「吼えろ『蛇尾丸』!!」
応急処置を終えた恋次も斬魄刀を開放し、隣互へと攻撃を仕掛ける。
蛇腹状になった刃が鞭のように彼女へと襲い掛かるが。
「はぁ!?うぉぁ!!」
相手は弾くでも避けるでもなく、空いていた左腕で造作もなく掴んだ。
そして凄まじい力で逆に引き寄せてくる。
死神にとっては命にも等しい斬魄刀を手放すわけにもいかず、咄嗟に動きを操作して刀身で彼女を縛り上げる。
「今だ隊長!」
これで身動きが取れないはず。
白哉が花弁の刃を操り隣互へと殺到させる。
「ふん」
「なんだと!?」
隣互はあっさりと蛇尾丸を引きちぎった。衣服は少し破れているが、肌には傷一つない。
「……うっとうしいの」
燃える刀と炎の渦を振り回し、花弁の刃を次々と飲み込んでいく。
とはいえ無数の刃全てを焼き尽くすことはできず、残る一部が確かに隣互へと届いたのだが。
「……無駄な抵抗は済んだか?」
「無傷……!?」
正確には無傷ではないが、回道により一瞬に修復できる程度の傷でしかないということだ。
隣互たちの母である真咲は霊子を血中に流し防御力を飛躍的に高める『静血装』の使い手。
隣互もそれを最も得意としており、生半可な攻撃は通用しない。
そしてOMTの中に取り込まれたOFA。
この6年間鍛え上げることで前世から引き継いだ力に更に上乗せし、65%まで出力を上げていた。
身体能力を高める個性は筋力だけでなく、肉体の頑強さも対象となる。
そして千本桜を燃やして生じた炎が個性により操作され、更に彼女の防御を強固にする。
炎の壁と、頑強な肉体と、滅却師の技術による三重の防御。
多方向からの飽和攻撃を得意とするが斬撃の威力自体は高くない白哉の千本桜は、隣互に対して相性が悪すぎた。
恋次は相性以前に単純に力不足だ。そして。
「では手早く済ませよう。限定解除を待ってやる義理もないのでな」
(コイツ、そこまで知って!?)
副隊長以上の死神が現世に向かう際、現世の人間たちに過剰な影響を及ぼさないよう霊力を大幅に制限する処置を受ける。
解除するには尸魂界の許可が必要。隣互が斬魄刀を開放してすぐに申請を送っているが、許可が下りるのはまだまだ先になるだろう。
この任務は力を失った死神を捕らえ、それを借りている素人を処分するだけの、簡単な任務になるはずだった。尸魂界の初動は更に遅いはずだ。
「そんなに誇りとやらが大切ならば、現世流の最上の名誉をくれてやろう。
貴様らの掟とやらに『二階級特進』があるかは知らぬがな……!」
彼女の霊圧が更に膨れ上がっていく。
並みの死神の力ではない。隊長格レベルだ。
力を大幅に制限された白哉と恋次は一太刀で切り殺されるだろう。
「待ってくれ!!」
彼らの前に朽木ルキアが立ちはだからなければ。
「私は彼らと尸魂界へ戻る!お主らにはもう関わらぬ!
だから、だからこの場は収めてくれ!!」
「……もはやそ奴らは貴様の仲間でも家族でもない。
他ならぬそ奴ら自身が貴様を切り捨てたのだぞ?」
「それでも……私の幼馴染と、兄さまなんだ……!」
「……ルキア」
彼女は隣互の霊圧を真っ向から受けて震えながらも、必死に両手を広げ立ち続ける。
「俺からも頼む」
「一護?」
「俺らが売った喧嘩だ。俺ら自身でケリをつけてぇ。
それに……そんな簡単に誰かを殺すアンタを、見たくねぇんだ」
「……」
見限られてなお兄を思う妹の姿と、殺されかけた弟からの懇願。
隣互が冷静さを取り戻すには十分だった。燃え上がるようだった彼女の霊圧が弱まっていく。
「もしや……貴公らは、あの男の子か……?」
「……あ」
一護はようやく自分の行いが家族を危険に晒していたと気付いた。
ルキアは一人、斬魄刀を使う人間は二人。
必然的に他の死神が関わっているはず。
そして20年ほど前にこの区域で消息を絶った死神がいて、似た顔を持つ男と似た斬魄刀を持つ女の姉弟が現れれば、そちらに思い至るのも当然だろう。
「……それを知った貴様は何とする?」
父のことを尸魂界に知られるわけにはいかない。
場合によっては先ほどの弟らの懇願を踏みにじってでも、隣互は白哉らの口を塞がねばならない。
「……撤収するぞ、恋次。
我らの任務は朽木ルキアの捕縛と、その力を奪った人間の処分。
……どこぞの馬の骨ともわからぬ男の力を持つ者たちではない」
「は、はい!」
どうやら彼らも通すべき筋は理解しているらしい。
隣互は刀を納め、ルキアは白哉らの方へと歩いていく。
「あ、おいルキア!連れていかれたらお前が!」
「下がれ一護。彼女自身が決めたことじゃ。
少なくとも今この場でその決意を汚すことは許さぬ」
それでもなお踏み出そうとした一護の前に恋次が立ちはだかる。
「……オレたちだって、好き好んでルキアを殺したいわけじゃねぇ。
可能な限り減刑を請願するつもりだ」
「聞き入れられなければどうする?」
「そいつぁ……」
「『掟だから』。『間違っているから』。『力が無いから』。
それらは己の歩みを歪める理由足りえぬ。
……本当に大切なものから目を逸らすなよ」
「……チッ」
恋次との会話をしているうちに、白哉らの向こうに扉が現れた。
あの向こうに尸魂界があるのだろう。
扉をくぐる前に白哉が足を止め、背を向けたまま呟く。
「……通例であれば、刑の執行は一月後だ」
「兄さま……?」
「……ゆくぞ。ルキア、恋次」
部下と妹の返事を待たず、白哉は扉の向こうへと歩き出した。
二人もそれに続き、扉が消える。
「やれやれ……不器用なだけの阿呆であったか」
「……また、護られちまった」
一護に絶望感を与えるための演出だったんでしょうが、当時の白哉と恋次って悪役らしすぎるんですよね。
この作品では早めに一皮剥いておきます。