『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第12話 ブルワーズ

 

グシオンはぐちゃぐちゃだが、ブルワーズの母艦の座標はマン・ロディにも登録されている。

モビルスーツが未だ帰らず消息不明となった現状に連中は浮足立っているはず。ここで奇襲を仕掛ければ容易に殲滅できるだろう。

だがオルガ、いや鉄華団は正面から堂々と挑むことを選んだ。

 

『よう、ブルワーズの諸君』

 

『なんだテメェは……!』

 

突如自分たちの縄張りに押し入ってきた謎の船からの通信に、ブルワーズの頭目『ブルック・カバヤン』は苛立ちを隠さず応じる。

相手が見慣れぬ若造と知り更に眉間の皺は深くなる。

 

『突然失礼。オレは鉄華団の団長、オルガ・イツカってもんだ』

 

『鉄華団だぁ?聞いたことねぇな』

 

『そりゃそうだろうよ。何しろ先日立ち上げたばかりの会社だからな』

 

『で、その青臭ぇガキが一体何のようだ?』

 

既にモビルスーツは全機出撃させ周囲に待機させている。主力のグシオンがいないのは痛いがそれでも十機近い数。

少なくともあの船一隻に二桁以上のモビルスーツが積まれているはずはなく、ブルックは強気に迫る。

 

『クダル。あと昌弘にビトーにペドロ』

 

『っ!?テメェ!』

 

それが未だ戻らぬグシオンのパイロットと、奴が連れていったデブリを指していると気付き声を荒げた。

 

『まとめてこっちで預かってるが……聞いたぜ?

 随分悪どい真似してるらしいじゃねーか』

 

『……何が言いてぇ』

 

『さっき言った通り、ウチは立ち上げたばっかでな。名を売る機会が欲しかったのさ。

 テメェらは力尽くで何でも奪い取ってきた。だったら力尽くで奪い取られても文句はねぇよなぁ!?』

 

『このクソガキぃ!』

 

『テメェらの番が来ただけさ!余さず奪いとってやる!

 人権なんてねぇのはテメェら人でなしの方だってことを教えてやるよ!!』

 

オルガの宣言と同時に、イサリビから5機のモビルスーツが出撃する。

 

『やれぇデブリども!アイツらを皆殺しにしろぉ!!』

 

『三日月、昭弘!モビルスーツのパイロットは殺すなよ!?

 そいつらもこれからオレらが奪い取る財産だからな!』

 

『りょーかい』

 

『言われるまでもねぇ!』

 

バルバトスが飛び出し、3機のグレイズが続く。しかしデビルガンダムはイサリビの側に浮かびサブアームを展開。

ただしフジツボ状の突起から伸びたのは鋭い爪ではなく長い銃身だった。

 

「ターゲット、マルチロック」

 

(ーー……)

 

「フルバースト」

 

そして八つの砲口が一斉に火を噴いた。

 

『ぐぅっ!!』

 

『くそっ、だが大した威力じゃ……どんだけ撃ち続けるつもりだ!?』

 

弾丸自体はあえて威力が弱いものを使用している。

ほとんど岩や土の塊みたいなものだ。ぶつかった瞬間に小さな衝撃が生じるくらいで、元より重装甲な上にナノラミネート加工を施されたマン・ロディを貫くことはできない。

だが途絶えることなく雨あられと降り注げば流石に無視できない攻撃となる。

 

『えぇい!アイツを先に沈めてやる!』

 

『やらせない』

『おぉぉぉぉぉっ!!』

 

デビルガンダムに狙いを定めて殺到するマン・ロディに、側面からバルバトスと3機のグレイズが襲い掛かる。

鉄華団のモビルスーツには銃弾の雨は一つも当たっていない。

モビルスーツが避けているのではなく、デビルガンダムが当てないように撃っているからだ。

ヒノカミは戦場を遠方から俯瞰し、周辺に浮かぶデブリを全て把握し、全体の動きと三日月たちの性格と機体性能を考慮し、数秒先の未来を予測して先んじて弾丸を置くように撃ちこんでいる。

彼女の肉体の出力は制限されていても、演算能力に制限はない。戦場一つ分を掌握するくらいはできて当然。

焦れて動き始めた敵戦艦が自軍のモビルスーツごと砲撃で吹き飛ばそうとすることももちろん予測済み。

射出直後の砲弾を撃ち落すように弾丸を置いてその軌道を大きくゆがめる。

敵艦の砲台そのものを破壊した方が早いが、誘爆すれば敵艦が大きく損傷する。

資産価値が下がるし人的被害が出ることも避けていた。

 

