『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第16話 決別

 

アーブラウ代表へと返り咲いた蒔苗は即座にアンリ・フリュウの背景を調査、ギャラルホルンのイズナリオ・ファリドとの癒着が明るみとなった。

いくらセブンスターズと言えど、いやセブンスターズだからこそ許されることではなく、彼が即座に追放処分とされたのは当然だった。他のセブンスターズとしても真っ先に切り捨てねば己の身すら危ういのだから。

 

ギャラルホルンの深刻な腐敗が世に晒され、地球支部ヴィーンゴールヴで開かれたセブンスターズの緊急会合。

そこにファリド家の新たな当主として出席したマクギリスは、六つの星の前で堂々と言い放った。

 

「……今、なんと?」

 

「もう一度申し上げましょう。

 クーデリア・藍那・バーンスタインと鉄華団を火星より手引きしたのは私です」

 

「馬鹿な……なぜそのようなことをっ!?」

 

「無論、我が父イズナリオ・ファリドの凶行を食い止めるためです」

 

今回の事件はギャラルホルンの権威を大きく失墜させる事態につながった。

それを演出したのがギャラルホルンを維持すべきセブンスターズの新当主だと言うのだからその衝撃は相当なもの。

狼狽するカルタを除き、五対の瞳がマクギリスを鋭く射貫く。

しかし彼は意に介さず悠々と言葉を続ける。

 

「本来誰よりも規則を守るべきセブンスターズが不正を働こうとしていたのです。

 これをただ指をくわえて見ていることこそ、我らが掲げる旗に背く行いでしょう」

 

「だからと言って!ギャラルホルンにどれほどの被害が出たと思っている!」

 

「負傷者と物損のみ。死者はいないではないですか。彼らはそのように振舞ってくれた。

 むしろいかに自分たちが腑抜けていたのかを自覚するよい機会となったのでは?」

 

「なんだと!?」

 

「あなた方が言うギャラルホルン地上軍の精鋭部隊とやらは、立ち上げたばかりで少年兵ばかりの一警備会社に『殺さないように手加減された上で出し抜かれた』のですよ。完膚なきまでに。

 可能な限りそのようにとお願いした私が言うのもなんですが……あまりの失態にもはや言葉もない。

 これでよく治安維持組織を名乗れたものです。アーブラウも他国もそのように判断しているでしょう」

 

「「「っ!?」」」

 

まさにマクギリスの言う通り、この一件でトップの不正だけでなく鉄華団に事実上敗北したギャラルホルンの無能さを責める風潮が世界中で広まっている。

誰も反論できずしばしの沈黙が続いた後、現在セブンスターズの中でも最も勢いのある『ラスタル・エリオン』が口を開く。

 

「……何故我々に相談せず、独断で行動した?」

 

「信用ならなかったからですよ。そして今、私の直感は正しかったのだと確信した。

 『イズナリオ・ファリドの失態を可能な限り隠蔽しギャラルホルンの権威を維持するにはどうすればよいか』。

 会合が始まった途端に開口一番でそのような議論を始めた皆さまが、イズナリオ・ファリドの不正を知ったところで動くことは無かったでしょう」

 

「…………」

 

今度こそラスタルも反論する言葉を失ってしまった。

隠蔽を言い出したのはラスタルではなく、ここしばらくイズナリオと蜜月関係にあった『ガルス・ボードウィン』だったが、秩序を維持するためならとラスタルも彼を咎めることなく当然のように受け入れていたのだから。

ラスタルとは違い怒気を隠すことすらできていない未熟者たちを見渡したマクギリスは小馬鹿にするように嗤う。

 

「ちなみに、私がイズナリオ・ファリドを糾弾するためにクーデリア嬢を陰ながら支援していたことは、後日彼女から発信していただく手はずとなっています。

 この状況で私が不審な死を遂げれば、世界は皆さまをどのように判断するのでしょうね?」

 

「このっ……若造が!」

 

日和見主義で動きの鈍いセブンスターズ最年長『ネモ・バクラザン』すらも今ばかりは声を荒げる。

 

「……とはいえ、私の行いもまた治安維持組織の一員としてふさわしくないものであったことも事実。

 外部より武装組織を地球に招き入れたのですから。

 何らかの罰を受けねばやはり世間も皆さまも納得しないでしょう」

 

「む?」

 

「空席となった火星支部の司令の座を私がお預かりします。

 此度の一件でクーデリア嬢や少年兵たちに多大な苦労を掛けてしまった。

 せめて私が直接出向き、働きで返すのが礼儀というものでしょう」

 

