『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第31話 希望の花

頼りにしていたギャラルホルン地上軍が事実上壊滅したことで、各国経済圏はアーブラウへ停戦を申し出た。

色々と取り繕ってはいたが誰が聞いても降伏宣言だった。

 

アーブラウは一方的に攻め入られた側であり、各国が示し合わせて共謀した証拠もラスタルの宣言により明らかになっている。

となれば容赦する理由はない。

蒔苗は各国に、国が傾くどころか消し飛びかねない額の賠償要求を突きつけた。

当然支払えるはずはなく、しかし要求を突っぱね戦争が再開されれば今度は物理的に国が滅びかねない。

セブンスターズの不正が明らかとなり事後処理に揉めている今のギャラルホルンは、仮令国家消滅の事態にあってすら動くことはないだろう。

 

今際の際にあってなお見苦しく、そして図々しくもごねる各国の反応を蒔苗は予想できていた。

彼としても本当に他の国々を全て滅ぼす事態は望むところではない。自国にも経済的な影響は出るだろうし、間違いなく後々まで逆恨みされる。

故に助け舟を出すことにした。

と言うよりも、多額の賠償金を吹っ掛けたのは本命であるこちらの要求を通すためだった。

 

『火星に関する全権の譲渡』。

 

過去にさかのぼり未来に至るまで、ありとあらゆる権利と主張を放棄しアーブラウに差し出すこと。

これを条件に、かろうじて国が維持できる程度まで賠償金を減額してもよいと提案した。

 

クリュセの発展の波に乗り遅れ、本国が窮地に立たされた今、火星の植民地は各国にとって重荷でしかない。3つの経済圏全てが即座に飛びついた。

蒔苗もまたクーデリアやマクギリスと同じく、デビルガンダムの力を知り将来の火星の発展を確信している側の人間である。他の選択肢を潰していたとは言え、宝の山をみすみす手放した連中を内心で愚かと嗤った。

 

火星の主となった蒔苗は火星全土を治める議会を設立し、火星の権限のほぼ全てをそちらに委任すると宣言。

そして議会の初代議長にクーデリアを指名した。これにより火星は完全な独立を果たしたのだ。

アーブラウの世論でも自国の危機に駆け付け奮戦してくれた鉄華団と、彼らを送り出したクーデリアとマクギリスに対する感謝の念は非常に強い。反対意見はほとんど出なかった。

政治家や軍はマクギリス当人が参戦していたことを知っているので猶更だ。

 

 

 

そのマクギリスはと言うと、争いが終わるや否や手柄を主張することもなく鉄華団と共に火星に引き上げていった。

彼らはラスタルを信用していない。心変わりを起こして自分たちを捕らえようとするやもと疑っていたからだ。

 

彼らが火星に帰り着くまでの間に、ラスタルは相次ぐ不祥事を理由としてセブンスターズを解体。出自に伴う特権の全てを排除し正しい治安維持組織として再出発すると宣言した。

その第一歩として、マクギリスが率いる新たな火星の治安維持組織テュールとの同盟を提案してきた。

正義を失ったと見放されつつあるギャラルホルンがもう一度民衆に認められるために、民衆から『正義の英雄』と持てはやされているマクギリスの太鼓判が欲しいようだ。

 

マクギリスは送られてきた文書を目にして露骨に顔をしかめる。

あまりに虫のいい話だ。応じる理由などない。

文書にはいくつもの譲歩や厚遇が記されているが、そもそも火星は地球の助力を必要としなくなったからこその独立なわけで……。

 

 

『ガンダムバエルの貸与』

 

 

「……ハッ!?」

 

気付けばマクギリスは無意識に電子文書に署名して送信まで済ませていた。

 

バエルはかつてのアグニカの乗機。

それを乗りこなすことができればギャラルホルンのトップに立つ資格を得るとされているが、『特権の排除』に伴いもはやそれはただの一機のモビルスーツでしかない。

しかし英雄の愛機でありアグニカの象徴でもある。

アグニカの遺志を継ぎ新たな英雄になろうとするマクギリスの支えとなるだろう。

厄介オタクは内心でそう自分に言い訳していた。ラスタルの狙い通りである。

 

 

 

同盟成立に伴い、後日件のバエルと共に使者として火星にやってきたのはガエリオだった。

久しぶりに素顔で対面した二人は同盟の詳細についての協議を開始する。

 

同盟に辺り相互監視の一環として『互いに大使を一人出向させる』ことになっている。

テュールから送り出すのはアイン・ダルトンだ。

地球の人間と火星の人間の間に生まれ、出自による冷遇を体験し双方の環境を知る彼ならば、誰よりも公平な目でギャラルホルンを見定めてくれるだろう。

大使の保護と監督の責任者がガエリオであるならば安心だ。

 

そして書状に記載されていた、ギャラルホルンから火星に送る大使は……。

 

「……どういうことだ、ガエリオ」

 

「火星行きは、ギャラルホルンでは『事実上の人質』と認識されていてな。

 名乗り出たのは『お前がそんなことをするはずがない』と信じている者だけだった。

 カルタも手を挙げたんだが、エリオン公に止められた。

 彼はゆくゆくは彼女を宇宙軍の司令に据えたいらしい」

 

「イオク・クジャンではないのか?

