鉄華団がひっそりと火星に帰り、クーデリアもまた蒔苗との交渉を終えて帰還してからしばらく。
マクギリスはギャラルホルン火星支部司令として、腹心たちを連れ正式に赴任してきた。
そして彼の来訪は火星の人々から歓迎された。
計画通り、彼がギャラルホルンの不義を正すためにクーデリアに協力していたことがクーデリア自身から語られていたからだ。
まずマクギリスは火星支部司令の座につくや否や、火星支部の不正を次々と正していった。
オーリスやコーラルに与していた者は次々と拘束・追放し、出自を問わず能力がある者、正しくあろうとしていた者を優遇した。
特に彼の指示で鉄華団に協力していたクランクとアインは幹部にまで採り上げられた。
続いてギャラルホルンの外部にも捜索の手を伸ばした。
コーラルを捕らえた際に彼と癒着していた者のリストとその証拠は手に入れている。
ノブリスは尻尾切りどころか手足を斬り落とすような出血を伴う方法で何とか自分自身に手が届くことを防いだが、ノーマン・バーンスタインは逃げ切れなかった。
彼がコーラルと深く癒着し自分の地位に縋って娘まで売り渡したと明らかにされた。
当然突き上げをくらい辞職に追い込まれ、財産を持って逃亡しようとしたところを捕らえられた。
彼は賄賂や裏工作でのし上がってきた人間だった。そして新たな火星支部司令のマクギリスは清廉潔白であろうとしている。後ろ暗い取引になど応じるはずがない。
無様にもクーデリアに助けを求めたが、清く正しい彼女は身内だからこそしっかりと罪を償うべきと突き放した。己を殺そうとした男への対応としては穏当すぎるほどで、それがまた彼女の評価へと繋がった。
そして火星及びその周辺の治安改善に乗り出した。
不法な武装勢力の存在を認めず徹底的に排除すると宣言した。
とはいえ火星支部の腐敗は深刻であり、元々いた人員のほとんどを排除してしまったためはっきり言って戦力不足。
そこでマクギリスは躊躇うことなく再び鉄華団に頭を下げ、協力を要請した。
自分たちの住む火星を守るためならと格安で仕事を引き受けた少年たちはギャラルホルン火星支部と連携し、名だたる海賊たちを徹底的に潰して回った。
その中には『夜明けの地平線団』なる大艦隊を引き連れた高名な海賊もいた。
少々苛烈で越権行為が目立つところもあるが、マクギリス・ファリドは『弱きを助け強きを挫く正義のヒーロー』だと火星の人民に称えられた。
同時に、火星の経済も大きく動き始めた。
クーデリアが蒔苗との交渉で手に入れた様々な権利の内、やはり最も大きなものは『火星のハーフメタルの採掘権』だろう。
彼女はその採掘作業の助力をCGSに依頼した。
戦闘要員として年上の連中がゴッソリ鉄華団に移籍してしまったので幼い子供が多いが、彼らはマルバとヒノカミと雪之丞に薫陶を受けた優秀な人材ばかり。特にヒノカミが残した操作補助AIは引き続き活用しているので彼らは機械の扱いに非常に長けていた。
ブルワーズから抜けた元ヒューマンデブリの子供たちは学が浅いが阿頼耶識システムを埋め込まれており、対応する機種に限ればまさに自分の体のように扱える。
加えて阿頼耶識システムそのものがヒノカミの調整と改造により性能が大幅に向上しており、負担も著しく軽減された。
特に『ヒゲ』と呼ばれる突起が無くなったことが大きいだろう。傍から見れば阿頼耶識システムを埋め込まれていると気づかず、町の人々も彼らがデブリであったとわからない。
少年たちは人間として扱われるうちに、少しずつ人間としての心も取り戻していった。昌弘はちょっと意固地になって卑屈なままだが、時折昭弘との会話にも応じるようになった。
とはいえ人員が増えたとはいってもたかが一企業。まだまだ人手が足りない。
なのでCGS社長のマルバはクリュセ周辺の信頼できる企業や人間、自社のOBを大勢集めた。彼のコネの力でようやく頭数が揃い、ハーフメタルの採掘作業が開始された。
「そこにもう少し食い込むこともできたんじゃねぇのか?」
テイワズの本拠地である大型惑星巡行船『歳星』にて、名瀬はテイワズのトップである『マクマード・バリストン』と対面していた。
マクギリスの依頼を直接受けたのはクーデリアと鉄華団。だが鉄華団に依頼を受けたタービンズもまた多大な貢献をしたはずだ。
だと言うのに彼は採掘権の部分譲渡を主張するでもなく、全体を通して得た利益は赤字ではないものの黒字はわずか。鉄華団の子供たちとは昔馴染みであるとしても、商売に情を挟むのは商売人として失格だ。
しかし責められているはずの名瀬は不敵な笑顔を崩さない。
「ちげぇよ親父。コイツは投資さ」
「ほぅ?」
「アイツら、また面白いことを始めようとしてな。そっちも一枚噛ませてもらう予定なのさ。
その前に金を回収したらその動きが遅れちまうだろう?」
「ほほぅ……そいつぁ今回の儲けを捨てるほどの価値があると?」
「あぁ」
名瀬は間髪入れず断言した。
彼らが火星に戻ってきた後で、ヒノカミは鉄華団の主要メンバーと名瀬に己の素性を明かした。
300年以上前から生きていて、厄災戦当時にデビルガンダムを駆ってセブンスターズの先祖たちと共に戦ったパイロットだったと。
クーデリアがフォローしなければ流石の名瀬もすぐには信じられなかっただろう。
だがなるほど、それを知っていたのならばマクギリスが彼女を重宝するのも頷ける。
「アイツらはもっともっとデカくなる。今のうちに縁ができただけでも儲けモンさ。
すぐに親父の度肝を抜いてくれるだろうぜ。勿論、いい意味でな」
「お前ほどの男にそこまで言わせるか……いいだろう。やってみせな」
「おう」
名瀬は帽子をかぶり、マクマードの部屋を立ち去っていく。
「……いいんですかい、親父?アイツに好き勝手させて」
ここまでずっと部屋の壁に背中を預け無言を貫いていたテイワズのナンバー2、『ジャスレイ・ドノミコルス』が口を開く。
「堅実なアイツがここまで言うんだ。やらせておけ」
「チッ、ハーフメタル採掘権はでけぇシノギになっただろうによォ」
悪態をつくジャスレイだが内心では小躍りしていた。
若くして数々の実績を積み、ナンバー2である自分に迫る地位に上り詰めた名瀬を彼は疎んでいた。
その名瀬が明らかな失態を犯したのだ。これで奴が自分を脅かすことは当分ない。
その前に自分がマクマードを超えテイワズのナンバー1となれば、バラ色の未来が待っている。
「…………」
当然、マクマードはジャスレイの思考など看破していた。
その上で彼を泳がせていた。
名瀬と鉄華団が何をしでかしてくれるのか、僅かな期待を抱きながら。