『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『ヒノカミには悪いとは思ったんだけど、少しだけ心強くなったんだ。
 元居た世界に戻るために頑張ってるのは、オレ一人じゃなかったんだって』


第2話

 

キーリカから出航した船はユウナ一行を乗せてルカへと辿り着く。

ワッカがブリッツボールの大会に参加するため、彼をガードとしているユウナも試合が終わるまではルカに滞在する予定となっていた。

第一試合にてアルベドの卑劣な策略に苦しむがビサイド・オーラカは悲願の初勝利を遂げ、途中までワッカを欠くという事態に陥りながらも決勝にて強豪ルカ・ゴワーズを降し、見事優勝を勝ち取った。

 

しかし大会終了直後、スタジアムに大量の魔物が現れ人々を襲うという謎めいた事件が発生した。

間もなくエボンの新老師『シーモア・グアド』が呼び出した召喚獣『アニマ』により魔物は全て鎮圧されたが、原因は不明瞭なまま。

そしてこの騒動の中でザナルカンドから来た少年は『アーロン』と再会した。

10年前にユウナの父『ブラスカ』と少年の父『ジェクト』と共に『シン』を倒し、その後スピラからザナルカンドへと渡ったという謎の人物。

少年は自分がスピラに飛ばされる事態の引き金となったアーロンに怒りをぶつけるが、彼は意味深な発言を繰り返して煙に巻き、少年に自分と共にユウナのガードとなるよう命じた。

 

新たな仲間を加えた召喚士ユウナ一行はルカを出発、ミヘン街道を超えキノコ岩街道へとたどり着く。

しかし街道の入り口で討伐隊が検問を敷いており、人々の通行を妨げていた。

間もなく行われる一大作戦に巻き込まぬようにとのことだが、引き返そうとしたユウナ一行はその場に現れたシーモア老師の口添えで、作戦本部へと案内されることとなった。

 

今回の討伐隊の作戦とは、アルベド族と協力し寺院で禁止されている機械を用いて『シン』を討伐するというもの。

だと言うのに老師であるシーモアが討伐隊の皆を激励している。

 

「……クソッ!」

 

敬虔なエボンの教徒であるワッカはその事実に納得がいかず、八つ当たりで近くにあった大砲を蹴り飛ばす。

 

 

 

「あーーー!駄目だってそんな乱暴しちゃぁーーー!」

 

「あぁん!?」

 

「機械はデリケートなんだよ!それに砲弾が暴発したら大変なことに……って、あれ?」

 

偶然ワッカの行いを見ていた討伐隊の一人が彼を咎めるために駆け寄ってくるが、お互いの顔がはっきりする距離まで近づいたところで足が止まった。

 

「「チャップ!?」」

 

「兄ちゃん?ルーも?」

 

「おいチャップ!テメェなんでこんなところにいやがる!?」

 

「そりゃオレだって討伐隊だし……兄ちゃんたちこそ、なんでここに?」

 

 

 

「……誰?」

 

少年が見知らぬ乱入者の正体をユウナに尋ねる。

 

「チャップさん。ワッカさんの弟で、ルールーとも幼馴染なの」

 

「あー、ワッカたちが『オレに似てる』って言ってた!

 ……なぁなぁ、似てるか?」

 

「フフ、なんとなく、ね」

 

 

 

「騒がしいな。何事じゃチャップ」

 

声を荒げるワッカたちに気付き、本部の天幕から鬼鎧の巨漢が歩いてきた。

 

「あ、お邪魔してるッス」

 

「よう、少年。……ガードになったのか?」

 

「あー、まぁ、な」

 

「そうか。しかし何故ここに?

