『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第27話 経済圏戦争

 

ジャスレイとノブリスが共謀し失敗して消滅した頃と、ギャラルホルン火星支部が独立を宣言し名を『テュール』と改めたのはほぼ同時期だった。

 

地球の人間以外は受け入れなかったギャラルホルンに対しテュールはむしろ積極的に火星の民からの志願を求めた。火星の組織なのだから当然だ。

年齢制限も設けず、身分も問わず、才ある者を積極的に起用し重宝すると宣言した。

今や『革命の乙女』クーデリアに並ぶ『火星の英雄』と呼ばれるマクギリスのようになりたいと、多くの若者が集まった。

流石に彼らがすぐに使い物になるわけではないが、ギャラルホルン時代に腐敗した者を一掃したことで生じていた人員不足はやがて解消されるだろう。

 

始まりは『革命の乙女』クーデリアの地球遠征。

鉄華団を連れた彼女が地球に向かい、蒔苗のアーブラウ代表再任を手助けしてから、特にクリュセ周辺は明るいニュースばかりだった。

ハーフメタル採掘権により人々は仕事を得て、給料を稼ぐことができている。

組織のためではなく正義のために立ち上がったマクギリスが火星を守り、海賊の悉くを撃ち滅ぼし暴力に怯える必要は無くなった。

しかも最近は、モビルアーマー討伐の立役者である鉄華団がテイワズと組んで何かとんでもないことをやろうとしているとか。

まだまだ苦しく辛いことも多いが、今を生き抜けばきっと素敵な明日が待っている。

火星の人々がそう信じられる世界になりつつあった。

 

しかしそんな人々の想いを踏みにじるかのような事件が地球で勃発した。

 

四大経済圏の内の三つが、一斉にアーブラウに宣戦布告し戦争を仕掛けたのだ。

 

 

 

「くそっ!何がどうしてこうなるってんだ!!」

 

「申し訳ございません、私どもも寝耳に水で……」

 

真っ先に情報を手に入れたクーデリアは即座に信頼できる面々に声をかけた。

フミタンが抑えた施設の会議室に、マルバと鉄華団と彼らの関係者が集まる。

 

火星の……正しく言えばクリュセの発展はその所有者であるアーブラウの認可があってこそだ。

己の再任に尽力したクーデリアと鉄華団への恩義に報いるため、蒔苗はクリュセを優遇し次々と自治権を譲渡していった。

伴って、クリュセは急速に発展した。ハーフメタル採掘権が解放されたことはもちろんだが、それだけでは説明がつかないほどの飛躍を始めた。

それはクーデリアとマクギリスに隠れた3人目の、いや始まりの英雄であるヒノカミのブレーキが外れたからだ。

 

彼女は戦士ではあるが、それ以上に研究者であり技術者であり開拓者である。その頭の中には『世界が違う』どころか『違う世界』の技術と知識がぎっしりと詰まっている。

CGSに勤めていた頃の彼女は悪党や施政者に目を付けられる可能性を危惧しそれらの公開を諦めていたが、数々の制限の撤廃と治安の回復に伴い積極的に放出する方向に切り替えた。もちろん悪用されにくい物を厳選して、クーデリアとマクギリスを通じてだ。

半ば独立したような状態でも、未だにクリュセとアーブラウには密接な繋がりがある。クリュセの発展の恩恵はアーブラウにも波及する。

明らかにクリュセとクーデリアを贔屓する政策を進める蒔苗に当初はそれなりの批判もあったがすぐに立ち消えた。

アーブラウに限って言えば、市民の間でも『火星独立を認めた方が恩恵が大きいのでは』という考えが広まっているほどだ。

 

しかし面白くないのは他の経済圏だ。

アーブラウがクリュセの権利を認める以上、彼らもそれぞれの火星の領地の支配を緩和させるしかない。でなければ人も物も金も豊かになるクリュセへと流れ出てしまうからだ。

だがクーデリアとヒノカミがいない他の領地では、クリュセほどの急速な発展を遂げることはできない。いずれ恩恵は火星全土に広がり他の経済圏も豊かになっていくだろうがそれまでの間はただ権利を手放したことによる損失だけがのしかかる。このままではアーブラウの一人勝ちになりかねない。

 

「だからっていきなり戦争なんて話に行きますかねぇ?」

 

「ギャラルホルンが睨みを利かせている中で、そんな大規模な紛争に発展するなぞ普通はありえん。

 腐敗が明らかになり衰えはしたが、各国の戦力では未だに遠く及ばぬ相手じゃからな」

 

「じゃあその内ギャラルホルンが動いて終わりですか?」

 

アーブラウも事態の解決のため治安維持組織であるギャラルホルンに協力を要請しているらしい。

かつて過激化した国家間紛争の末にモビルアーマーが生まれた背景を思えば、ここで争いを収めることこそギャラルホルンの使命であるはず。

 

