィン。
CGSを訪れた二人の青年はギャラルホルンの中核をなす7つの名家、ファリド家とボードウィン家の御曹司だった。
(なるほど、セブンスターズ相手ではコーラルも成す術無しか)
彼らセブンスターズはこの世界において、絶対者と呼べるほどの権力を有しているのだ。
仮に賄賂に応じる俗物だったとしてもコーラルが用意できるような二束三文で動くはずもない。
それに二人とも目を見る限り、清廉潔白とまではいかないが濁り切ってはいない。
「なんだここは、子供ばっかりだな。本当に警備会社か?
……ま、いいさ。とにかく話ができる大人を連れて来てくれ」
「儂がその大人です。少なくとも、お二人よりは年上かと」
「いぃっ!?」
「それは失礼をした。お名前を伺ってもよろしいかな?」
「CGS副社長を務めておる、ヒノカミと申します」
「…………『ヒノカミ』?」
「ご用件は、噂についてでしょう?どうぞ応接室へ。
ビスケット、彼らを連れ出しておいてくれ」
「はい」
(クーデリアには、奥に隠れておくようにと)
(わかっています)
車を降りて歩く途中、大穴が開いた演習場や壊れた建物は当然彼らの目に入る。ここで戦闘があったことは間違いないと伝わっただろう。
改めて監査の二人にギャラルホルン火星支部からの襲撃があったことは事実であると断言。
その証拠となる戦闘記録映像と、オルガがオーリスから聴取した際の映像を併せて提出する。
「……確認させていただいた。ギャラルホルンの一員として、謝罪させていただく」
「幸いにも死者は出なかった。損害を補填していただけるのであればそれ以上は望みませぬ」
「やれやれ……いくら地球の目が届かないからってここまでやるとはね。
これでオレたちをごまかして乗り切ろうってんだから、見くびられたもんだ。
……だが尋ねたい。この四つ足の機体はなんだ?」
「自社製のモビルワーカーです」
「いやこれがモビルワーカーは無理があるだろ……」
「リアクターは積んでいないし人の形をしていないからモビルスーツではない。
AIによる無人操縦ではないからモビルアーマーでもない。
であれば、モビルワーカーでしょう?」
「…………」
「確かに他に分類はないが……だがモビルスーツ並の戦力のモビルワーカーなんて常識外れだ」
「陸戦に特化させたからこその性能です。製造コストも決して安くはない。
モビルスーツを用意できぬ弱小企業の苦肉の策ですよ。
宇宙をまたにかけるギャラルホルンで運用するにはあまり適しておらぬかと」
「いえ、実に興味深い。是非現物を拝見させてはいただけないだろうか」
「かしこまりました。お預かりしているグレイズも合わせて確認していただければ」
こうなるとわかっていたから隠しておきたかったのだが、バクゥを使わずモビルスーツを撃退するのは間違いなく不可能だった。
幸いにもガエリオという青年はお坊ちゃんのようだ。強権を振りかざして取り上げようとはしないだろう。
微笑を浮かべじっとこちらを見ているマクギリスという方は、油断ならないが。
二人の青年を連れてドックへ向かうと、雪之丞がマルバと話をしていた。
「おう、ヒノカミ」
「ご紹介させていただきます。こちら我が社の社長、マルバ・アーケイ」
「ようこそお越しくださいました。
汚ねぇ場所ですが、ゆっくりしてってください」
「ギャラルホルン、マクギリス・ファリド特務三佐です」
「ガエリオ・ボードウィンだ。……そっちは?」
マルバと雪之丞の向こうにはギャラルホルンの制服を身にまとった大人がいた。
「クランク・ゼント二尉であります」
「アイン・ダルトン三尉です!」
「なるほど、キミたちがこのグレイズに乗っていた……」
「この二人は命じられていただけ。謝罪も受け取りました。
数日ですが、償いとして雑務もいくつか。どうか両名に寛大な処置を。
ただオーリスという指揮官は……ビスケット、アレはどうした?」
「相変わらずわめいてばっかで、話にならなくて……。
ギャラルホルンの人が迎えが来たと言っても『だったら連れてこい』と」
「……お二方、少々灸をすえてもよろしいでしょうか?」
「ハァ……存分にやってくれ。
先ほどの証言を見る限り、ソイツもコーラルと一緒で真っ黒だろうからな」
「ありがとうございます。
マルバ、何人か連れていってこい。相当鬱憤溜まっとったじゃろ?」
「そうさせてもらわぁ。ビスケット、ついてこい。
あとオルガと三日月と昭弘とシノとユージンに声かけるぞ」
「フルメンバーじゃないですか……」
オーリスは無駄飯喰らいのくせに『不味い』『量が足りない』と食事に文句ばかり言ってくるし、八つ当たりで会社の備品もかなり壊されている。
ギリギリの経営を続けているCGSには僅かな出費も胃痛のタネだ。マルバの憤りは当然である。
まぁ、ビスケットも嬉々として参加する気だが。
CGSの社員の食事には、彼の妹たちが働いているサクラ農園で取れた野菜の規格外品を融通してもらっている。
それをけなされたのは彼としても腹に据えかねているので。
ヒノカミと雪之丞がバクゥのスペックやグレイズの状態を説明をしながらしばらくすると、ボッコボコに顔面を腫らしたオーリスがCGSの子供たちに引きずられてやってきた。
これほどの目にあっておきながら地面に投げ捨てられるや否や恨み言を絞り出すのだから、その根性はもはや称賛に値する。
だが彼を冷たい目で見下ろす二人の青年がギャラルホルンの人間、しかも地球から監査に来たセブンスターズの御曹司と気づきようやく青ざめ静かになった。
聞きたいことは聞けたと、マクギリスたちはクランクたち3人を連れて帰っていった。後部座席は二つだったので、ボロ雑巾のようになったオーリスはトランクルームに強引に押し込められた。
グレイズは後日改めて受け取りに来るという。賠償金もその時に用意するとか。
仮にもセブンスターズの次期当主。ここでケチるようなことをすれば沽券に関わるだろうから相応の額が期待できるだろう。まぁ火星支部の予算から絞り出すんだろうが。
「これでギャラルホルン火星支部が乱れてくれれば、動きやすくなるんじゃがな」
「お嬢さんの依頼を受けるなら、か……本気でやんのか?」
「ハイリスクじゃが、リターンも大きい。火星の自治権はそれほどの価値がある。
それに送り届けるだけなら徹底的に忍べばなんとかなる。
何より、困っている子供を見捨てないのはウチの社是じゃろう?」
「テメェが勝手に言ってるだけだろうが。
なんにせよお嬢さんが立ち直れば、だがな」
そして数日後、再びマクギリスがCGSにやってきた。
ただし同行者はガエリオではなくクランクとアイン。
しかもなぜか先日とは違い、ギャラルホルンの紋章もない普通の車だ。モビルスーツの受け取りに来た様子でもない。
半ば押し入るように応接室に入った彼は、クランクたちを背に立たせマルバとヒノカミに向き合い、口を開く。
「単刀直入に申し上げる。
CGSに、クーデリア・藍那・バーンスタインの護衛任務を引き受けていただきたい」