オセアニア、ミレニアム島にある蒔苗の別荘へと降り立った鉄華団精鋭部隊。
主要メンバーは団長のオルガと参謀のビスケット。
モビルスーツパイロットの三日月と昭弘とシノとヒノカミ。
ギャラルホルンからの一時協力者であるクランクとアイン。
クーデリアと従者のフミタン。
メカニックの雪之丞と生活班のアトラ。
そこにライドやタカキなどのサブメンバーを併せても30人足らずという少数精鋭だ。
頼りない味方を目の当たりにして、蒔苗は賭けに負けたと考えた。
「アンタが失脚して亡命中だってことも、オレらにアーブラウまで護衛させようとしてることも、こっちは把握してる」
「ほぅ?」
だが開口一番自身の状況を言い当てたオルガと、決意を込めた視線を向ける少年少女たちに思わず口角が吊り上がる。
「そこまでわかっていてここに来たということは、儂の依頼に応じる気があるということかね?
たったそれだけの人員でか?」
「だからこそだ。アンタを連れてくだけで勝ちなんだ。
正面切ってギャラルホルンとやり合う必要はねぇし、互いに無駄な犠牲が出るだけ。
可能な限り戦闘を避け、隠密行動で行く」
「ぬるいなぁ……そんな生ぬるいやり方が通用するとでも?」
「うるせぇよクソジジイ。テメェがお願いする立場だってことを忘れんな。
やり方は全部任せてもらう。ウダウダ言うなら縛り上げて箱にでも詰めて持ってくだけだ」
「ほざいたなクソガキが。儂が代表に返り咲いた時に無事で済むよう媚を売らんでよいのか?」
後の主導権を握るためか、単純に若造に腹を立てたのか。
いずれにしてもここで強気に出た蒔苗の選択は失敗だった。
シュバッ
「ぐむっ!?」
聞くに徹していたヒノカミが左腕の帯を操り、蒔苗の体を縛り上げた。相応に力がかかっているようで蒔苗は呼吸を荒げる。
「ぐっ、おぉ……っ!?」
「忠告はちゃんと聞いておくもんじゃぞ。
三日月、箱持ってこい」
「うん」
「!?」
突然の暴力。しかし鉄華団の面々は誰をそれを止める様子がない。クーデリアですらもだ。
『縛り上げて箱に詰めて持っていく』。それが冗談でも脅しでもなく本気なのだと蒔苗はようやく理解した。
彼もひとかどの政治家だ。命を狙われたことも数え切れないほどある。『言うことを聞かなければ殺す』と刃を突きつけられたところで動じない覚悟はあった。
だが今彼に突きつけられていたのは『人として運ばれるか物として運ばれるか』という選択肢。
報酬の増額を求めているわけでも行動に理解を求めているわけでもない。これは交渉ではなくただの通告だった。
「っ、わかった。そちらの指示に従おう」
「……そうか。では即座に動くぞ。支度せい」
帯をほどくと、蒔苗は無礼をとがめることなく姿勢を正す。
上と下が決まったのではなく、互いに対等な協力者であると認めたからだ。
「む?そこまで急がねばならんのか?
