『最後かもしれないだろ?だからぜんぶ話しておきたいんだ』
第1話 二人の異邦人
新たに召喚士となったユウナとそのガード。
ブリッツボールのチーム『ビサイド・オーラカ』の選手たち。
彼らを乗せてビサイド島からキーリカ島へと向かう船は、途中『シン』と遭遇した。
『シン』がキーリカへと向かっていると気付いた乗員たちはそうはさせじと、『シン』の注意を引くため抵抗を試みた。
しかし『シン』はあっさりと船を振り切りキーリカへと向かっていった。
キーリカという島そのものにも匹敵する巨体を持つ破壊の化身。
街と住民たちの安否は絶望的に思えた。
そして『シン』遅れることしばらくして、日も沈みかけた頃にようやくキーリカの傍にまでたどり着いた連絡船。
「なっ、なんだよコレ!?」
島の周囲の海が凍っていた。巨大な氷山に囲まれていたのだ。
ビサイドもだが、キーリカもスピラの中ではかなり温暖な気候にある。氷山が自然に生じるはずがない。
「なぁ、この氷が『シン』の仕業なのか?
『シン』ってこんな風に島や街を攻撃するのか?」
千年前に滅びたはずの都市『ザナルカンド』からやってきたという少年は、今のスピラを生きる者たちに尋ねる。だが『シン』と戦うために旅をしている召喚士とガードも想定外の事態に戸惑っていた。
「そんなことはねぇ……もっと直接的に、何もかんもぶっ壊していくはずだ」
「確かに『シン』は魔法も使うけど……主に重力を操るはずよ。
その力で衝撃波を出したり、津波で襲ったりならともかく、氷漬けにするなんて……」
「一体何がどうなってやがる……!?」
「……いや、これはまさか……!?」
「先輩?」
一行と同じくビサイドから同乗してきた討伐隊の青年ルッツが少しずつ表情を明るくする。
「急いでキーリカに向かってくれ!」
「!?ですが、氷に囲まれて……」
「もしもオレの予想通りなら、すぐに融ける!」
「え、あ、はい!」
「どうしたんですか、先輩!?」
「行けばわかる……!」
ルッツは後輩のガッタをたしなめつつ船員に指示を出す。
船を動かし始めると彼の言う通り、キーリカの島全域を覆っていた氷山がすさまじい勢いで融解しはじめた。
間もなく島と港の様子が船に乗る一行にもはっきり見えてくる。
「……!?無事だ!キーリカが無事だ!!」
――――……
キーリカの住人だった船員たちは我先にと船を降り、家族との再会を喜んでいる。
遅れて上陸した召喚士一行とオーラカの選手たちは港を見渡しただただ困惑している。
「どういうこった……『シン』はキーリカには来なかったのか!?」
「いや、『シン』はここに来た」
「「「!?」」」
「おぉ!!」
ガードであるワッカの呟きに応えたのは、全身を鬼の鎧で隠した巨漢。
その異様に皆が怯える中、ルッツだけは喜びをあらわに鬼の前へと歩む。
「あの氷山はやはりアンタだったか、『ヒノカミ』!!」
「助かったぞルッツ。お主らの船が『シン』の動きを僅かに鈍らせていたおかげで、住民の避難と壁を作る時間に余裕が生まれた」
「『ヒノカミ』……この人が!」
「……誰?」
異国の少年が、鼻息を荒くするガッタに尋ねる。
「討伐隊最強の戦士なんだ!
1年前のジョゼ海岸戦で『シン』を退けた英雄さ!
