『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『シーモアはずっと気に入らなかったし、正直今でもだけど。
 ただ父親に振り回されて苦労したってところだけは、分かり合えるような気がしたんだ』


第11話 雷平原

 

グアドサラムに戻った一行は求婚への返事、そして異界での出来事を伝えるために再びシーモアの屋敷を尋ねたのだが、彼はすでにグアドサラムを離れたらしい。

彼が管理するマカラーニャ寺院へと向かったとか。

 

「……好都合じゃな」

 

「「「え?」」」

 

「話したいことがある。できれば、他の誰にも聞かれぬところで」

 

「先ほどの件か?」

 

「うむ」

 

その場にいたグアド族より『絶対に口外しないでくれ』と懇願されていたためアーロンは言葉を濁したが、言うまでもなくジスカルの件だ。

『死者は異界へ』、それがエボンの教えでもある。

グアド族は先代族長ジスカルの尽力によりエボンの民としてスピラに認められたばかりだというのに、異界に送られたはずのそのジスカルが未練に囚われ現世に戻ろうとしていたなどと醜聞が悪いどころではなかろう。

死人であるアーロンも教えに背く存在ではあるが。

 

「この先でよかろう。確実に人がいない場所だ。

 話し合いをするには騒々しいがな」

 

「そうじゃな、行こう」

 

グアドサラムを超えれば次は『雷平原』。

年中雷雲に覆われ雷が降り続けるという、スピラでも有数の危険地帯だ。

過去の偉人により避雷針の塔が至る所に建てられてはいるがそれも完全ではなく、理由もなければ人が通るような場所ではない。

そして召喚士とガードは試練の旅という理由がある。

幼少期のトラウマとやらで雷に拒絶反応を示すリュックが駄々をこね続けたが、何度目かでヒノカミに意識を落とされた。

 

そして彼女が目を覚ましたのは雷平原を超える手前……避雷針を兼ね備えた屋根付きの広間だった。

 

 

 

「結論から言う。ジスカルを殺したのはシーモアじゃ」

 

「「はぁっ!?」」

「「「えぇっ!?」」」

「「…………」」

 

「これがその証拠となる」

 

ヒノカミは台の上に異界でジスカルから受け取ったスフィアを置く。

どうやって死者となった彼がスフィアを持ち歩いていたのかは不明だが……スフィアも幻光虫の力を用いたもので、グアド族は幻光虫の扱いに長けた一族でもある。

その族長となれば、こういうこともできるのかもしれない。

 

『儂がこれから言うことは、曇りなき真実……』

 

スフィアに録画された映像を再生する。

生前のジスカルと、背景には稲光。おそらくここ雷平原で撮影されたものなのだろう。

 

『心して聞いてほしい……我が息子シーモアのことだ……』

 

彼はシーモアの胸に宿る禍々しい熱に気付いていたようだ。

 

『このままでは……スピラに災いをもたらす者と成り果てるだろう』

 

そして、まもなく己が殺されるという未来にも。

 

『それは受け入れよう……儂がふがいないばかりに、あ奴は苦しみ……歪んでしもうた……』

 

彼は罪悪感から、未来に抗おうとはしなかった。

だが、エボンの老師として。

スピラの未来を憂う民の一人として。

 

『これを見るものよ……シーモアを止めてくれ。

 息子を……頼む……!』

 

そこで映像が途切れた。

ユウナを始めとするエボンの民は言葉を失っている。

 

「……確かに、シーモアはジスカルに復讐する権利はあったようじゃがな」

 

「なっ!?エボンの老師を……実の父親を殺すなんざ許されるわけねぇだろ!?」

 

「その実の父親から事実上捨てられとったんじゃよ。奴は」

 

「「「!?」」」

 

映像の中でジスカルが口にしていた懺悔を、彼の亡霊から受け取った記憶で補完し説明する。

 

シーモアはグアド族と人間のハーフだ。

ジスカルは言うまでもなくグアド族、ならば母親が人間ということになる。

何故ジスカルが同族でなく、人間の妻を娶ったのかと言えば……『グアド族と人間との交流を推し進めるため』。

つまりユウナに政略結婚を仕掛けたシーモア自身もまた、父親の政略結婚の結果産まれた子であったのだ。

 

ジスカルの尽力により今のグアド族は幾分スピラに馴染んでいるが、かつてのグアド族はとんでもなく排他的な一族だった。

当時は人間側も『姿が醜い』と心無い言葉をぶつけていたし、幻光虫を集めて魔物を生み出し使役する力を持ったグアド族を恐れていた。これに対する反発もあっただろう。

ジスカルの妻として迎えられた人間の女と、彼女が生んだシーモアは、グアド族全体から激しい迫害を受けていた。

ジスカルは愛ではなく義務感と責任感から手を尽くしたようだが結局は守り切れず、二人は辺境の寺院へと押し込められた。

『心身共に病んでしまい余命いくばくもない妻』と『母親以外に頼る者のいない少年』の二人をだ。

 

