『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第8話 『鉄華団』

 

「というわけで、儂はCGSを辞めることにした」

 

ヒノカミは己が300年前の英雄であることは明かさず、自分が隠し持っていた強力なモビルスーツを使えば一人でクーデリアを地球まで送り届けられるから依頼を受けたと告げ、社員である子供たちの前で辞職を宣言した。

 

「待ってくれよ姐さん、そいつぁオレたちが足手まといってことか?」

 

「そんなわけがあるか。儂とマルバが手ずから育てた貴様らが無力なはずがない」

 

「だったらオレたちも連れてってよ」

 

「そうだ!オレはまだ姐さんに恩を返せてねぇ!」

 

「クーデリアさんが火星独立のために戦おうとしているのなら、僕らにも無関係じゃないですよ!」

 

「戦う覚悟も命を懸ける覚悟も、とっくにできてらぁ!」

 

「お主らの決意も覚悟も実力も、疑ったことはない。

 ……だが他の子供らはどうなる?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

CGSには大勢の孤児たちがいる。

オルガらもまだ未成年だが、彼らよりももっと年下の子供がいて中にはまだ言葉も話せないような赤子すらいるのだ。当然彼らは戦えない。

そしてマクギリスから明かされた情報により、ギャラルホルンとの衝突は避けられないと確定した。

CGSに所属したままでは会社全体がギャラルホルンに敵視されることになる。

だからヒノカミはCGSを辞めなければならないのだ。

そしてたとえ依頼を完遂したとしても、もうCGSに戻ることもできない。

 

「クーデリア嬢が地球での交渉を成功させれば火星の治安も改善する。

 そうなればもう儂の手がなくともお主らだけでやっていけるじゃろ」

 

「……姐さんはそれからどうするんスか?」

 

「ん-、まぁ適当にフラフラして、適当なところで姿を消すさ」

 

「っ、だったらオレも辞めます!」

「オレも!」

「オレだって!!」

「地獄だろうとどこだろうとついていきますぜ!」

 

「…………」

 

彼らならこう言い出すとわかっていた。

だが何も告げずに立ち去れば自分を探して火星を飛び出しかねない。

嘘でも『足手まといだ』と突き放すことができればよかったのだが、ヒノカミは嘘がつけない。

 

 

「聞こえたぞガキども。ウチを辞めるだと?」

 

「社長!?」

 

この場にいなかったマルバが書類の束を抱えて部屋に押し入ってきた。

 

「ちょうどいい。テメェら全員聞け。

 今日を持って『クリュセ・ガード・セキュリティ』は社名と業務内容を変更する」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「本格的に人材派遣会社として食ってくことにした。

 今日からウチの社名は『クリュセ・ジェネラル・スタッフィングサービス(総合人材派遣)』だ!」

 

「結局『CGS』じゃねぇスか」

 

「うるせぇ!……伴って警備会社部門を畳む!

 つまり、戦うばっかしか能がねぇテメェらはクビだ!」

 

「「「「「はぁっ!?」」」」」

 

「退職金はくれてやる!これ持って、どこへでも消えちまえっ!」

 

「待ってくれ社長!いきなり……こいつぁ……!?」

 

マルバがオルガにたたきつけたのは彼が持っていた書類。

それは権利書だった。警備会社として所有していた全ての兵器の。

モビルワーカーどころかCGSの電源として使っていたバルバトスに、貴重なリアクター搭載型宇宙艦の『ウィル・オー・ザ・ウィスプ』まで。

添えられた小切手はマクギリスから受け取った前金で、その金額は相当なものだ。これだけあれば新たな民間警備会社だって設立できる。

 

「他に辞めてぇって奴がいるなら勝手に連れてけ。

 やる気のねぇ奴が残っても邪魔ンなるだけだ」

 

「社長……!」

 

ここまで言えば馬鹿共でも理解できる。

マルバは、オルガたちを送り出そうとしているのだ。

 

「もうテメェらはウチの社員じゃねぇ。なんの関わりもねぇ。

 二度とオレを『社長』なんて呼ぶんじゃねぇぞ」

 

「……今まで、お世話になりましたぁ!」

 

「「「「「っしたぁ!!!」」」」」

 

姿勢を正し一斉に頭を下げたオルガらは、すぐに部屋の外へと走り出す。

 

 

「……馬鹿な真似を。見栄を張りすぎじゃろ」

 

「見栄も背伸びも虚勢も、全部使ってでも踏ん張んなきゃならねぇのが大人だろうがよ。

 それに、テメェが仕事を成功させりゃあすぐに元は取れんだろ?

 期待してるぜ、革命の乙女サンよ」

 

「やれやれ、信頼が重い。……全員で生きて帰れる保証はないぞ?」

 

「ガキはいつか大人になって独り立ちするもんさ。

 アイツらは、ちぃとそれが早かったってだけだ」

 

「……CGSと、残された子らを頼む」

 

「フン!最初はオレ一人でやってくつもりだったんだ。なんの問題もねぇよ」

 

 

 

オルガは中核となり得るメンバーに声をかけ、『イサリビ』と名を改めた船を拠点とし、新たに民間警備会社『鉄華団』を結成。

その初任務としてヒノカミと共にクーデリアの地球護送を請け負うと宣言した。

クーデリアを地球に送り届け、そこから蒔苗と合流しアーブラウへ。

これはヒノカミ一人でもなんとかなる可能性はあったが苦難に満ちた旅となっただろう。

鉄華団の助力は任務の成功率を大幅に上げる。

子供に頼ることを恥と捉えていたが、彼らは子供だが戦士でもあった。

ならば過保護と余計な気遣いこそ彼らへの侮辱となるだろう。

熱意に根負けしたヒノカミはそう自分に言い訳をした。

 

宇宙での戦いとなるとバクゥは使えない。他のモビルワーカーは単純に弱くてモビルスーツ相手では戦力にならない。

よって事実上の戦力はデビルガンダムとバルバトスと3機のグレイズだ。

デビルガンダムを動かすのは数百年ぶりだが元々メンテナンスフリーの機体なので問題はないだろう。

バルバトスも一日もあれば万全の状態にできる。

だがグレイズはギャラルホルンに引き取ってもらう予定だったのでボロボロのまま。やむなく4機の内3機のバクゥを解体して部品を流用し急いで修理した。

CGSのメカニックだった雪之丞が鉄華団への移籍に応じてくれたのは僥倖だった。彼も『マルバに頼まれた』からだそうだが。

 

ガエリオが仕事を終えフリーになると流石に彼の妨害が予想される。

大慌てで準備を終えた鉄華団は、マクギリスと示し合わせてギャラルホルンの警備の隙を縫う形でひっそりと宇宙へと上がった。

 

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