オレも会うのは初めてで……あ!サイン、サインを……!」
「はしゃぐな、若造。街は守れたが、被害はゼロではない。
沖に出ていて避難が間に合わなかった幾人かの犠牲が出ておる」
「っ!?ハッ!申し訳ありません!!」
目の前に出てきたガッタをたしなめた鬼は、ユウナ一行と少年に視線を向ける。
「召喚士殿とお見受けする。聞いての通り犠牲者がおる。
彼らの『異界送り』を頼みたい」
「は、はいっ!」
鬼の威圧感に怯えていたユウナも、召喚士としての使命を促され姿勢を正す。
ブリッツの選手であるワッカ、魔導士のルールー、ロンゾの青年キマリのガード3人は、噂でしか知らぬ討伐隊の英雄とやらの力に戦慄し問いただしたいと思ってはいたが、ユウナに続いて街の奥へと進んでいく。
「……?」
鬼はユウナ一行をずっと見ていた。
正確には、一行の後ろをついていく少年を見ていた。
視線に気づいた少年は鬼に視線を返すが、まもなくルッツに話しかけられた鬼が顔を逸らしたためそのまま立ち去った。
――――……
初めて『異界送り』を目の当たりにし、哀しくも恐ろしい儀式に心を奪われた少年。
日も沈み、今日は街で一泊し翌朝に皆と共に寺院へと向かう予定である。
「そこの少年」
「?なんすか?」
だから早く眠ろうとしていたところ、鬼に声をかけられた。
「二人きりで話がしたい。時間をもらえるか?」
「……アンタ、ウチのチームメンバーに何のようだ?」
傍にいたワッカが少年を庇うように前に出て警戒する。
彼は熱心なエボンの教徒。鬼の鎧にはエボンの教えにて禁じられている機械が用いられている。
街と住民を守ったのは間違いないようだが、教えに反する者に敵意をあらわにしていた。
しかしスピラにて散々同じ視線にさらされた鬼は気にした様子もなく続ける。
「本当にただ話がしたいだけじゃ。数分でいい」
「いいッスよ」
ザナルカンドから来た少年はエボンの教えを知らない。機械に対する忌避感もない。だからあっさりと願いに応じた。
揃って街外れへと移動し、周囲の人の気配がないことを確認してから鬼は話を切り出す。
「少年、お主はこの世界の人間ではないな?」
「!?」
「……すまん、警戒させたか。言い方を変えよう。
お主『も』この世界の人間ではないな?」
「『も』って……じゃあもしかして、アンタもザナルカンドから!?」
「あぁ、儂もスピラの人間ではない。だがザナルカンドからではない」
「……そっか」
「期待させてしまったようじゃな。重ねて詫びる。
念のため尋ねるが、ザナルカンドとは最果ての地の滅びた都市のことではないな?」
「あぁ、オレがいたのは発展した都市だった。
平和に暮らしてたら突然シンが襲って来て……」
「千年の時を超えたかもしれぬ、か。
儂という実例がある以上、あり得ぬ話ではないな」
「なぁ、アンタはどこから来たんだ?」
「……『日本』」
「『ニホン』?」
「『オールマイト』、『エンデヴァー』。……聞き覚えはないか?」
「あー……悪い。どれも聞いたことないッス」
「気にするな。そう簡単に辿り着けぬ場所だとは、儂自身がよくわかっている。
無論、諦めるつもりもないがな」
「そっか。そうだよな」
「スピラの住人としても、彷徨い人としても、儂の方が先輩じゃな。
何か困ったことがあれば手を貸そう」
「よろしくッス、先輩」
「うむ……必ずや故郷に帰ろうぞ。お互いにな」
少年は鬼が差し出した右手をしっかりと握り返した。
翌朝、すでに鬼の姿はなかった。
どうやら間もなく行われるという討伐隊の一大作戦の準備中に飛び出してキーリカに来ていたらしく、部下たちを待たせていたとか。
「……?なぁルッツ。あのヒノカミってのはどうやってキーリカを出たんだ?」
「そういえば……ルカへの船はまだ出ていないはずですよね?」
「そもそもキーリカへもどうやって来たの?
『シン』を止めに来たというのなら直前に来たのでしょう?」
「あぁ、あの人は空を飛べるんだよ」
「「「!?」」」
外伝10『ファイナルファンタジーⅩ』。
もし外伝が10まで続けばこれを書こうと決めていました。
リクエストにはなかった作品でしたがどうかお付き合いください。
本章は『めだかボックス』の世界を出て『ヒーローの世界:オリジン』に辿り着くまでの途中の物語となります。
その中でもかなり後半、旅しても旅しても故郷に帰れずにストレスが溜まっている状況です。
よって本章のヒノカミは『一番余裕がなかった頃』となります。