 街道は封鎖させてもらっていたはずじゃが」

 

「シーモア老師が口添えしてくださったんです」

 

「だとしても作戦本部に来る必要はあるまい」

 

「わかんねーけど、なんか案内されちまったんだ。

 討伐隊の人が『シーモアにそうするよう言われた』って」

 

「シーモア『老師』、な」

 

「……儂には一切連絡は来ておらんのじゃが」

 

ヒノカミはエボンの民ではない。老師という地位を信用していない。

そして誠実な好青年のように振舞うシーモアの内に抱えた闇を察している。

彼が強権を駆使してまでユウナ一行を厚遇したと聞き、彼への警戒とユウナ一行への興味を一段階上げた。

 

「……作戦開始まで間もない。今更退避する時間もなかろう。

 危険じゃから、本部からは出ないようにな」

 

「了解ッス。……でもさぁ、ホントに『シン』を倒せるのか?」

 

「無理に決まってんだろ。失敗確実だ」

 

「ワッカさん……」

 

 

 

「あぁ無理じゃな。この程度の戦力では『シン』は倒せまい」

 

「「「な!?」」」

 

ユウナたちがワッカを窘めようとする前に、討伐隊の最高戦力だと言う鬼人が彼を肯定した。すでにその話を聞かされているチャップも罰が悪そうに無言で下を向く。

 

「……理解しているなら何故止めない?」

 

「止めようとしたさ。しかし止められんかった。

 若者たちの熱はそれほどまでに燃え盛っておる。

 儂が中途半端に力を示してしまったから、余計にな」

 

「『『シン』を退けた戦士』、か。

 どれほどかは知らんが、英雄を務めるのも苦労が絶えんな」

 

「お互いさまじゃよ、アーロン殿」

 

『大召喚士ブラスカを支えた伝説のガード』と呼ばれるアーロンと鬼人の会話には、重みすら感じられた。

 

「それに、倒すまではいかずとも手傷を負わせることはできる。

 さすれば傷を癒すまで『シン』の活動は鎮静化するはず。

 大召喚士のもたらすものに比べればあまりに短いが、それも立派な『ナギ節』。

 皆が命を懸ける価値もあろう」

 

「……確かにな」

 

アーロンは鬼の言葉に同意し、ユウナやワッカも何も言い返せなくなってしまった。

 

 

 

「そんなことしなくてもさ、召喚士が『シン』を倒すまで待てばいいだろ?

 命まで懸ける必要なんてないって」

 

だが異邦人の少年は彼らの沈黙の意味を理解できていなかった。

 

「はぁ?何言ってんだよ。召喚士だって……」

 

鬼がチャップの口を塞ぐ。

続いてユウナやガードたちを見つめる。

 

「「「…………」」」

 

彼らは一様に目を逸らした。少年がスピラの人間でないと知る鬼はそれだけで彼らの事情を察した。

 

「……チャップ、特命じゃ。

 本部に待機し召喚士ユウナ一行の世話役と護衛を務めよ」

 

「はぁっ!?オレは前線に……」

 

「上官命令じゃ。返事は?」

 

「……了解」

 

敬礼したチャップを確認して、鬼は少年の問いに答えることなく立ち去っていった。

 

 

「……なぁ〜んスか?」

 

「オレがこの戦いで万が一にも死なないよう、気を遣ってくれたんだよ。

 兄ちゃんたちがいるからさ」

 

「そう……みたいね」

 

「はぁ〜、今度こそ恩を返せるかと思ったんだけどな。

 一年前にあの人が助けてくれなきゃ、オレ絶対に死んでたし」

 

「なぁっ!?じゃあオレは、弟の恩人に喧嘩売ってたのか!?」

 

「後でちゃんと謝った方がいいッスね」

 

「それも、奴がこの戦いで生き延びればの話だがな」

 

「あぁ、それなら大丈夫。たとえオレたち討伐隊が全滅しても、あの人は死なないさ」

 

「どういうことですか?チャップさん」

 

 

 

「あの人の戦いを見ればわかるよ。

 『シン』を倒せるかもって期待しちゃう、オレたちの気持ちもさ」

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