『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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本作で最も頭を悩ませたこと。それは『鉄華団の行く末』です。
戦うばかりが得意な彼らがその能力を生かしつつ、しかし争いのない平和で明るい未来を迎えてもらうために、こんな強引な道筋を用意しました。


第23話 『オレたちの本当の居場所』

 

現代に蘇ったモビルアーマーとの戦いは、今を生きる勇士たちの奮戦により見事討伐された。

ハーフメタル採掘場は大きな損害を受けた。負傷者も大勢出た。だが死者は一人も出なかった。

しかしそれはモビルアーマーが弱かったのではなく、万全の備えをして全員が一丸となって全力を尽くしたからだ。

実際にプルーマと戦った者たちですら『大した敵ではなかった』などと口にすることはなかった。

直接モビルアーマーと戦った者たちは言うまでもない。

 

あんな化け物が何十機もいて、地球や火星どころか宇宙すら我が物顔で闊歩し、時にはモビルアーマー同士が連携して、人類を根絶やしにしようと襲い掛かっていたのが厄災戦という時代だったのだ。

清廉潔白を旨とするマクギリスは今回の戦いの顛末を隠すことなく全て公表し、それは結果的に厄災戦の恐ろしさを伝え、今の時代を築き上げたかつての英雄たちを称える風潮へと変わった。

 

だがそれは英雄の末裔とギャラルホルンを称賛する声には繋がらなかった。

これほど恐ろしいモビルアーマーを300年も放置していた怠慢は言い逃れができない。

しかもセブンスターズはマクギリスの要請に対し戦力提供を拒絶した。火星を見捨てたも同然だ。

若き英雄マクギリスと彼が率いる火星支部を除き、ギャラルホルンという組織そのものへの評価はこの一件で更に下がった。

 

もしかしたら他にもモビルアーマーが見つかるかもしれない。

ギャラルホルンは自分たちを見捨てるかもしれない。

そう考えた地球各国の経済圏はより強く自衛の戦力を求めるようになった。

 

そんな彼らの視線はギャラルホルン火星支部と共に戦い活躍した鉄華団に、そしてその中でも恐ろしい活躍をしたデビルガンダムという機体に注がれ始めた。

単騎でモビルアーマーに匹敵する強さを持ち、他の機体がボロボロになった中で唯一無傷。自己再生能力も見せてしまった。

『鉄華団を自国で召し抱えたい』程度ならまだまともな方。

『デビルガンダムを強奪したい』などと考える輩も多く現れた。

 

勿論、鉄華団もヒノカミもどこかの組織の下に着くつもりなどない。

その気があるならアーブラウ代表選挙の後で蒔苗から軍事顧問を打診された時に要請を受けていた。

だが所詮は火星の一組織。戦果こそ華々しいが弱小警備会社で、マクギリスと火星支部が防波堤となってくれているがすぐに限界が来る。

 

早急に鉄華団の地位を上げなければならないが、そのために進めていた計画はまだ完遂していない。

それでも彼らは計画を前倒しするしかなくなった。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「ついたぜ、親父」

 

「……何もねぇじゃねぇか」

 

名瀬がハンマーヘッドで、マクマードをデブリ帯へと連れて来た。

 

テイワズの実態はマフィア。そのトップであるマクマードは多くの人間に命と地位を狙われており、拠点である歳星の外に出ることはあまりに危険極まりない。

しかし己の信頼する名瀬が『どうしても直接見てほしい物がある』と頭を下げるので、くだらない要件ならば容赦はしないと告げ応じてやることにした。

勿論、彼が歳星を離れていることは極秘事項だ。

 

「……ん?おい、この辺はデブリ帯だったはずだろう?」

 

そこでマクマードも違和感に気付いた。

デブリ帯に何もない、デブリすらないという状況も間違いなく異常事態である。

 

「デブリは全部撤去したのさ。鉄華団の奴らと協力してな」

 

「ほぅ……これが俺に見せてぇモンだと?」

 

長年放置されていたデブリ帯をこの短期間で一掃したというのならば確かに快挙だ。

商売敵と言える海賊の温床であり、テイワズの輸送部門担当のタービンズにとって航路の安全の確保は業務の安定に直結する。

だがマクマードを危険に晒してまで見せるほどかと言われればそうではないだろう。

 

「まさか、こっからが本番さ。……連れて来たぜぇ?」

 

『ウス。ありがとうございます、ダンナ』

 

ハンマーヘッドのモニターに少年の顔が映し出される。

 

『ようこそおいでくださいました、マクマード・バリストン代表。

 オレは鉄華団の団長を務めています、オルガ・イツカです』

 

「今話題の鉄華団のお出ましか」

 

『名瀬のダンナに散々ご迷惑をおかけしておきながら、挨拶が遅れたこと申し訳ありません。

 ですがだからこそ、真っ先にお迎えするのはマクマード代表でなければと、こうしてダンナにお連れ頂いた次第です』

 

「んん?迎える?」

 

「気ぃしっかり持てよ、親父」

 