 

「残念ながらギャラルホルンが動くことはないだろう」

 

「「「!?」」」

 

 

会議室に入ってきたのは、少し到着が遅れたマクギリス。石動がその後ろに続く。

 

「どういうことでしょうか、マクギリスさん」

 

「……今回の事態、セブンスターズが引き起こしたものである可能性が高い」

 

「「「なっ!?」」」

 

「……ラスタルからか?」

 

「フッ、やはり私が奴と連絡を取り合っていることは気付いていたか。

 その通りだ。証拠は見つかっていないがどうやら私を陥れようとする老害共の企てらしい」

 

火星の治安を改善し、モビルアーマーを討伐し、英雄と持てはやされ、ついにはギャラルホルンからの独立を宣言。

マクギリスと比較され続けているセブンスターズが面白いはずがない。

だがマクギリスは直接的な敵対行動は取っておらず、火星にまで攻め入り滅ぼすのは労力と損失に見合わない。

だから他のセブンスターズたちが強く訴えてもラスタルはアリアンロッド艦隊を動かさない。

 

ならばと彼らは、逆にマクギリスをおびき寄せることにした。

彼とクーデリアは盟友であり、クーデリアの改革はアーブラウの蒔苗があってこそ。

アーブラウが倒れクリュセの支配権が他に移り、方針が転換されれば改革は潰える。

 

「だから連中はSAUを始めとした他の経済圏を唆し、アーブラウに攻め込ませたのだろう。

 物資や兵器を横流しして、『お前たちが武装蜂起してもギャラルホルンは見逃す』とでも言い含めて。

 クーデリア嬢からの懇願を受けて軍勢を率いてのこのことやってきた私を『地球に侵略に来た』とでも吹聴して貶め、討滅する大義名分とする。筋書きはこんなところか」

 

「そこまで……そこまですんのか!?

 アンタを排除するためだけにそこまで!?」

 

「……六家それぞれの動きを教えてくれ」

 

「今回の下手人はネモ・バクラザンとエレク・ファルク。

 セブンスターズの中でも年寄りで特に保守的……いや、既得権益にしがみついている連中だ。

 穏健派寄りのガルス・ボードウィンも抱き込んで、この三家で管理しているギャラルホルン地上軍を此度の紛争に介入させないよう圧力をかけているらしい。

 ……私はイズナリオの一件でガルスの顔に泥を塗ってしまったからな。恨みを買うのも無理はない。

 ラスタル・エリオンはこうして私に伝えてきた通り介入賛成派だ。

 私が軍勢を率いて向かえば彼とアリアンロッド艦隊が対処せざるを得なくなる。

 ……と言うよりも老害共は、肝心の我々の対処はアリアンロッド艦隊にさせる腹積もりだろうな。ラスタルが憤慨するのも無理はない。

 イオク・クジャンは未熟者の若造で、完全なラスタルのイエスマンだ。所属もアリアンロッド艦隊の一部隊の長でしかない。

 そしてアリアンロッドを抜ければカルタ・イシューが指揮する地球外縁軌道統制統合艦隊が立ちはだかることになるだろう。彼女もまたラスタルと同じ立場にあり介入賛成派だ。

 彼女は先日までは代理だったが、今は正式な当主となっている。

 と言うよりも、どうやら老害共に対抗するために病床の父を説得し当主の座をもぎ取ってきたようだ」

 

「3:3か。そしてそれぞれの支配域が完全に宇宙と地球に別れているわけじゃな。

 その上で肝心の地球側が全て敵と……」

 

「六家が顔を突き合わせ協議しているが、紛争介入賛成派と反対派が拮抗しているためいつまでも結論が出ず、組織の枠を超えてギャラルホルン地上部隊を動かすことはできない。

 『セブン』スターズだった頃は奇数であるが故に必ず決議が出たのだがな。

 私がギャラルホルンを離れた事態を逆手に取られた」

 

「むしろそのカルタって人にゃあ感謝すべきか。

 その人が動いてくれなきゃ、多数決でアリアンロッド艦隊の火星侵攻にすら至ってたかもしれねぇ」

 

「ともかく、こっちが動くしかないですね。

 でも軍勢を連れていくと本格的な戦になってしまうと……」

 

「そいつは勘弁だな。ようやく火星の治安が落ち着いてきたってのにマクギリスの大将とテュールがいなくなっちゃあ元の木阿弥だ」

 

「となれば、方法は一つしかないな。

 マクギリス、ラスタルとカルタに伝えよ」

 

「方法があるのですか!?」

 

「なんと伝えるのだ?」

 

 

 

「ギャラルホルン宇宙軍が見逃しても不思議ではない、超少数精鋭を送り込むと。

 それで敵国全てを蹂躙する。これしかあるまい」

 

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