それは事実上の左遷だ。

今の火星支部は地球からの支援がなければ成り立たず、しかし地球から遠く離れているため支援の手は細く、無法者がはびこり治安も非常に悪い。

マクギリスが火星で力を蓄えまた何か企むのではという危惧はあるが、セブンスターズの不正を正すために動いたという彼に明らかな処罰を降せば世間からの更なる反発が予想される。落としどころとしては妥当と言えた。

 

「……よかろう。マクギリス・ファリドをギャラルホルン火星支部司令に任ずる。反対意見はあるか?」

 

ラスタルが音頭を取るが手を上げる者は現れず、マクギリスの進言は採用された。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「マクギリス!!」

 

会合の後、一人廊下を歩くマクギリスを呼び止めたのはガエリオだった。

ガエリオは振り向いたマクギリスにずかずかと歩み寄り、彼の胸倉を掴む。

 

「何故……何故オレに話してくれなかった!?

 話してくれれば、オレにも何かできることが!!」

 

マクギリスの行いを知らされたガエリオは、幼馴染であり親友と思っていた彼を責めた。だが

 

「うぬぼれるなよガエリオ」

 

「!?」

 

マクギリスがガエリオに向ける瞳は、見たこともないような冷たい目をしていた。怯んだガエリオが思わず掴んでいた手の力を緩める。

 

「知ったところでお前に何ができた?

 私と共にセブンスターズに弓引く覚悟があったか?

 それとも真っ先に事実を隠蔽しようとしたお前のお父上に相談でもしたか?」

 

「!?」

 

していたかもしれない。そうなればマクギリスは事を成す前に排除されていた可能性があった。

あくまで御曹司でしかないガエリオは、現当主である父の威光を借りなければセブンスターズとしての力を振るうことはできない。

そして彼の父は正義よりも組織の安定を優先した。

その息子であるガエリオも、父の意向には従うしかない。

 

「お前だけではない、カルタもだ。イズナリオが後見人であった彼女は奴の傀儡。

 事実、先ほどの会合でも震えて縮こまるばかりで何の発言もできずにいた。

 そんなお前たちに何ができた。力も信念も覚悟もないお前たちに」

 

「マク、ギリス……!」

 

「私は私の正義を行く。お前たちは精々、セブンスターズの正義とやらに縋り続けるがいい」

 

未だ胸元に引っかかっているガエリオの手を払いのけたマクギリスは、呆然としているただ一人の友人に背を向け再び歩き出し、しかしまもなく足を止める。

 

「……あぁ、そうだ。アルミリアには『すまない』と伝えておいてくれ」

 

「!?」

 

それは幼いガエリオの妹であり、マクギリスの婚約者の名。

今回の一件を受けてガルスはマクギリスと娘の婚約を解消するだろう。

 

そして一歩も動けずにいるガエリオに背を向けたまま、マクギリスは再び歩き出した。

 

 

 

 

(……やはりギャラルホルンにアグニカの遺志はない。彼女の言う通りだった)

 

ギャラルホルンでの地位も権力も失ったマクギリスの内心は、しかし光と喜びに満ち溢れていた。

火星にて厄災戦の英雄であるヒノカミよりギャラルホルン設立の経緯を知らされ一度は絶望したマクギリスは、しかし彼女の言葉を聞いて再び立ち上がった。

 

『だったらお前がお前の理想とする組織を作ればよい』と。

 

天啓を得た。ギャラルホルンにアグニカの遺志がないのだというのならばギャラルホルンを再建する必要などない。

アグニカの遺志を継ぐ組織を新たに立ち上げればよいのだ。

そしてそのためにはアグニカの隣に立ち誰よりも彼を知るヒノカミの傍に、彼女がいる火星に出向く必要があった。

それに、聞けばデビルガンダムには厄災戦当時の記録映像が数え切れないほど残っており、欲しいというのならデータを譲ってくれるとか。

 

(あぁ、何と胸が躍る。私は時を超えて、アグニカ・カイエルの真の理解者となれる!)

 

駆け出したい衝動は抑えられても、吊り上がる口角は抑えられない。

マクギリスは志を同じくする配下たちを連れ火星へと渡った。

 

そして彼と再会したヒノカミは彼の熱意を受け、思わずこう忠告した。

 

「憧れるなとは言わんがな……『憧れは理解から最も程遠い感情』じゃぞ?」

 

その忠告が届いたかどうかは、爛々と光るマクギリスの瞳を見れば言わなくてもわかることだろう。

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