『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『討伐隊の皆もアルベド族たちも肩を組んで笑い合ってたことが疑問だった。
 『シン』を倒せなかったのに、たくさん犠牲者も出たのに、なんでだろうって。
 ……この時のオレはまだ、『シン』がスピラの人たちにとってどんな存在なのか、ちゃんと理解できていなかったんだ』


第5話 旅は道連れ、情け無き世に

 

『ミヘン・セッション』は結果的には失敗だった。

ヒノカミの想定通り、やはり『シン』を討伐することはできなかったのだから。

だが究極召喚の力を借りずに『シン』に片腕を奪うほどの手傷を負わせたというのは歴史上初の快挙である。

『シン』は絶対ではなく、人間の力で抗うことができると証明されたのだ。

だからこそ作戦失敗であっても、討伐隊とアルベド族は喜びを隠しきれず肩を組み笑い合っている。

今までの『シン』との戦いの経験と出現頻度から推測するに、2~3か月は療養に務めるだろう。スピラはつかの間のナギ節を手に入れた。

 

『シン』を見送った巨神は全身から白い炎を放出して、氷の海を溶かすと同時に生存者の傷を全て癒した。

だが本来は蘇生術であるこの力をもってしても、この戦いでの死者を蘇らせることはできなかった。

どうやら『シン』は周囲の魂を取り込む力があるらしく、『シン』の傍で死んだ者の魂は著しく劣化するようだ。

今のヒノカミの力では魂に欠損があると蘇生することはできない。

 

『……赫月、白星。頼む』

 

『カァー』

『シャー』

 

続いて炎の剣と巨大な白蛇を霊体に戻し、再び『シン』への偵察に向かわせる。

『シン』の気配はもう感じられない。おそらく距離を取り海中に潜んだのだろう。

霊ではあるが、赫月は鳥だ。海には潜れない。白星なら可能だが水の中は単純に視界が悪い。

再び『シン』が動き出すまで見つけることは不可能だろう。だが動き出したらすぐに所在を把握できるよう、2体には引き続きスピラを飛び回って監視を続けてもらう。

 

『む?』

 

陣地に戻ろうと振り向いたところで、人々が浮かれている中を面白くない顔で足早に去っていくキノック老師と僧兵たちが目に入った。

表向きは激励となっていたが、彼がエボンの支配体制に背く討伐隊の全滅を見届けるために足を運んでいたことを、ヒノカミは当然察していた。

宗教というのはどこの世界でも面倒なものだ。特に『人と秩序を守るため』であるはずのそれが『権力者の道具』になっている場合は。

 

オーバーソウルを解除して元の鬼鎧の姿となり、作戦本部に降り立ったヒノカミを討伐隊やアルベド族が大喜びで取り囲むが、彼女は彼らを叱責する。

 

「喜ぶのは全てを終えてからにせい。

 生存者と被害状況の確認と、死者の遺体の回収。

 兵器とその残骸は暴発の可能性がある。撤収準備急げ。

 その後速やかに街道の封鎖を解除。各員行動開始!」

 

「「「ハッ!!」」」

 

命令を受けた隊員たちがヒノカミから離れ、慌ただしく動き出す。

人垣が消えると、ヒノカミを油断なく見つめていた人影が近づいてきた。

 

「失礼。……貴方は一体何者ですか?」

 

グアド族の部下を引き連れたシーモアが鬼に尋ねる。

少し離れたところにユウナたちもいて、鬼とシーモアの会話に耳を傾けている。

 

「ただの旅人じゃ。誰も知らぬほど遠いところから来た、な」

 

「……先ほどのアレは、まさか究極召喚なのですか?」

 

「召喚獣と原理は似ているが、別物じゃ。儂は召喚士ではない。

 御覧の通りエボンの教えに真っ向から歯向かう輩じゃからな。

 祈り子に会うどころか寺院に立ち寄ることすら許されぬ身よ」

 

「……そうですか。ですが素晴らしい力でした。

 貴方なら『シン』を倒せるかもしれない。

 これからの活躍に期待させていただきます」

 

「…………」

 

