『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『最初から疑問だったんだ。
 どうやって人間のヒノカミが、あんなに大きい『シン』を撃退したんだろうって。
 チャップは『見ればわかる』って言ったけど……最初は見ても理解できなかったな。
 むしろ目を疑った』


第3話 ミヘン・セッション

 

故郷を目指して旅をするヒノカミがこの世界に来た時に初めて見たのは、山よりも大きな化け物が、人間たちに襲い掛かっている瞬間だった。

考えるより先に動いた彼女は武装錬金を発動、鬼の姿となって『シン』と呼ばれていた化け物と戦う人間たちに助力した。

 

かつては月すら破壊したことがあるヒノカミだ。だがそれでも『シン』を撃破するには至らなかった。無抵抗な相手ではないからだ。

月より小さくとも『シン』は巨体であり、加えて重力を操る力で反撃してくる。

その肉体はどうやらオーバーソウルに似た構造らしく、この世界全体に満ち溢れている力を吸収して自己再生する。

何より、彼女はその場にいた人間たちを守るために参戦したのだ。『シン』から見れば豆粒のように小さな彼らを守り抜かねばならなかった。

結果として彼女は『シン』を撃退するのが精いっぱいだった。それだけでもこの世界においてとんでもない偉業なのだと、当時の彼女は知らなかった。

 

究極召喚以外では倒せないとされた『シン』に深手を負わせ追い払った異邦の鬼に、討伐隊と名乗る戦士たちは喝采を上げた。

そして鬼の素性など気にせず、『シン』を倒すために協力してほしいと懇願してきた。

 

ヒノカミはそれに応じた。

確かに『シン』は恐ろしい敵だったが彼女からすれば決して倒せぬ相手ではなく、何より真摯に救いを求める人々を見捨てることなど彼女にはできなかったからだ。

討伐隊の上役となった彼女は、時間をかけて戦力を整えて一大決戦にて葬るつもりで準備を始めた。

 

だがこの世界の情報を集める内に厄介な事実が発覚する。

なんと『シン』は、何度倒しても数年で再び復活すると言う。

 

ヒノカミの目論見は崩れた。

彼女は確かに『シン』を倒すことができるが、倒しきるまでに必要な時間と戦闘によって生じる世界への被害は尋常なものではない。

一度ならまだしも二度三度となれば、戦いの余波だけでこの世界が滅びかねない。

それに、『シン』を倒しきらぬうちはヒノカミはこの世界を離れられない。

 

だから彼女は想定よりも大幅に討伐隊を鍛え上げ、彼らだけで『シン』に対処できる環境を作り出そうとした。

人員を増やし、技術を与え、兵器の質を上げ、何度でも安定して撃破できる体制を整えようとした。

 

すると今度は『機械兵器を禁じる』というこの世界の宗教の壁が立ちはだかった。

ヒノカミの武装錬金自体が機械であるためか、ほとんどのエボンの民は彼女の話さえまともに聞いてくれない。掟破りの異端者と石を投げてくる者までいる。

このせいでスピラの住人たちに機械の兵器を使う下地がない。この世界では機械に詳しいという『アルベド族』ですら未熟極まる。原理も何も理解せず『なんとなく』で使っていたのだから。これでは強力な兵器など預けられない。

 

数は力だ。ヒノカミほど突き抜けていなければ個の力などたかが知れている。

だから実績を示して賛同者と協力者を増やそうとした。街や人に襲い掛かる『シン』を何度も撃退した。

やがてヒノカミはこの世界でも英雄と呼ばれるようになり、多くの若者が討伐隊へと参加してくれた。

 

すると今度は、ヒノカミが求める水準に達する前に討伐隊の隊員たちが決起してしまった。

ヒノカミ単体でもおそらく『シン』は倒せるのだ。勢力を増した今の討伐隊が参加すれば、スピラへの致命的な被害を抑えての撃破が可能かもしれない。

だが折角鍛え上げた討伐隊が壊滅寸前にまで陥るだろう。そして倒したとしてもまた『シン』は復活するのだからまた一から戦力を整えねばならなくなる。これでは同じことの繰り返しだ。

だがエボンの民は『シン』が蘇るまでの数年の『ナギ節』を今すぐにでも欲していた。ヒノカミは彼らの熱意と意識を読み違えてしまったのだ。

 

ヒノカミは皆に思いとどまるように説得したが、もう止まらなかった。

例え自分が助力しないと宣言したとしても彼らは突撃し、そして散ってしまうだろう。

そうなればこの一年の尽力が全て無駄になる。

だからヒノカミは『シン』を倒すためではなく、可能な限り犠牲者を出さずこの戦いを乗り切るために、今回の作戦に参加した。

 

 

 

『カァァー』

『シャァー』

 

「おかえり。赫月、白星」

 

一際大きなキノコ岩の上で仁王立ちになり海を睨んでいた鬼の右肩に霊体の烏が止まり、烏に巻き付いていた白蛇が左腕に移動する。

ヒノカミは彼らを偵察として放ち、『シン』の動向を監視させ続けていた。キーリカへの襲撃を察知し連絡したのも彼らだった。

 

『シン』はもうすぐ傍にまで来ている。まだ目視はできないが、まもなく誰もがその姿を目にするだろう。

 

「スピリット・オブ・ファイア」

 

『…………』

 

呼び声に応え、鬼の背後に炎の大精霊が現れる。

 

「久方ぶりに、本気でやる。覚悟はいいか?」

 

『カァァー!』

『シャァー!』

『…………!』

 

「では……行くぞ!」

 

海面が盛り上がり、『シン』が姿を現した。

岩の上から飛び出した鬼が空を蹴って猛スピードで『シン』へと迫る。

 

 

「オーバーソウル!『スピリット・オブ・ファイア』・イン・『鬼相纏鎧』!!

 『輪廻天照』……『炎神形態』!!!」

 

 

炎の大精霊を取り込んだ鬼が『シン』にも迫る巨神へと変貌した。

八咫烏は巨大な炎の剣となり、左腕に巻き付いた蛇もまた巨大化し油断なく敵を睨みつける。

 

ピキキキキキッ!!

 

巨神は海面に着地すると同時に周辺の海の熱を全て奪った。

見渡す限りの水面が全て氷となり、水の中にいた『シン』はまとわりつく氷を砕いて空に浮かぶ。

 

 

『ミヘン・セッション!開始!!』

 

「「「うぉぉぉおおーーーーっ!!!!」」」

 

 

巨神の叫びが戦場に響き渡り、戦士たちの咆哮が呼応する。

討伐隊結成以来の一大作戦が、ついに実行に移された。

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