『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『シーモアが見せたスフィアに映る街並みは、オレの知ってるザナルカンドにそっくりだった。
 まるで今もそこにあるみたいで……だから少しだけ期待したくなったんだ。
 最果ての地、ザナルカンドは本当は滅んだりなんかしていなくて。
 眠らない街は今も生き続けているんじゃないかって』


第10話 異界

グアドサラムに入るや否や、ユウナたち一行は半ば強引にシーモアの屋敷へと案内され盛大な歓待を受けた。

いくら大召喚士ブラスカの娘であり、有望な召喚士であるとは言え、度が過ぎる。

若輩だがシーモアはエボンの老師であるためエボンの民であるユウナやワッカは素直に受け止めているが、ヒノカミやキマリやアーロンは彼への警戒を強めていた。

少年もどうやらなんとなく気に入らないらしい。

 

シーモアは屋敷で保管されていた貴重なスフィアを再生した。

およそ千年前の、健在だった頃のザナルカンドの記録映像。

高層ビルが立ち並ぶ発展した大都市。歴史上初めて『シン』を討伐した召喚士『ユウナレスカ』と、その夫『ゼイオン』の姿。

確かに貴重な機会だが、いきなりこんなものを見せて何が目的かと思いきや。

 

 

「結婚を……申し込まれました……」

 

「「「えぇっ!?」」」

 

 

シーモアはユウナにとってのゼイオンになることを望んだ。

老師が召喚士の宿業を知らぬはずがない。愛も感じられない。

つまりこれは完全な『政略結婚』だ。

グアドとエボンの民のハーフである若き老師と、大召喚士ブラスカの娘の結婚は、確かにスピラの住民にとっての明るいニュースとなるだろう。

 

仲間たちの反応は別れた。

リュックは、結婚して旅を辞めてしまえばいいと望んだ。

アーロンは、旅さえ続けるなら好きにすればいいと突き放した。

ワッカとルールーとキマリは、どんな選択でもユウナを支持すると言った。

少年とヒノカミは反対だった。

 

「『これがこの世界の文化』と言われてはそれ以上言い返せぬが……やはり夫婦の契りを道具のように使うべきではない。

 それにお主、もういっぱいいっぱいじゃろ?

 これ以上余計な荷物を背負い込むな」

 

「……?よくわかんないけど、オレも好きでもない相手と結婚なんてやっぱりおかしいと思う。やめた方がいいって」

 

それでも、最終的に決めるのはユウナだ。

迷いが晴れない彼女は『両親』と会ってから決めることにした。

 

グアドサラムには『異界』がある。

死者の魂から抜け出た幻光虫が異界送りにより辿り着く場所。

そこでは生者が強く思い浮かべれば、死者の幻影が浮かび上がる。

管理しているグアド族でも原理を理解しきれていない、謎めいた場所だ。

 

「……あれ?行かないのか?」

 

だが異界への入り口で、一行の中から3人が歩みを止める。

 

「思い出は優しいから、甘えちゃダメなの」

 

「異界は気に食わん」

 

「『シン』との戦いで散った戦友は、全てこの胸に焼き付けてある。

 それに儂も、理由はわからんが……異界には近づきたくない」

 

リュック、アーロン、ヒノカミの3人は外で待つことにした。

リュックは手すりに、アーロンは階段に座る。

 

「……アーロン殿、手を出せ」

 

「む……?」

 

ヒノカミはアーロンに近づき小声で語り掛ける。

アーロンは訝しみながらも、差し出されたヒノカミの掌の上に自分の手を乗せた。

 

 

「…………!?」

 

そしてヒノカミは己の力をアーロンへと注いだ。

 

「これでいくらか楽になるじゃろ」

 

「……すまん」

 

ヒノカミは初めて見た時から、アーロンがただの人間ではないと気付いていた。

彼は『死人』だ。

 

この世界では死んだ人間が異界送りを受けていない場合、生者への羨望から魔物へと変貌する。

だが死の間際に強い執着や怨念を抱いていると生前の姿と記憶を維持したまま亡霊となる。これが死人である。

 

