『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第26話 憧れ

 

『……今、何と言った?』

 

「聞こえなかったのかな?『ギャラルホルンなどどうでもいい』。そう言ったのだよ」

 

彼らしからぬ間抜け面を晒すラスタルに、マクギリスは言葉を続ける。

 

「まもなくバクゥ……モビルスーツに代わる新たな地上用戦力が揃う予定だ。宇宙用の兵器についても計画が進んでいる。

 モビルスーツに頼る必要が無くなれば、地球からのエイハブ・リアクターの供給に依存する必要もなくなる。

 即ち……ギャラルホルン本部との繋がりが不要になるということだ」

 

ラスタルはモビルアーマーとの戦いで彼に用意できる限りの戦力をよこしてきた。

それがギャラルホルンとしては当たり前なのだが、腐敗したセブンスターズを基準に考えているマクギリスはこれを借りと受け止め、己の胸の内を正直に明かすことにした。

何より、すでに明かしても問題ない段階にまで事態は進んでいた。

 

「そしてギャラルホルン火星支部は、ギャラルホルンからの独立を宣言する。

 腐った組織を切り捨て、真に民と正義を守る治安維持組織として再出発する」

 

『ギャラルホルンを……切り捨てるだと!?』

 

「その通りだ。ギャラルホルンが我々を切り捨てるのではない。

 我々がギャラルホルンを切り捨てるのだ。

 貴様らではできなかったことを私が成し遂げる。

 手始めに貴様らが見捨て苦しめてきた火星を、我々の手で繁栄させる」

 

不毛の荒野?それは今だけの話だ。

厄災戦で荒廃した地球の自然すら再生させた『災害復興用重機』であるデビルガンダムを従えるヒノカミがいる以上、火星が緑溢れる惑星に生まれ変わることは確定している。

また面倒に巻き込まれているようだが諸々が落ち着けば火星の自然復興を再開するとも聞いている。

 

「クーデリア嬢が民を導き、CGSや鉄華団やテイワズが経済を支え、我々が民と社会を守る。

 もう火星は己の脚で立ち上がり、歩き始める力を持っているのだ。

 火星は地球人の植民地という立場から脱却し、完全な自立と独立を果たす」

 

『それを地球の経済圏が認めるとでも?』

 

「認めなければどうするのかね?

 近年は各国も自国で戦力を整え始めたが、火星に攻め入るほどの力はない。

 経済制裁も無意味だ。経済で依存せず済むようになるからこその独立なのだから。

 ……それとも、ギャラルホルンが彼らの走狗となり火星に攻め入るとでも?」

 

『っ……』

 

仮に火星に攻め入る流れになれば、ギャラルホルンが出す戦力はラスタル率いるアリアンロッド艦隊だけになるだろう。

カルタが率いる地球外縁軌道統制統合艦隊はその名の通り地球の守護が任務。火星に送ることなどできない。

他の組織は地上軍のみ。宇宙で運用できる兵器も宇宙での戦闘経験がある兵士もいない。

ギャラルホルンにおけるアリアンロッド艦隊の活躍は目覚ましいが、それすなわちアリアンロッド艦隊以外のギャラルホルン宇宙軍は存在しないも同然ということだ。

 

しかも相手はコロニーのデモ活動や少数の武装組織程度ではない。火星を治めるギャラルホルンの支部だ。

マクギリスの指揮の下、1年以上にわたって火星圏の数々の武装勢力を討伐してきた火星支部の兵士たちの士気と練度はギャラルホルンの中でも最高峰だろう。

アリアンロッド艦隊の全戦力を投入すれば討滅することはできるだろうが、甚大な被害を被る事態は避けられない。

問題と腐敗が表面化しつつある今の状況でギャラルホルン最大戦力であるアリアンロッド艦隊が弱体化すればそれがトドメになりかねない。

秩序は破壊され、各地で武装勢力が蜂起し、世界は混沌の時代に逆戻りだ。

 