 奴はアリアンロッド艦隊所属だろう?」

 

「アイツは一兵卒からやり直させるそうだ。

 悪い奴ではないんだが実力不足で、周囲に甘やかされすぎていると先の戦いで露呈したしな。

 でなければ戦場に参加し醜態を目の当たりにした兵たちが納得すまい」

 

そう返すガエリオもまた、いずれ地上軍を背負わされることになるだろう。

彼の父であるガルスはネモの甘言に乗せられただけで彼らほど露骨な悪事を働いたわけではないがやはり風当たりは強く、何より『自分自身の気が済まない』と自主的にギャラルホルンを去った。

そして権力も気力も失い隠居したガルスでは『彼女』の熱意を止められなかったのだ。

 

「もちろんオレが推薦した訳ではない。エリオン公の面接もパスしている。

 お前がいなくなって2年、いつか自力で火星に行く覚悟で励んでいたようでな」

 

「まったく……困ったお嬢さんだ」

 

「あぁ。やはりお前以外の男には任せられんよ」

 

ガエリオはアインを連れて地球へと帰っていった。

後日、地球よりわずか11歳の少女がギャラルホルンからの大使として火星に赴任してきた。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

地球全土を巻き込む戦争が終結してからおよそ六年が経過した。

宇宙に浮かぶ鉄の華の下に、一隻の船が来訪した。

 

「よぅ、来てやったぜ」

 

「お待たせしました、マクマード代表」

 

名瀬がハンマーヘッドで連れて来たマクマードは杖を持っており、体格も少し小さくなっていた。

だが今の彼の目はむしろ子供のように楽し気に輝いている。

 

対するオルガは、少年から青年となった。

彼の後ろにいる少年たちもみな大人になった。所帯を持ち、子供を抱いている者までいる。

 

「しかし、予定はもう少し先だと聞いていたが?」

 

「えぇ、まだ数か月はかかります。

 ですが、是非とも代表には今お見せしておきたくて」

 

オルガと名瀬がマクマードを島へと案内する。

車を降りて少し歩いた遊歩道にて、マクマードは思わず足を止めた。

 

「おぉ……!」

 

「今年ようやく、見事に咲いてくれましてね。

 今を逃しちゃあ一年先になっちまうんで」

 

「そうかい、そいつぁありがとよ」

 

一行は桜並木をゆっくりと歩き、やがて屋外の座敷に辿り着く。

質素なござの上にはたくさんの料理と酒が並べられていた。

 

「全部、ココで獲れたモンで作りました。

 酒はまだ荒くて深みが足りねぇんですが……」

 

「ほぅ、どれどれ……」

 

オルガは酒瓶を持ち、恭しくマクマードに酌をする。

 

「……若いな。テメェらと同じく、まだまだ若い酒だ。

 だが力強くて伸びしろが感じられる。

 も少し年を重ねりゃあ……お?」

 

マクマードの持っていたお猪口の水面に、桜の花びらが一つ降りて来た。

 

「……美しいな。これが『花見』というものか。

 よくやった、オルガ・イツカ。

 お前は確かに俺の夢を叶えてくれた」

 

「ありがとうございます」

 

「名瀬。テイワズの跡目をお前に譲る」

 

「っ、いいのか……!?」

 

「テメェの見る目は確かだった。誰も文句は言わねぇさ。

 コイツらと力合わせて、ここを盛り上げていきな。

 ……っと、そういやいい加減にここの名前は決めたのか?」

 

「はい!」

 

観光地とするなら『鉄華団拠点』なんて無粋な名前を名乗り続けるわけにはいかない。

相応しい名前を団員や関係者たちで考え、完成目前の今にようやく決定した。

 

 

ここは宇宙に浮かぶ、この世界の『希望の花』。

 

 

 

「ようこそ、『フリージア』へ」

 




『鉄血のオルフェンズ』、これにて完結となります。

ガンダム作品を扱うならば、孤児たちの物語であるこの作品にヒノカミを向かわせないわけにはいかず、しかしとにかく原作の不幸が多いのでまともなやり方ではハッピーエンドに辿り着けない。
その結果がヒノカミの大暴れとご都合主義の駆使、そしてマルバやマクギリスなどの一部の深刻なキャラ崩壊です。
原作にて描写が少ないネモとエレクにも悪役になってもらわねばなりませんでした。
どうかご了承ください。

火星のその後やヒノカミがどうしているかはハッキリと明言するより曖昧にした方がいいかなと思い、文字数が無駄に増えそうなこともあって避けました。
いつか彼女は火星復興を成し遂げデビルガンダムと共にこの世界を立ち去るんですが、それがいつになるかも敢えて触れません。ご想像にお任せします。

本作は当初、鉄華団がリゾートアイランドを作ると宣言したところで終わらせる予定でした。
しかしイベントをすっ飛ばしてきたこともありジャスレイやノブリスやギャラルホルンやらの不穏分子が全員ピンピンしている。
やはりきっちりと退場させておかねば禍根を残しかねないと、続きを書いて強引に一掃させることにしたわけです。
終盤は無理のある展開が多かったと自覚しております。どうか寛大な心で見逃してください。


そして次はいよいよ外伝10作目。
作者としてもここまで続けられるとは思っていませんでしたが、もう少し頑張ります。
ですが作者の仕事が減るどころか増える一方でまともに時間が取れません。
次の作品はじっくり練りたいので、投稿まで時間を空けさせていただきます。
今年中は難しいかも。来年頭の再開を目指します。どうか気長にお待ちください。
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