「あの船の積載量、砲撃の間隔、感じ取れる焦り……そろそろ弾が尽きるようじゃな」

 

『なんでアンタの方は尽きないんですか姐さん……』

 

「適当なスクラップで補充しとるからな。そこまで含めて『メンテナンスフリー』じゃし」

 

(ーー)

 

見ればデビルガンダムの脚部の方のフジツボからガンダムヘッドが伸びて、周囲に浮かぶデブリをガツガツと食べていた。

自己増殖で弾丸を作り出すのはヒノカミの消耗が激しいので、デブリを再利用しているのだ。

初めてガンダムヘッドを見たオルガやブリッジクルーたちは明らかに物理法則に反している質量とその禍々しさに閉口し、それ以上追及することを止めた。

 

「……む?」

 

マン・ロディはそのほとんどが武装とスラスターを破壊されどうすることもできず宇宙にぷかぷかと浮かぶだけ。

残る数機もバルバトスらに追いつめられていく。鉄華団のモビルスーツは全機無事。

となれば、砲撃を撃ち落され続けている敵戦艦が次に取る行動は。

 

「逃がすかっ!」

 

(ーー!)

 

ガンダムヘッドを収納して脚部を変形させたデビルガンダムは急加速し、もう一隻の船を置き去りにして離脱しようと回頭する敵旗艦の前に回り込む。

構わず跳ね飛ばそうとする船に対し、デビルガンダムはメインアームとサブアームの4つの腕を広げて構え。

 

「PLUS!ULTRAぁーーーっ!!」

 

艦首を掴んで受け止め、推力を殺すと共にしがみついた。

デビルガンダムはそのまま船を掴みながら少しずつ上へと登っていき、敵艦のブリッジにまでたどり着く。

 

(ーーーー)

 

『ひぃっ!?』

 

デビルガンダムのツインアイが禍々しく光り、間近で目にして怯えたブルックの声が届く。

ヒノカミは構わずサブアームの爪の一つを突きつけ、高速で回転させ始めた。

 

「選べ。降伏か死か」

 

『この声、女!?テメェふざけんじゃ……!』

 

(ーー!!)

 

『ひっ、ひっ!?わ、わかった!降伏する!

 だから頼む、命だけはぁっ!!』

 

ゆっくりとブリッジの窓に迫るドリルを目の前にして、ようやく連中は降伏を受け入れた。もう一隻もグレイズたちに囲まれ観念したようだ。

 

 

 

海賊は全て連中が所有していた補給艦に押し込めた。このままテイワズへと運ばれ奴隷として死ぬまでこき使われることになるだろう。

その事実を突きつけられ反抗しようとした者も現れたが、イサリビから持ってきたクダルを押し付けたら怯えて引き下がった。

焦点の合わない目でよだれを垂らしピクピクと震えるクダルは踏みつぶされた蛙のようだった。

 

そして彼らの所有物であるヒューマンデブリの子供たちはブルワーズから奪った旗艦の格納庫に集められていた。イサリビにいた昌弘たち3人もひとまずこちらに連れて来た。

 

「あったよオルガ」

 

「でかしたビスケット」

 

デブリたちの前でやり取りされる紙束は、彼らが人権の無いデブリであることを示す証明書だった。

オルガはデブリたちに見せつけるように広げる。これでオルガが彼らの所有者だ。

だがデブリたちは怯えるでもなくただ顔を暗くする。命じる者が変わるだけで、どうせ何も変わらないと諦めているのだろう。

 

「持ってきてやったぜ」

 

「すんません、名瀬のダンナ」

 

「コイツらの新たな門出を祝うには安酒だがな」

 

合流したハンマーヘッドから移ってきた名瀬から、オルガが酒瓶を受け取る。

 

バサァッ

 

彼は足元に書類を投げ捨て、無駄に度数が高いだけの酒をぶちまけ、火種を落とした。

 

「「「!?」」」

 

「……オレたちも、こうやって助けてもらった。

 だから今度はオレたちが助ける番だ」

 

アルコールに引火して書類は勢いよく燃え上がり、しばらくするとオルガの足元には灰の山が出来上がった。

わずかに煙を吐き出すそれを念入りに踏みつぶして完全に消火する。

 

「帰る場所がある奴は言え。後日になるが送り届けてやる。

 真っ当な道に戻りたい奴は言え。火星の人材派遣会社を紹介してやる。

 そのどっちでもなく、荒事以外で生きてく術を知らねぇって奴は……」

 

呆然としたままの少年たちに構わず、オルガが高らかに宣言する。

 

「今日から鉄華団(ウチ)が、お前らの帰る場所だ。オレがお前らの家族に、お前らの居場所になってやる!」

 

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