そして何より、ハイリスクノーリターン。

マクギリスはギャラルホルンに直接的な被害を及ぼすつもりがないことは今までの会話で明らかだ。

ギャラルホルンを脅かす存在ではあるが敵ではなく、倒したところでギャラルホルンが安定を取り戻すわけでも、莫大な利益が得られるわけでもない。

 

「理解したかね?ではもう一度言おう。

 『我々火星支部はギャラルホルンから独立する』。

 こちらから手を出すつもりはないが攻めてくるというなら受けて立つ。

 求めるのなら握手くらいは応じてもいいが、それ以上の譲歩を引き出せるとは思わぬことだ。

 地球が火星から一方的に搾取し続けることで成り立っていた時代は終わる。

 火星を見習って、地球もいい加減に自立したまえ」

 

『……マクギリス。今の貴様の望みは何だ?何が貴様を突き動かす?』

 

「愚問だな。今も昔も、私の胸にあるのはアグニカとかつての英雄たちへの崇敬のみ」

 

ヒノカミから見聞きしたアグニカと言う人間はマクギリスが考えていたよりも遥かに俗人的で、しかし英雄と呼ぶに相応しい傑物だった。

彼の失敗談を聞いても熱は覚めなかった。憧れは一層強まった。マクギリスは何としてもアグニカの隣に立ちたかった。

だが彼は過去の偉人であり歴史上の人物。隣に立つことなどできない。

 

ならば『歴史上で彼の隣に立つ』しかない。

 

 

「アグニカに並ぶ英雄としてこの世界の歴史に名を刻む。

 300年前の英雄アグニカの名を、今より更に300年先にまで伝えるための標となる。

 それこそが我が生涯をかけて臨む唯一の望みだ」

 

 

『…………くっくっく、くははははは!

 はぁーーーっはっはっはっは!!』

 

一瞬言葉を失ったラスタルは、まもなく大笑いを始めた。

 

『何をしたいのかと思えば……”ヒーローごっこ”とはな!!

 笑いが止まらんよ!こんなに笑ったのは本当に久しぶりだ!!』

 

モニター越しにマクギリスが眉根を寄せたことに気付いてラスタルは慌てて取り繕う。

 

『いやぁすまん!馬鹿にするつもりはないのだ!

 あの幼かった子供がいつの間に随分大きくなったと思っていたら、中身は子供のままだった!

 そんなことも見抜けずいいように振り回されてきた自分と世界が滑稽極まりなくてな!はははははは!!』

 

ひとしきり笑い続けたラスタルはようやく呼吸を整え、不敵な笑みを浮かべマクギリスを見る。

 

 

『……よかろう。やってみたまえ』

 

「ほぅ?誰よりも秩序に拘る貴様が私を認めると?」

 

『見極める、と言ってもらおうか。

 貴様が起こした風がこの世界に何をもたらすのかを、な。

 無論、言葉を違え愚者に堕ちたならばその首即刻もらい受けるぞ』

 

ラスタルはギャラルホルンの中でも秩序に……『現行体制の維持』に拘る男だ。

だがそれは、それ以外の方法でこの世界の平穏を守り抜くことができないと確信していたからだ。

ギャラルホルンに依存する社会の歪さと、特権階級に慣れ切ったセブンスターズの腐敗に眉をひそめながらも、しかし世界全体の平和のためにはそうするしかないと考えためらいなく非道な手段を実行してきた。

 

だからマクギリスの望みが現行体制の転覆ではなく、混迷する火星圏に新たな秩序を打ち立てることだと言うのなら積極的に敵対する理由はない。

無論、地球には相応の混乱は起きるだろうがそれは致命的なものではなく、何よりマクギリスが動かずともいずれ生じていた事態だ。

むしろ本格的に拗れる前で、発生するタイミングが分かっているというのなら対策も取れるというもの。

 

ラスタルは今回の会談の内容は己の胸の内だけにとどめると約束し通信を終えた。

 

それから間もなく。

 

ギャラルホルン火星支部はギャラルホルンから脱退し、火星の治安維持を専任する組織として再出発すると宣言。

ローマの軍神マルスと同一視された、戦いと法と正義を司る北欧神話の神の名を借りて、組織の名を『テュール』と定めた。

 

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