『……こればっかりは、予想できなかったのはオレだけじゃないだろ?
『シン』とも渡り合った鬼の鎧の中身がまさか……さぁ?』
ジョゼ寺院にて新たな召喚獣を手に入れ、寺院にて一夜を明かした召喚士ユウナ一行。
「おはよう」
外に出た彼らに声をかけたのは、真っ黒な着物を着て腰に刀をぶら下げた小柄な少女だった。
「あ、あぁ……おはよう?」
「遅れてすまん。思いの外皆が渋るのでな。
出発に間に合いそうもなかったので振り切ってきた」
「へ?あ、うん」
「次は幻光河じゃったな。では、行くとしよう」
言い終えた少女は一行を先導するように歩き出す。
(……誰?)
(知らねぇよ。お前の知り合いじゃねぇのか?)
(オレはワッカたち以外にほとんど知り合いいないって。
言ってて悲しくなるけどさ)
「?あぁ、何も説明していなかったか。
気が急いていたようじゃな。すまん」
少女は少年とワッカの小声での会話が聞こえていたようで、立ち止まり振り返る。
アーロンは彼女の口調と言動から答えに辿り着いていた。
「……お前がヒノカミか?」
「「「えっ?」」」
「如何にも」
「「「えぇぇぇぇっ!?」」」
機械の鎧を身につけた鬼はロンゾ族にも迫る巨漢だった。だが目の前にいる人物はユウナよりも小さい。
「仮にも召喚士のガードが大っぴらに機械を使う訳には行くまい。
押しかけておいて迷惑をかけるつもりはない。道中はエボンの掟に従うさ」
「おいおいおい!本当に坊主があの鬼だったってのか!?」
「儂は女じゃ。成人も済ませとる」
「いぃぃっ!?わ、悪ぃ……」
「気にするな。慣れておる」
「戦えるのか?」
「無論じゃ。鎧は儂の力の一端でしかない。
この姿であろうと『シン』が相手でも遅れは取らぬぞ」
「ならば問題無い。行くぞ」
「応」
アーロンとヒノカミが歩き出してしまう。
ユウナと他のガードたちは事態を飲み込めないまま、なんとなく二人の後を追った。
アーロンを除く先輩ガードたちの疑問は尽きない。
本当にあの少女が鬼の中身なのか。『シン』とも渡り合う力をどうやって手に入れたのか。あの機械の鎧を使わなくても本当に強いのか。
特に三番目は早急にはっきりさせねばならない。
旅の道中どこまで頼ってよいのか、どこまで助け合えばよいのかが分からないから。
幻光河までのわずかな距離の間にも魔物は出るが、大した強さではなくヒノカミの実力を計る指標にはならなかった。
そんな一行の前に二人の男が立ちはだかった。
ビラン=ロンゾと、エンケ=ロンゾ。
出会う度にユウナのガードの一人であるキマリ=ロンゾを侮辱してくるロンゾ族の青年たちだ。
『また己をからかいに来たのか』とキマリが問えば、彼らは『忠告をしに来た』と言う。
「召喚士が消え、戻らない。次はキマリの召喚士の番だ」
「哀れなキマリ!みじめに泣き叫べ!」
スピラには多くの人間種が存在している。
それぞれの種族の問題は同種族の間で解決する、それがスピラの暗黙の了解であった。
「それは我らガード全員への侮辱と判断してよいか?」
だがエボンの掟にすら背くヒノカミに明言化されていない規則など通用しない。
「なんだ、この小さいものは。貴様もキマリの召喚士のガードか?」
「小さいキマリにお似合いだ。ガハハハ!」
「ん、よさそうじゃな。歯ぁ喰いしばれ」
一歩踏み出したかと思うと一瞬でエンケの目の前に移動していたヒノカミが拳を振りかざしている。
大口を開けて笑っていたエンケはもちろん、ビランもユウナたちも彼女の動きが見えなかった。
「ガハハハハガバハァッ!?」
「エンケ!?」
どてっぱらに拳を叩きこまれたエンケは北の空へと飛んでいった。
射出角度と速度から推測すれば、多分幻光河の向こう岸より先まで飛んでいる。
「おのれぇっ!!」