『ミラージュコロイドステルス、解除だ!フェイズシフト装甲展開!!』

 

 

 

直後、ハンマーヘッドの正面に巨大な建造物が現れた。

 

 

 

「んな……!?」

 

見た目は真っ赤な花の蕾。だが大きさが異常。

その直径は10㎞を遥かに超えている。テイワズの拠点である歳星はもちろん、この世界の一般的なコロニーをも上回るサイズだ。

 

これこそが鉄華団とタービンズが協力し、デビルガンダムがデブリを食って作り出した部品を組み上げ、2年近い歳月を費やして作り出した超大型惑星巡航船。

 

『こいつがオレたち鉄華団の、新たな拠点です』

 

「つっても、出来上がってんのはまだガワだけなんだがな」

 

流石のマクマードも言葉を失う。目を見開き口を開き、手に持っていた葉巻を落とした。

たっぷり1分以上かけてようやく再起動したマクマードが隣に立つ名瀬を見上げた。

 

「…………おい名瀬ぇ。なんてもんを見せつけてくれやがる」

 

「おっと、気を抜くのはまだ早いぜ親父。

 本当に見てほしいのはコイツの中身だからな。

 今言った通り未完成だが、それでも親父の度肝を抜けるはずさ」

 

「まだこの上があるだぁ?なんて親不孝者なんだテメェは。

 老い先短い俺の寿命をさらに短くしようってのか?」

 

「くっくっく、さぁてどうだかな。……入港だ!」

 

ハンマーヘッドが巨大な花の蕾へと入っていく。

船の中には地球と同じく重力が存在していた。相当な数のエイハブ・リアクターを使用していると察せられた。

 

船を降り車に乗り換え、名瀬の運転で蕾の中心の方へと向かう。

細く長く暗い道を超えると、視界一杯に光が溢れた。

 

 

「なぁ……っ」

 

 

車が走っているのは長い長い橋の上。

頭上には青空が映し出され、橋の下には湖……いや、もはや海か。

そして車が進む先には洋上の孤島があった。土と石だけで構成されたほぼ茶色一色の塊だが、確かに島だ。

 

 

 

「ようこそお越しくださいやした。マクマード代表」

 

島に到着し車を降りたマクマードを、オルガ率いる鉄華団の面々が頭を下げて迎え入れる。

 

「……こいつを、テメェらが作ったってのか?」

 

「ウス」

 

改めてマクマードはこの空間を見渡す。

テイワズの拠点の歳星にも居住区はある。商店街や歓楽街も存在する一つの街だ。

それを思えば船の真ん中に人が過ごすための区画を作るのはおかしなことではない。

 

だが鉄華団という少数精鋭組織が所有するにはあまりに大きすぎて、あまりに力が入りすぎている。

船というには異質で非合理的な外観も相まって、まるで『この空間を作るために』この船を作り上げたかのようだ。

 

「親父の想像で合ってるぜ」

 

「どういうことだ?」

 

「語ってやりな、オルガ。お前らの計画をさ」

 

頭を上げたオルガは不敵な笑みを浮かべていた。

彼の周囲を笑顔の子供たちが取り囲んでいる。

 

 

「……まずは、植物を植えます。

 この中は天気や雨風やらを操作して、地球に近い環境を再現できるようになってる。

 時間はかかるでしょうが、この島全体に緑を行きわたらせます」

 

「む?」

 

「次は動物を連れてきます。最初は小さめの動物を……いや、馬はすぐにでも欲しいよなぁ」

 

「鳥もでしょ、オルガ」

 

「そうだな三日月。おっと、魚もだ。

 それに虫もいなきゃなんねぇんだったか」

 

「虫は苦手なんだがなぁ……」

 

「花が実をつけるには必須なんだよ。我慢しなきゃ」

 

「そんで自然環境が出来上がったら、次は建物だ。

 オレらや従業員のための家、農場や牧場。

 鶏や牛や豚も連れてきて、うまい飯がいつでも喰えるようにする。

 それから店と、諸々の施設と……」

 

「娼館は必須だよな!」

 

「馬鹿野郎シノ、そういうのはここにゃあ合わねぇよ。

 海水浴場や遊技場やらが一通り揃ったら、島の一等地にでっけぇホテルを建てるのさ!」

 

「っ!?まさかテメェらは!」

 

 

 

「えぇそうです。オレたち鉄華団は、ここを『一大リゾートアイランド』にする!!」

 

「『観光業』を、興そうってのか……!?」

 

 

 

ヒノカミが漏らしていた。

この世界には娯楽が少なすぎる。

生きていくのに必死なのはわかるが、あまりに夢や希望がなさすぎると。

 

「だから作んのさ、オレたちで!

