『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『今でも思うよ。なんで皆もっと早く、オレに教えてくれなかったんだって。
 何にも知らないオレが馬鹿なことを口にする度に流れてた沈黙……こうして思い返すだけで、胸が痛くなるんだ』


第7話 幻光河

 

一行は幻光河の河岸に辿り着いた。

少年は水面の上を無数の幻光虫が飛び交う、まさに幻想的な風景に心奪われていた。

ユウナから『夜になると更に綺麗だ』と聞いた少年は思いついたように声を上げ、しかしアーロンから『夜までなぞ待たん』と先手を打たれてしまった。

 

「じゃあ、『シン』を倒したらゆっくり見に来よう!」

 

「「「…………」」」

 

ヒノカミは口ごもる一行に倣った。

いつかは知るだろう。いつかは伝えるだろう。

そしてそれは召喚士であるユウナ自身の口から行われるべきだ。

だからここで新参者の自分が真実を伝えるような、無粋な真似はしなかった。

 

ここから『シパーフ』という象のような巨大な生き物に乗って河を渡る。

順番待ちをしている人は多くて、特に『シン』に深手を負わせたことを故郷に凱旋し報告しようとする討伐隊員が目立っていた。

しかしこの世界では『シン』と戦う召喚士が全てにおいて最優先だ。

ガードも含めて即座にシパーフに乗せてもらえることになった。

 

ヒノカミは空を飛べる。水の上だって走れる。

水面を凍らせて氷の道を作ってもいいだろう。そうすればユウナやガードたちも簡単に向こう岸まで歩いて行ける。

そもそもヒノカミはすでに一度ザナルカンドに辿り着いているのだ。当然座標も覚えている。

空を飛ぶでも転移するでもいい。やろうと思えばかつて少年が口にした『バビュっと一気にザナルカンドへ!』を容易に現実にできる。

 

だがしない。してはならない。

過酷な旅はザナルカンドへ向かうためだけでなく、『究極召喚』を使いこなせるように召喚士の心身を鍛え上げるためでもあるのだ。

だからヒノカミは何もかもを自分一人で請け負うわけにはいかない。できる限り『手を貸す』程度にとどめなければならない。

仲間が苦労していても、時間がなくても、彼女は自分を抑え続けなければならない。

 

ヒノカミが思案している内に、気付けば彼女とユウナたちを乗せたシパーフが出発していた。

今は丁度河の中間地点付近。ワッカと少年が水の下を見ながら会話している。

どうやらこの河の底に沈んでいる千年以上前の都市の歴史を語っているようだ。

いくつもの橋の上に作られた都市。その重みに耐えかねて橋は壊れ、全ては水の底に沈んだ。

何故わざわざ橋の上に街を作ったのか。

その理由をワッカは『過去の人類が己の科学力を誇示するための、くだらない見栄』と言い切った。

おそらくそれがスピラでの一般的な通説ではあるのだろうが。

 

「違うな」

 

「「ん?」」

 

ずっと黙っていたヒノカミが声を上げ、少年とワッカが会話を中断し彼女の方を向く。

 

「実際に触れてこなかったスピラの民にはイメージしにくいかもしれんが、機械というのもそこまで便利なわけではなくてな。

 最終的に崩れたにしても、都市をも支えられる巨大な橋を作るというのはどれほどの重機を持ち込んだとしても容易ではあるまい。

 何より建築期間は機械を使って短縮できても建材を節約することはできぬ。とんでもない量の物資を消費したはず。

 施工期間は数十年、かかる費用は国家事業規模、必要な作業員も膨大で施工中に事故で犠牲になる者も大勢出たじゃろう。

 どう考えても見栄だけで実行に踏み切るレベルを超えておる」

 

「……じゃあなんで、河の上にわざわざ街を作ったってんだよ?」

 

「推測になるが、河の上に都市を作りたかったのではない。

 陸の上に都市を作れなかったんじゃ」

 

「「「?」」」

 

他の面々もヒノカミの言葉に耳を傾けていた。

 

まだ『シン』がおらず人類が世界中に繁栄していたとすれば、各地に国家があったはず。そしてこの幻光河はおそらくスピラでも最大規模の大河だ。

古くより、大きな河や巨大な山脈はそのまま国境となることが多い。

 

「沈んだ建物をよく見ると建築様式にバラつきがあり二極化しておる。

 おそらく当時は河を挟んで北と南が別の国であり、ここは二国が共同で作り上げた交易都市だったのじゃろう。

 水路も橋を渡せば陸路となり交易は容易に、物流は盛んになる。

 そしてもし二国間友好の証となる都市をどちらか一方の陸地に建ててしまったら角が立つとは思わんか?」

 

「だからどちらの領地でもない河の上に、か……面白い仮説だ」

 

「でも確かに、ザナルカンドでもデカい建物作るときは大騒動だったなぁ。

 街一個が丸ごと乗る橋を作るなんて、資材も機材も時間もどんだけあっても足りないって」

 

「少なくとも、一国で対処できる規模は超えているだろうな。

 伝承よりもそちらの説の方が納得がいく」

 

「儂は学者でもある。常識や教義なんぞは真っ先に疑わねばならん身でな」

 

「……くっくっく、なるほどな。

 頭の固い寺院の連中が貴様を受け入れることはなかろう」

 

気難しくて無口なアーロンの口が軽い。どうやら彼はヒノカミを高く評価しているようだ。

だが確かに彼女の振る舞いはワッカやルールーよりも更に大人びている。

未だに信じがたいが『ワッカたちより年上だ』という彼女の発言は事実であるらしい。

 

 

 

「……楽しいおしゃべりはここまでじゃ。全員武器を取れ」

 

「「「え?」」」

 

「水中より駆動音。シパーフ後方より大型の機械が接近中じゃ。

 その意識も儂らの方に向いておる。襲撃の可能性が高い」

 

「んだとぉ!?」

 

「……!?見えた!確かに水の中になんかいるッス!」

 

「全員、ユウナを囲め!」

 

「機械ってことは、アルベドの奴らか!?」

 

「おそらくな。機械の中に1名、傍に随伴者1名、他に気配無し。

 これ以上近づかれてからの戦いになれば、シパーフが巻き込まれて傷つくやもしれぬ。

 河のど真ん中でこの巨体が暴れ出しては大惨事になるぞ」

 

「うっし!オレとワッカで追い返してくる!」

 

「儂も同行しよう」

 

「わかったわ。ユウナの守りは私たちに任せて」

 

「気を付けて!」

 

「おうよ!アルベドめ……ルカでの借りを返してやるぜ!」

 

勢いよく水面に飛び込んだ3人は、シパーフに取りつこうとすぐそこまで近づいていたアルベド族の男を殴り飛ばした。

3人は気絶し河の流れに呑まれて遠ざかっていく彼に見向きもせず、その向こうにいる巨大な水中機械を油断なく見つめていた。




都市の設定は妄想です。
色々考えたんですが作者の中ではこれが一番しっくり来たので、ワッカらの凝り固まった思想に打つ楔として利用しました。
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