『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『オレはヒノカミがスピラの人間じゃないって知ってたから、皆よりも冷静でいられたんだ。
 不謹慎だけど……アーロンやシーモアまで口を開けて呆然としてる様子は、ちょっと笑っちゃったな』


第4話 巨神と巨獣

 

発展した街を狙って襲う。再生する。倒されても復活する。近づくだけで『毒気』とやらに汚染され精神を病む。

『シン』の特性はとにかく厄介だ。まるで人類を苦しめるためだけに生み出された存在とすら思える。エボンが『シン』を『人類への罰』と呼ぶのも無理はない。

 

そして『シン』との直接対決においてヒノカミを悩ませるのは『剥離した部位がコケラという別の魔物になる』という特性だ。

『シン』本体とも戦えるヒノカミに、残骸でできた魔物など敵ではない。

だがただの人間にとっては恐ろしい脅威だ。しかも『シン』と同じく街や人を優先して襲うというのだから猶の事。

ヒノカミに挑んでも敵わないと理解しているからこそ、生まれたコケラは戦場を離れ近くの街や人を探し出して襲い掛かる。ヒノカミが戦えば戦うほど魔物が増え、世界に散らばってしまう。

 

だからヒノカミはコケラの対処を討伐隊に任せた。

今回の作戦において『シン』と直接戦うのはヒノカミだけであり、討伐隊にはコケラたちを惹きつけ撃破する役目に専念してもらう。

直接戦えない彼らは不満がったが、これが一番効率的な方法だと理解はしているため渋々呑みこんだ。

山よりも大きい『シン』と巨神ヒノカミのぶつかり合う場において、弱く小さい彼らは足手まとい以外の何物でもない。

 

氷漬けになった海の上に落ちたコケラは海岸沿いに陣を敷く討伐隊を目ざとく見つけ、群れを成して襲い掛かる。

海岸沿いに並べられた大砲からの砲撃をかいくぐってきたコケラに、チョコボ騎兵隊や歩兵部隊が抜剣し突撃する。

コケラだけが相手ならば、討伐隊も全滅するような被害を受けることはあるまい。

 

 

 

(だがそれも儂が過剰に攻撃を加えなければ、か……まったくもって厄介な!!)

 

巨神は触れる全てを跡形もなく燃やし尽くす炎の剣を振るい『シン』を攻撃しているが、それは相手を切り裂くのではなく、表面を削り取るような形で行っていた。

あまり深い傷を与えて大きな部位が剥離しそれがコケラとなって討伐隊を襲えば、やはり対処しきれず戦線が崩壊する可能性がある。

 

『っ!?ちぃ!!』

 

『ジシャァァァァァァッ!!』

 

『シン』が広範囲に重力波を放出しようとしていると察し、巨神は左腕の大蛇を正面でうねらせ盾とする。

蛇の体の隙間から伸びる余波は巨神の体で受け止める。

こうでもして『シン』の攻撃を徹底的に防がなければやはり海岸にいる討伐隊は全滅してしまう。

 

ヒノカミが一人で戦えば『シン』は倒せるが、生じる余波やコケラがスピラを破壊してしまう。

ヒノカミが仲間と戦えば彼らを守るために力を大きく割かねばならず、『シン』を倒しきれない。

『シン』が何度でも復活する以上、この二択を突きつけられたヒノカミは後者を選ぶしかなかった。だが。

 

ドォン!

 

『シン』が防壁になっている大蛇に体当たりをした。重力弾すら弾く白銀の鱗は山の如き巨体でも揺るがすことすらできない。『シン』もその程度は理解しているはず。

 

『!?くそぉ!!』

 

『シン』の狙いに気づいたヒノカミが毒付く。

 

(コイツ、自分から!)

 

大蛇と激突した衝撃で『シン』の体から多数のコケラが広範囲に飛び散る。そしてまるで包囲網を形成するかのように海岸線の討伐隊へと走り出す。

『シン』は自身が能動的にコケラを放つのではなく、より多く、より広く撒き散らすために巨神の防御を利用したのだ。

 

『白鎖彗星!!』

『ジシャァァァァ!!』

 

氷の大地の上には討伐隊の戦士たちがいる。もう一度広範囲の凍結を使うと彼らまで巻き込んでしまう。

やむなく防御に回していた大蛇を攻撃に回す。

全身の突起から霊子の矢を放出して新たに生まれたコケラを全て撃ち落とす。

 

 

ゴォン!

 

『ぐぅぅぅ……!』

 

その隙を突いて放たれた『シン』の重力弾を、今度は巨神の体だけで受け止める。流石にノーダメージとはいかなかった。

 

(学習している……やはり明らかに知恵がある!)

 

『シン』はこの世界において人間では抗うことのできない脅威だ。まさに敵なし。例外は四度の究極召喚だけ。

しかし今代の『シン』は既に何度もヒノカミと戦っている。

無敵の化け物が、自身と並ぶ強敵との戦闘経験を積み重ねているのだ。

 

(予想より成長が早い!今日の戦いで更に伸びるとすれば、後数年もすれば儂でも及ばなくなる!?)

 

何度も究極召喚に敗れているのだから、流石に生まれ変わる際には経験がリセットされるのだろう。でなければ四度も倒されているはずがない。

だが生まれ変わるまでは成長することが証明されてしまった。既に今代の『シン』は歴代最強に違いない。

もしこのまま『シン』が成長を続けていけば究極召喚でも倒せなくなる可能性すらある。

 

これもまた、彼女が『シン』との大規模な戦闘を避けたいと願っていた理由だ。

『『シン』を倒せる』と確信できる状況に至るまで、ヒノカミは『シン』と戦うべきではないのだ。

だが彼女はスピラの街や人を見殺しに出来なかった。

彼女の甘さが、彼女の心と体を追い詰めている。

 

(くそっ!引け!さっさと引いてくれ!)

 

討伐隊にも既に犠牲が広がっている。これ以上戦闘を続けたくない。だがヒノカミから幕を引くことはできない。

守りを固め祈るように剣を振るう彼女の視界の片隅で、光が点滅した。

 

(……!来たか!)

 

巨神は飛び上がって『シン』から距離を取った。

先程の光はアルベド族からの合図。彼らが発掘し今回の作戦に持ち込んだ機械の兵器の準備が整ったと言うことだ。

 

バリバリバリバリッ!!

 

キノコ岩の上にそびえ立つ塔の先端にある槍から雷が迸る。

勿論、こんな物で『シン』を倒せるはずがない。だが『シン』であっても無視はできない威力ではある。

だから『シン』はバリアを張った。動きを止めたのた。

 

 

『月牙天衝!!』

『カァァァァアア!!』

 

 

巨神が『シン』を狙って全てを焼き尽くす斬撃を飛ばす。

そのままいけば『シン』を頭から尾まで真っ二つに両断していただろう。

だが寸前で『シン』はバリアを消して身を捻り直撃を避けた。

斬撃で斬り落とされた片腕が、兵器の雷を浴びて消滅する。

 

『シン』は翼を広げ、重力を操る力も併用して全力で戦場から逃走した。

大きな傷を負って逃げ出す『シン』を見て、海岸線にいた討伐隊やアルベド族が喝采を上げる。

 

『…………くそ』

 

だが巨神はただ静かに、『シン』が飛び立った空をじっと見つめていた。

 

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