『……こぉれはまた、とんでもないジョーカーだ。
ヒノカミを舐めてたのはオレらの方だったってか』
「正直、こっちも驚いてます。姐さん一人でクーデリア嬢の護衛を務めようとしたのもようやく納得できました」
ヒノカミとデビルガンダムの戦闘映像を見終えて、モニター越しに名瀬とオルガが大きく息を吐く。
デビルガンダムの後ろで隠れて様子を伺っていたクランクたちの機体が録画していたものだ。
重装甲モビルスーツを握りつぶすパワー。
バルバトスやグレイズたちを置き去りにするスピード。
近距離の迫撃砲ですら貫けぬアーマー。
3機のモビルスーツの一斉攻撃を無手の格闘技であしらうテクニック。
まぁこれは『モビルトレースシステム』などというふざけた操縦方法を扱うヒノカミ当人に由来するところもあるのだが、それ以上のイリーガルが。
『メンテナンスフリー……これマジか?』
「多少の損傷ならほっときゃすぐ直るそうです。
実際迫撃砲で装甲が少し凹んでたらしいんですが、船に戻ってきた時にゃあきれいさっぱり無くなってました。
ガスの補給もいらねぇと……というか移動にガスなんて使ってねぇと」
『……ガンダムフレームってのはバケモン揃いと聞いたが、アイツぁとびっきりだな』
「実際、相当に特殊な機体っつう話ですからね。
そもそもリアクターを積んでねぇってんだから、モビルスーツの枠に収めていいかすら怪しい」
彼らはヒノカミの素性を知らされていない。この道中においてそれを把握しているのはクーデリアのみ。
だが彼女は真面目で秘密を簡単に口にするような輩ではないし、仮に話したところで与太話だと笑われておしまいだ。
こうして異常さをひけらかし続けていけばいずれは受け入れる土壌もできあがってしまうだろうが。
『ともかく、これでブルワーズの主戦力は落とした。
まだモビルスーツはあるだろうがボロッカスになったクダルの面を見せりゃ怯えて引き下がるだろう。情だ仇だで動く連中じゃねぇからな。
……その上で、まだやるってのか?』
「あぁ。あんな話を聞かされたとあっちゃあ引き下がるなんて選択肢はねぇ」
イサリビへと連行した3機のマン・ロディ。そしてパイロットであるヒューマンデブリ。
その内の一人が、昭弘が長年探し続けていた彼の弟の昌弘だった。
昭弘は弟との再会を喜び、仲間たちは昭弘を祝福したが、それが昌弘の逆鱗に触れた。
最初は昌弘も『必ず迎えに行く』という兄の言葉を信じて待っていた。
だがやがて期待するだけ辛くなると悟り諦めた。それほどに過酷な環境だったのだ。同じデブリの仲間たちはまさしくゴミのように死んでいった。
だが同じデブリとして売り渡されたはずの昭弘はCGSに買い取られるや否や早々に解放され、新たな仲間と共に人間として自由に暮らしていた。
『許せない』と殺意を込めた眼で睨みつけられて、昭弘は何も言い返せなかった。
幸いにも他の二人……ビトーとペドロという少年は鉄華団との対話に応じてくれた。
他にもブルワーズには多くのヒューマンデブリがいて、保護を提案したが仲間を見捨てて自分たちだけが逃げ延びるわけにはいかないと訴えた。
「それに、考えようによっちゃ好都合だ。
資産はいくらあっても足りねぇからな……ましてや家族が増えるとありゃあ猶更だ」
『おうおう、おっかねぇなぁ。どっちが海賊なんだか。
だがブルワーズを仕留めたとありゃ確かな実績になる。
お前ら鉄華団に安易に手を出そうなんて輩は減るはずだ。
……テメェらだけで、やれるな?』
「上等!『泣いてるガキは見捨てねぇ』!
そいつがCGSから……マルバの親父から引き継いだ鉄華団の社是と心意気だ!!」
――――……
「……オレの母親は、火星出身だった」
「突然、なに?」
「黙って聞け」
格納庫に繋がる廊下で宇宙が見える窓を背に並んだアインと三日月。
いつも通り興味なさげな三日月に、アインが一方的に語り掛ける。
「純粋な地球人ではないからと、オレは地球では酷い差別を受けた。
そして火星支部に事実上左遷され、しかしクランク二尉に出会い導いていただいた。
正しくあろうと愚直に努力し続ければ報われるのだと、そう確信した。
だから安易に道を外れ、正しく生きようとしない奴らが嫌いだった」
「……」
「だがオレの待遇などまだ甘かったのだな。オレとは比べ物にならないほど不幸な者などいくらでもいた。
正しくあろうとするどころか、どうやっても生きることすらままならない者がいた。
あのような子供が世界中に大勢……『子供は守られるべきだ』というクランク二尉の想いが、ようやく少しだけ理解できた気がした」
「…………」
「そもそもオレの考えていた『正しさ』とは何だったのか。
マクギリス特務三佐からギャラルホルンの腐敗を聞き、いよいよわからなくなった。
あの方の誘いを受けお前たちに助力すると決めたのも、視点を変えて世界を巡れば見えてくるものがあるのかもしれないと思ったから……おい、本当に聞いてるのか!?」
「黙って聞けっつったのアンタじゃん」
ため息をついた三日月が、質問に答える。
「『正しい』って、『正義』って奴でしょ?
アンタが探してるのは『自分の正義』なの?それとも『社会の正義』ってやつ?
『社会』の方なら教えてもらったから答えられるけど」
「?なんだ、それは?」
「姐さんが言ってた。世の中にはいろんな正義があって、でも大きく分けてさっき言った二つなんだって。
そんで『自分の正義』ってのは『自分の中に掲げる信念の旗』だってさ。
だからそっちは自分自身で考えて、自分で自分の中に自分だけの旗を立てなきゃいけないんだって」
「『信念の旗』か……では『社会の正義』というのは?」
「『権力者の都合と大衆の気分』」
「身もふたもないな!?」
「でもなんかしっくりこない?
オルガたちも姐さんから聞いた時思わず『あぁ~』って言っちゃってたし」
「……わからんでもない」
「でしょ?『お偉いさんやどうでもいい連中が言ってる正義はこっちのことだから、それに振り回されないように自分だけの正義を見つけろ』って昔姐さんに言われた。
だからオルガや皆は今も掲げる旗を探してるみたい」
「……?お前はもう見つけたのか?」
「『オルガに従うこと』。今も昔も、それがオレの正義だ。
オルガはオレや皆を『本当の居場所』に連れてってくれる。
だからオルガの邪魔する奴は全部潰す。それだけだ」
「っ……、ふん。あの男も苦労するな」
「だからブルワーズとかいう連中はぶっ潰す。
二度と余計なことをしないよう、徹底的に」
「……いいだろう。まだオレの正義は定まらない。
だが少なくともあんな外道を見過ごすものでないことだけは確かだからな」