故にこの世界におけるあの世である異界に近づくことは、彼にとってまさに命がけ。

何も知らぬユウナたちを誤魔化すためとはいえ消滅の危険すらある。

だからヒノカミは彼に己の巫力を大量に注いだ。

霊体の半実体化という点でオーバーソウルに近い存在だったので試してみたがうまくいったようだ。

彼の幻想体は強固となった。実力も生前の頃に近づいたはず。全盛期ほどとはいかないだろうが。

 

「……何も聞かんのか?」

 

「答えてくれるならば尋ねるさ。

 スピラとは、ザナルカンドとは、究極召喚とは……そしてあの『少年』は何者かをな」

 

まともな人間でないのはアーロンだけではない。

当人は全く気付いていないようだがザナルカンドから来た少年もまた異質だ。

しかしアーロンのように死人ではなく、どちらかといえば召喚獣とやらに近い。

初めて出会ったときは彼の故郷の世界由来の体質かとも思ったが、同じく繫栄したザナルカンドでアーロンも共に暮らしていたと聞いてから違うと気付いた。

そしてアーロンは、おそらくこの世界の誰よりもこの世界の核心に踏み込んでいる。

スピラからザナルカンドに渡った、つまりその方法を知っているのだから。だが。

 

「いずれ……ザナルカンドに辿り着いたならば、全て話してくれるんじゃろ?

 ならば待つさ。お主の心に踏み込んで、泥をつけずに聞き出す術を、儂は持たん」

 

「……礼を言う」

 

離れた場所にいるリュックには二人のやり取りに気付かなかったようだ。

間もなくユウナたちが異界から戻ってきた。表情を見るに、彼女なりに結論が出たらしい。

シーモアに伝える前に結論を教えてほしいところだが、いずれにしても大人数で異界への通路を塞ぐべきではないと一行はその場を離れようとする。

 

 

 

「「「……!?」」」

 

 

しかし背後から悲鳴が聞こえて引き返す。

グアド族の男の亡霊が一人、うめき声を上げながら異界の境目を超えようとしていた。

元エボンの老師の一人でありグアド族の前族長、そしてシーモアの父親。

 

「……ジスカルさま!?」

 

彼は苦悶の表情で必死に手を伸ばし続けている。

異界にいるということは、異界送りはされたのだろう。元老師ならば当然だ。

だが異界に送られて尚現世に留まろうとするとはただ事ではない。

それこそ死人よりも更に強い執着があるはずだ。

 

「もうジスカル様じゃない……ユウナ、送ってさしあげなさい!」

 

「うん……!」

 

「待て!」

 

改めて異界送りをしてジスカルの亡霊を無理やり鎮めようとしたユウナたちを止めてヒノカミが前に出る。

相変わらず異界から嫌な感覚を感じる彼女は躊躇いながらも、異界との境目に手を添えた。

 

『オォォォ…………』

 

「何があった……何が其方をそこまで突き動かす……!」

 

一度異界に送られたというのにこうして現れたというのなら、再び異界送りをしても繰り返すだけだ。

彼の未練を知り、そのものを解消しなければ意味がない。

そしてシャーマン能力を持つヒノカミならば汚染や悪影響を受けることなく死者の念を受け止めることができる。

 

『ァァァ……』

 

異界と現世の境の膜を挟んで、ジスカルとヒノカミの手が触れた。

 

「…………!?」

 

ジスカルの記憶と感情が流れ込んでくる。

想いを伝えられたと察したジスカルは安堵の表情を浮かべ、ゆっくりと薄れていく。

 

「消えた……」

 

「何があったの……ヒノカミ?」

 

黙ってみていたユウナやガードたち、居合わせたグアド族たちが無言で佇むヒノカミに声をかける。

 

「……話は後じゃ。ここを出る」

 

振り向いた彼女の手には一つのスフィアが握られていたが、すぐに胸元に隠したためそれに気づいた者はいなかった。

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