オセアニア連邦とは話をつけてある。主らの旅路の疲れを癒す時間もあろう」
「そちらこそぬるいな。イズナリオの暴走は想定の上を行く。
オセアニアの反発など無視してすぐにでも軍勢を差し向けてくるぞ」
「一度捕捉されてしまえば隠れて進むことは難しくなります。どうかご理解を」
「むぅ……わかった。じゃが隠れて進むにしても手はずがあろう。
味方のいないこの地球でどうやって潜伏しアーブラウに辿り着くつもりなのか、その詳細は明かしてもらいたい」
「道理であろうな。ビスケット」
「はい、僕の方から説明させていただきます」
そして鉄華団の予想通り、ギャラルホルンはオセアニア連邦政府の制止を押し切ってミレニアム島へと進軍してきた。宇宙で出し抜かれたカルタが強権を駆使して、部下たちを引き連れ地球に降下してきたからだ。だが彼らが辿り着いた時にはすでに鉄華団も、蒔苗の姿もなかった。
しかしメンツをつぶされたギャラルホルンの必死の捜索により、まもなく鉄華団の所在が判明した。
彼らは船や鉄道を使い少しずつ、しかし確実にアーブラウの都市エドモントンへと近づいていた。
イズナリオの指揮するギャラルホルン軍は幾度となく彼らに攻撃を仕掛けた。その都度鉄華団は進路を変え逃走し生き延び続けた。
ギャラルホルン側の犠牲はほとんどなく、彼らは『逃げ惑うことしかできない臆病者』と鉄華団の子供たちを嗤った。
このペースならば代表戦までに彼らがエドモントンに辿り着くことはないと判断したイズナリオは無駄な損害を出すことを嫌い、彼らの殲滅ではなく撃退で十分と判断していた。
そして迎えたアーブラウ代表選挙当日。
蒔苗東護ノ介は議事堂に立っていた。
――――……
「オルガ、連絡きたよ!蒔苗さんとクーデリアさんは無事に辿り着いたって!」
「うっし!テメェら、作戦成功だ!よく頑張った!!」
「じゃ、じゃあ、もうこの服脱いでいいですよね!?
私なんかがクーデリアさんの格好するなんて失礼ですし!」
「なんで?かわいいし似合ってるじゃん」
「はぅっ……」
「……ちっくしょぉぉおお!うらやましいぞ三日月ぃ!!」
「シノうっさい」
「ふぅ、ようやく肩の荷が下りたか」
「クランクさん……今日までありがとうございました!」
「昭弘少年。君は聞き分けのいい生徒だった。
今日まで私のような者の指揮に従ってくれたこと、礼を言う」
「あぁ、お前だけがまともだった。
……三日月とシノはクランク二尉の指示をまるで聞かん……!」
「昔のお前も中々の聞かん坊だったぞ、アイン。
……君たちが大人になり、ギャラルホルンに来てくれればと願わずにはおれんが」
「アンタの部下はやぶさかじゃねぇですが、オレの居場所は鉄華団です。
オレらは家族なんです。離れちゃいけねぇ」
「わかっているさ。さてオルガ団長、喜ぶのもここまでだ。
無事に帰還することまで含めて作戦だからな」
「あぁ、そんじゃ凱旋と行こうじゃねぇか!姐さんと合流すっぞ!」
――――……
鉄華団の役目、それはギャラルホルンの目を惹きつける囮役だった。
念のためにアトラにクーデリアの、団員の一人に蒔苗の変装をさせて、二人の要人を連れてエドモントンを必死に目指しているように見せかけた。
そしてヒノカミがクーデリアと蒔苗と彼らの従者を連れて別行動でエドモントンを目指していたのだ。
地球降下に用いたシャトルに一行を乗せ、デビルガンダムに運ばせる形で。
陸路でもなく、海路でもなく、空路でもなく。
『地中』を通って。
仮に蒔苗たちの所在が分からなければイズナリオはエドモントンに厳重な警備を敷き待ち構えていただろう。
内政干渉と非難される覚悟で軍勢を並べていただろう。
だが鉄華団の所在がはっきりしておりそこに蒔苗がいると思い込んでいた彼はエドモントンには何の備えもしていなかった。
代表選挙当日にエドモントンの直下に辿り着いたデビルガンダムはガンダムヘッドを一つ伸ばした。
蒔苗の部下が抑えた倉庫の地面を突き破って頭を出し、口を開ける。
そこから出てきた蒔苗とクーデリアは護衛のヒノカミと共に、ろくな警備もない街を悠々と移動し議事堂入りした。
イズナリオと共謀していたアンリは予想外の事態を前に公の場でヒステリックに騒ぐ醜態をさらしてしまい、それが後押しとなって圧倒的大差で蒔苗の再選が決まった。
全てを見届けた後、ヒノカミはクーデリアたちに後を任せてエドモントンを離れ鉄華団と合流。
帰還の準備を進めていたマクギリスと合流し、彼の用意したルートを使いひっそりと火星へと戻っていった。
原作Gガンダムにてデビルガンダムが移動していた場所って、主に『地中』なんですよね。