デブリ帯を抜け、コロニーを避け、地球を目前にするところまでやってきたところで、鉄華団はタービンズと別れた。
当初は鉄華団が地球に降りるところまで見守る予定だったが、彼らにはブルワーズとの一件で増え過ぎた荷物と資産の対処をお願いしている。
ヒューマンデブリだった子供たちは火星のCGSまで運んでくれるそうだ。
今や鉄華団とCGSは別会社であり、タービンズとの関係はビジネスパートナー。
子供たちを預けるにも運んでもらうにも報酬が必要。だがそちらはブルワーズの大人と余剰資産を売り払った分で十分賄えるそうだ。名瀬が自分たちを騙すとは思えず全て一任した。
そしてタービンズと別れた鉄華団は、入れ替わるように別の船と合流する。
「地球圏にようこそ、鉄華団の諸君」
「……なんスかその恰好は」
「フフフ、これでも立場のある身でね。名と姿を偽らねば思うようにも動けんのだよ」
「中々いいセンスじゃな」
「姐さん!?」
船に乗っていたのは長髪のかつらと怪しい仮面をつけ『モンターク』を名乗るマクギリスだった。
ギャラルホルンに所属する彼は正式な航路を堂々と使用することができる。隠れながら遠回りしてきた鉄華団よりも先回りできて当たり前だった。
彼の事情はオルガたちも把握しており、鉄華団とは同盟関係にあたる。
だが彼がガエリオと共に初めてCGSを訪れた時に顔合わせをしたくらいで、こうしてまともに話すのは初めてだ。オルガたちは距離感がつかめずに困っていた。
マクギリス……いやモンタークはまず、本当にギャラルホルンに一切感付かれず地球圏にまでたどり着いた鉄華団の手腕に敬意を表した。
そしてブルワーズを相手にした時のデビルガンダムの戦闘映像を見せてもらい子供のようにはしゃいでいた。
「大人にはなりきれぬものだな。これほどに胸が躍るとは」
「そういうセリフはもう少し大人らしく振舞おうと努力して言ってもらえませんかねぇ……?」
オルガは痛みを訴える頭を押さえながら、映像を見終えたモンタークからタブレットを返却してもらう。後ろに控えるクランクとアインも困り顔だ。
「いい加減話を進めよう。いよいよ地球に降下するが、問題はその手段。抜かりはないか?」
「無論だ。こちらで地球降下艇を用意した。さほど大きくはないが」
「モビルスーツ5機、いけるか?」
「ふむ……船体の上にしがみつく形でよければ」
三日月のバルバトス。昭弘のグシオン。クランクとアインと、繰り上がりで担当することになったシノのグレイズ。以上で5機だ。
比較的損傷の少ないマン・ロディも数機あるがあれらは宇宙戦専用機。ヒノカミ製AIは移植したので、宇宙に残るイサリビの防衛戦力として運用してもらう予定である。
「ちょっと待ってくれよ、姐さんとデビルガンダムはどうすんだ?
まさか置いてくわけじゃねぇだろ?」
「アレは単独で大気圏を往復できる。問題ない」
「往復!?突入どころか、離脱まで可能だと!?」
「……本当に、僕らいなくてもよかったんじゃ……?」
「そうじゃな。じゃがクーデリアの環境はこれほど良くはなかったじゃろう。
それにブルワーズに捕らわれた子らを救えたのは間違いなくお主らの功績じゃ。胸を張れ」
「……ウス!」
「中々に波乱万丈の旅路だったようだね。同行できなかったのが残念でならない。
……だがここから先はもうギャラルホルンとの戦いを避けることはできないだろう」
地球はギャラルホルンのお膝元だ。
ここまで来れば『月外縁軌道統合艦隊アリアンロッド』は出てこないだろうが、『地球外縁軌道統合艦隊』が待ち構えている。
その司令官である『カルタ・イシュー』は若輩だがセブンスターズの一人。
アリアンロッド艦隊に活躍の機会の悉くを奪われ『出撃する機会の無いお飾りの艦隊』と揶揄されている。
だがそれでも艦隊だ。エイハブ・ウェーブを発する物体が近づけば必ず反応し迎撃に向かってくる。
そして戦いになれば高確率で互いに死傷者が出る。戦場が大気圏付近なのが厄介だ。うっかり重力に引きずり込まれれば命の保証はない。
マクギリスに協力する形で一時離れてはいるがギャラルホルンの人間であるクランクとアインのため、そして数少ない真っ当なギャラルホルンの人間からも恨みを買う事態を避けるため、人死には出したくない。
特にカルタは現実の見えていないお嬢様であるが、他のセブンスターズの老害とは違い不正や汚職とは程遠い高潔な人物であると言うではないか。
であれば、ヒノカミが出す結論は一つ。
「もちろん、戦闘を避けて地球に降りる」
「「「はぁ!?」」」
――――……
今日も変わらず地球外縁軌道は平和そのもの。
しかし堅物でクソ真面目なカルタ率いる統合艦隊の兵士たちは『面壁九年』『堅牢堅固』をスローガンに、決して気を抜くことなく職務に当たっていた。
そう、彼らは一切気を抜いてはいなかった。
『カルタ様!艦隊のすぐ傍に謎の反応を確認しました!』
「なんですって!?観測班は何をしていたのです!」
『油断なく監視していました!突然現れたのです!
センサーの故障でもありません!』
「くっ……賊は今どこに!?」
『艦隊の真下!現在地球に降下中の模様!!』
「なぁっ……!?」
『光学映像、出します!!』
モニターに表示されるのは摩擦熱で赤く染まった小型艇と、その上にしがみつく数機のモビルスーツ。
そしてそれら全体を覆うように無数のケーブルを伸ばした、異形のモビルスーツだった。
『ん~~、流石に気付かれたか。
ミラージュコロイド粒子も大気圏突入の空力加熱の中では維持できんからなぁ』
「だ、大丈夫なのですか……!?」
『今から出撃しても間に合うまいよ。狙撃しようとすれば銃弾が地球に届き被害が出る。
無理やり突っ込んでも儂らのところに辿り着く前に機体が燃え尽きる。
無駄死にとわかって飛び出すほど愚かではあるまい』
『ならいいんだがよぉ……』
『途中でバレてたらお陀仏だったぜ……』
『エイハブ・ウェーブの反応消すために、バルバトスたちも火を入れてないからね』
この世界の一般的な動力源は全てエイハブ・リアクターだ。
それを積んでいないデビルガンダムはエイハブ・ウェーブを発しない。ミラージュコロイドステルスと併用すれば直接接触でもしない限り感知できるはずがなかった。
「つぅか姐さんよぉ!そんなこともできんならもっと早くに教えてくれよ!」
『げらげらげら』
ヒノカミは笑ってごまかしたが、理由はあった。
フミタンを通じてノブリスに情報が漏れる状況に対処してからでなくてはデビルガンダムの力をひけらかすのは危険と判断していたからだ。
ちなみにそのフミタンはクーデリアと共にシャトルの中にいる。
未だに己の正体を明かすこともヒノカミとの一幕を語ることもなく、忠実に職務に当たっていた。
散々フミタンを脅しはしたが、下手に考え下手に動かれるよりも、相変わらずな今の状況の方が行動も予測しやすいしクーデリアへの心労も少ないだろうからヒノカミにとっては好都合だ。
『……抜けたぞ』
突入速度の危険域を下回ったことで、シャトルの窓のシャッターが開いた。
『ここが、地球……!?』
生まれも育ちも火星である子供たちが、食い入るように青い空と海を見つめていた。