軽く頭を下げてその場から立ち去るシーモアは、表情は笑っていたが内心は全く笑っていなかった。

彼がヒノカミに向ける感情は値踏み……いや、どうやって排除しようかという思案かもしれない。

 

 

「あの……」

 

「ユウナ殿、いかがなされた?」

 

シーモアと入れ替わりで、ユウナがおずおずと近づき話しかけてきた。

 

「よければ、私に異界送りをさせていただけませんか?」

 

「それはありがたいが……討伐隊は寺院から破門されておる身じゃ。

 犠牲者にはアルベド族も多い。それでもよろしいか?」

 

「関係ありません。スピラのために戦い亡くなった方たちに少しでも報いることができれば……」

 

「感謝する。チャップ、彼女の案内を」

 

「了解。ユウナちゃん、こっちへ。兄ちゃんたちも」

 

ユウナがガードたちと共にこの場を離れていくが、ヒノカミは最後尾にいた少年に視線を送り呼び止める。

 

 

「なぁ。彼女はアルベド族や機械への忌避感はないのか?」

 

「あ~~、うん。ないと思う。それがどうかしたのか?」

 

ルカにてユウナの出自を聞いている少年は確信していたが、ぼかして伝えた。

 

「少年は今一つピンと来とらんじゃろうが、そんな召喚士は希少なんじゃよ。

 召喚士は寺院で修行しとるから、大概はガチガチなエボン教徒じゃ。

 ……それならば応じてくれる可能性もあるか」

 

「何の話ッスか?」

 

「彼女と他のガードたちも揃ったところで話そう。では、また後でな」

 

ヒノカミは部下たちの指揮を執るため立ち去った。

 

やがてユウナが異界送りを終え一行が出発しようとすると、鬼が街道への出口で待っていた。

 

「あの、お話があるとか。何のご用でしょう?」

 

ユウナは勿論、少年以外のガードたちの動きは固い。

人類の味方だとしても『シン』に迫るほどの力を示してしまったのだから警戒して当たり前だろう。

 

 

「単刀直入にお願いする。

 儂を貴君らの旅に加えていただきたい」

 

「「「えぇっ!?」」」

 

「儂はザナルカンドに用がある。

 暫くは『シン』も動かず、討伐隊も再戦に備え各々で力を蓄えることとなる。

 この時間に目的を果たしたい」

 

「アンタ飛べんだろ?

 だったら一人でパパッと行けるんじゃないのか?」

 

「行ったさ、既にな。だが門前払いを喰らった。

 どうやら召喚士とガード以外は中に通してもらえぬらしい。

 しかし諦めるわけにもいかず、かと言って強引に押し入り聖地を荒らす真似はしとうない」

 

「だからユウナのガードになると?

 貴様ほどの力があれば引く手数多のはずだ」

 

「ご覧の通り、儂はエボンの民ではない。教えに背く異教徒じゃ。

 その上で受け入れてくれる召喚士が彼女の他におるとも思えん」

 

「……ザナルカンドに何を求めている?究極召喚か?」

 

「知識を」

 

「何の知識だ?」

 

「何じゃろうな。儂はあまりに何も知らなすぎる。

 スピラとは、『シン』とは、究極召喚とは何か。

 しかしエボンの教えは儂の求める答えを示してはくれなかった。

 残る可能性はザナルカンドしかない……如何か?」

 

「えっと……」

 

ユウナは困った顔で振り向き、ガードたちに意見を求める。

 

「オレは賛成ッス。エボンの教えがよくわかってないのは、オレも一緒だしさ」

 

「俺はどちらでも構わん。好きにしろ。

 少なくとも足手纏いになることはあるまい」

 

「いやでも、アーロンさん。

 明らかに教えに背いてる奴を連れてくのは……」

 

「でも、チャップの恩人よ。私も構わないわ」

 

「うぐっ!」

 

「…………」

 

キマリまでもが無言で首を縦に振り、ワッカは観念した。

 

「……わぁったよ!多数決に従うわ」

 

「ヒノカミさん、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ。では、部下たちに連絡と引き継ぎを済ませてくる。

 皆はこれからジョゼ寺院じゃよな?そちらで合流しよう」

 

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