ビランは己の胸よりも低い位置にある少女の顔面目掛け力の限り拳を振り下ろす。
「……な……!?」
「デカいのは体と態度と口だけか。
儂の故郷では貴様らのように『図体だけで大したことがない者』を『ウドの大木』と言う。
その小さい脳にしっかり刻んでおけ」
ビランが怒りを込めた全力の拳は左手の人差し指一本で受け止められていた。
そのまま小突くように押し返したヒノカミは体勢が崩れたビランに向け、左手でピストルの形を作る。
「『霊丸』」
「ぐぁぁぁぁぁぁーーーー…………!」
指先から発射された光の弾に押し出され、ビランもまた空へと消えた。まもなくエンケのすぐ傍に墜落するだろう。
「先を急ごう。……どうした?」
「「「…………」」」
ビランとエンケは決して弱くない。特にキマリはそれを嫌と言うほど理解している。
そんな二人をあっさりと蹴散らす強さと、あっさりと蹴散らすことにした喧嘩っ早さに、ユウナと若いガードたちは引きつっていた。
名誉のために言っておくが、普段の彼女はここまで短絡的ではない。
だが昨日に『シン』との戦いで多くの戦友を失い、再び『シン』が活動を始めるまでにザナルカンドに辿り着かねばならないと考えていた彼女は、とんでもなく気が立っていたのだ。
「いえ……あの二人、気になることを言っていたわね」
その空気を払拭しようとルールーが声を上げる。
「『召喚士が消える』って奴か?」
「アイツらのでまかせじゃねーの?」
「ビランとエンケはロンゾの戦士だ。嘘はつかない」
「俺たちガードがユウナを守れば問題ない」
「その通りじゃな。……じゃが保険はかけておくか」
アーロンの意見に同意した後、一行の傍まで戻ってきたヒノカミは両手を広げる。
「おっと、今から少しだけエボンの掟に反することをする。
すまぬが目をつぶってくれよ?」
「オイ、何する気だよ!」
「まぁ見ておれ」
前のめりになったワッカの前で柏手を打つ。
「「「!?」」」
するとヒノカミの目の前に、六角形の板が現れる。
「なんだそりゃ……機械?」
「今、どっから……?」
「儂はこのように、いくつかの道具を一時的に呼び出す能力を持っておる。
鬼の鎧もその一つじゃ。そしてこれは『ヘルメスドライブ』と言う」
よく見れば板の中央にはモニターが付いており、光の点が表示されている。
「よし、登録した。これは『レーダー』……で、伝わるか?」
「「「……?」」」
「あぁ、探してるものがどこにあるかを教えてくれる機械のことッスよ」
「うむ。これでユウナがどこにいるかをいつでも調べることができる。
万が一がユウナが消えることがあればコレで探し出す。
そして儂が即座に『跳んで』いく」
「そっか、アンタは『飛べる』んだったな!」
「そういうことじゃ」
少年との間に微妙に齟齬が生じていることは察していたが、ヒノカミは何も言わなかった。
よほどの事態に陥らぬ限り『転移能力』まで使うつもりはないし、レーダーもよくわからぬスピラの住人に理解してもらうのは大変そうだったので。
「さて、余計な時間を取ったな。出発しよう」
「あぁ」
「ウッス」
ヒノカミはヘルメスドライブを消し、アーロンと少年と一緒に歩き出す。
理解も納得もできていないユウナと3人の古株ガードはモヤモヤを抱えながら、問題を棚上げして先に進むことにした。
この頃のヒノカミは精神的に余裕がないので、性別や年齢など『周囲にどう見られているか』に一切頓着がありません。
BLEACH編にて更木剣八と戦った時も気にしておらず、彼女が人間らしい感情を手に入れたのはヒロアカ原作時空を経て故郷に戻ってからです。
なのにその後すぐ人間じゃなくなってしまうんですよね。
書いてるのは自分ですが、本当にハードな人生を送っています。