 大人も子供も思わず笑顔の華を咲かせちまうような場所を!」

 

「「「「「うぉぉぉーーーーっ!!」」」」」

 

火星にも富裕層はいる。今や火星を代表する有名人となったクーデリアに宣伝してもらえば金と時間を持て余している連中が集まるはずだ。

火星の英雄マクギリスにも借りがある。彼の名で後押ししてもらえば信用も十分。

そしてここは『惑星巡航船』。地球の傍にだって自力で行ける。評判が良ければ地球からの客も見込めるかもしれない。

 

客を迎え施設を維持管理する従業員も大勢必要だ。学業を修め礼節を学んでいるCGSの子供たちなら適任。それでも人手は足りないだろうが仕事を探している人間なら火星には腐るほどいる。マルバのコネがあればいくらでも集められるだろう。

そして金持ちが落とした金を給金として受け取った従業員たちが、火星の経済を循環させ潤す。そうなれば多少余裕ができた一般人も『ここに来たい』と言い出すかもしれない。中層向けの安価なホテルやプランも用意しよう。

 

もはや移動するコロニーとも呼べるこの船を欲しがる連中はいくらでも湧き出てくるだろう。海賊は一通り殲滅したがまた新たに生まれるだろうし、欲に駆られた一般人が凶行に走る可能性も否定できない。

そいつらを撃退・鎮圧する専属警備員が鉄華団だ。近隣の不法な武装組織がマクギリスによりほぼ壊滅させられ警備会社の需要が薄くなった今、これが鉄華団の新たな仕事になる。

 

残るは店や施設をどうやって誘致し運営していくかだが……。

 

「オレらと一緒にやりませんか、マクマードさん!」

 

「!?」

 

「その辺のノウハウにかけちゃ親父に敵う奴はいねぇだろう?

 コイツぁでけぇシノギになるぜぇ?掘って終わりのハーフメタルと違い、持続可能と来たもんだ。

 うまくすりゃあ十年、二十年……いや百年先までテイワズを発展させる一大事業になる」

 

「どうか、オレら鉄華団のビジネスパートナーになってください!

 ……お願いします!!」

 

「「「「「お願いします!!!」」」」」

 

「………………」

 

 

もはやポーカーフェイスを貫く余裕すらなく呆然としていたマクマードは、ゆっくりと動き出し懐から葉巻と火種を取り出した。

深々と頭を下げたままの子供たちを放置し、無言で一服。そして煙を吐き出す。

 

 

「……お前ら、『四季』って知ってるか?」

 

「……たしか、地球の一部で起きる自然環境の変化でしたか?

 気温やら湿度やらが変化して、1年かけて一巡するっつぅ……」

 

「ほぅ、よく勉強してるじゃねぇか。

 春、夏、秋、冬。季節ごとに景色はその姿を変えんのさ。

 春は桜が咲き、夏は蛍が舞い、秋は紅葉が散り、冬は一面の雪化粧。

 つっても今の地球じゃ環境が変化してかつての光景なんざ残ってねぇらしいが……ここでなら再現できるかもなぁ」

 

「!?」

 

「そんでよ、それを目で見て肌で感じながら、酒を一杯ひっかけんのが最高って話さ。

 ……そいつを味わってみるのが、俺の長年の夢だった」

 

「じゃあ……!」

 

 

 

「俺の夢を叶えてみせろ。それを誓うなら、お前らの夢に手ぇ貸してやる」

 

「っ、ハイ!!必ずやマクマードさんを、初めてのお客としてお迎えします!!!」

 

「「「「「いぇーーーーーーっ!!!!!」」」」」

 

差し出されたマクマードの右手を、オルガは両手でしっかりと掴んだ。

彼の後ろで子供たちが飛び跳ね、肩を抱き喜びを分かち合う。

 

鉄華団はテイワズと対等な同盟を結んだ。

二つの組織の橋渡し役として改めてタービンズが指名され、島の開発の継続と必要な物資の供給もテイワズ全体で支援することとなった。

その後クーデリア、マルバ、そしてマクギリスにも事の顛末を報告し協力の約束を取り付けた。

 

 

 

「ねぇオルガ。ここがそうなの?」

 

「……あぁ、そうさ」

 

だがオルガが皆を連れて来たのではない。オルガと皆で作り出した。そしてこれから守り続けていくのだ。

『オレたちの本当の居場所』を。

……ヒノカミによれば、その場所をこう呼ぶらしい。

 

 

 

「ここが、オレたちの!!」

 

 

「「「「「『ベストプレイス』だぁーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」

 




・鉄華団拠点

鉄華団がタービンズと協力し建造した、赤い花の蕾を模した姿の超大型惑星巡航船。
貴重なエイハブ・リアクターを大量かつ贅沢に使用し、外装にはミラージュコロイドステルスとフェイズシフト装甲を採用した、秘匿性と強度に優れる不沈の移動要塞。
しかしそれらは中心部に作り上げた人工島を守り抜くためだけに存在している。
水や大地は宇宙空間に浮かぶ氷や土を使用し、人体に有害な物質をデビルガンダムの能力で浄化した。


イメージ元はとんでもなくデカい『ブッドキャリアー』です。
『鉄の華』って言ったらこれが頭から離れなくて、強引に採用しました。
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