「『親の都合で生み出し、邪魔になったから捨てた』。この事実は変わらん。

 挙句最後まで息子に向き合おうともせず、自己満足で息子に父殺しをさせ、その後始末をどこぞの誰かに押し付ける。

 エボンの老師としてどれほど偉大かは知らんが、ジスカル・グアドという男は『親としては最低のクズ』じゃよ」

 

「「「……」」」

 

「アイツも……父親のせいで苦労してたんだな……」

 

「……まぁここまでなら家庭のもつれじゃ。

 族長と老師の座を引き継いだこともグアド族の問題と放置してもよかろう。

 しかしユウナに手を出そうというのなら見過ごすわけにはいかんな」

 

「!?そうだ、ユウナんの結婚!」

 

「『エボンを利用し、召喚士を利用し、ガードを利用し』……そうおっしゃられていたわね」

 

「つまり今度は、ユウナを利用してまた何か……!」

 

「具体的に何をするつもりかはわからんが、碌なものではなかろうて」

 

「んなことやらせるかっての!」

 

「ユウナへの手出しは許さない!」

 

「それに、シーモア老師を止めないと!

 ジスカルさまに頼まれたんだもの……!」

 

 

 

「具体的にどうやって止める?」

 

意気込む仲間たちに、ヒノカミが冷や水を浴びせる。

 

「「「え……?」」」

 

「思い出せ。奴はグアド族を束ねる族長で、エボンの老師じゃぞ?

 儂らが声を上げたところでもみ消されて終わりよ」

 

おまけにグアド族というのは良くも悪くも縦社会だ。

まだ寺院の教えが届いておらずスピラの民として受け入れられなかった苦難の時代を生きるためでもあったのだろう。

例え前族長を暗殺した男であろうと、シーモアが現族長である以上は大半のグアド族は奴に従うはず。

そして寺院に訴えるのも難しい。

 

「『大召喚士ブラスカの娘』と『そのガード』であろうと、老師という肩書には及ぶまい。

 下手を打てば反逆者となるのはこちらの方。

 もう一度問うぞ……どうやって止める?」

 

「「「…………」」」

 

ユウナ、ワッカ、ルールーが息を呑む。エボンの民にとって『反逆者』とはそれほどの重みがある。

教えなど信じていないアーロンやリュックも、正面から寺院を敵に回す事態は避けたいだろう。

スフィアという証拠はあるがこれもどこまで通じるか怪しいものだ。

 

 

「……なぁ、ほっときゃいいんじゃねぇの?」

 

「「「えぇ!?」」」

 

考え込んで黙ってしまった一行の空気の中に、気の抜けた少年の声が響く。

 

「なに言ってんだお前!?」

 

「え?あ、そうじゃなくて!旅が終わるまでほっとくってのは?」

 

「旅が、終わるまで?」

 

「そうそう!老師ってのがどんだけ偉いかは知らないけど大召喚士ほどじゃないんだろ?」

 

今まで巡ってきた寺院には大召喚士の像があった。

たった4つ、歴史上たった4人しかいない大召喚士にスピラの民はひたむきに祈りを捧げていた。

キノックやシーモアを相手にしていた時よりも、はるかに真摯に。

 

「だからユウナが『シン』を倒して大召喚士になっちゃえば、みんなユウナの方を信じるって!

 とりあえず結婚を断って、ジスカルのことは知らない振りしてザナルカンドに行ってさ。

 『シン』を倒した後でシーモアが悪い奴だって言い触らす……どうスか!?」

 

「「「「「…………」」」」」

 

合理的で現実的な提案である。

ただ一つ……彼の知らないとある事実を除けば。

 

「……悪くないな」

 

「「「!?」」」

 

「しかし完全に断ると短絡的な行動に移るかもしれん。

 かといってあまり返答を先延ばしにもできん。

 よって『究極召喚を手に入れるまで回答を引き延ばす』でどうじゃ?

 間もなく『シン』を倒す召喚士となれば無下にはできまい。

 このスフィアという証拠も十分な力を発揮するじゃろう」

 

ルールーとワッカは非難するような視線をヒノカミに向けていたが、続く彼女の言葉に表情を変えた。

 

「……そうね、それがベストかしら」

 

「だな!それで行こうぜ!

 ……お前もたまには鋭いこと言うじゃねぇか!」

 

「よし決まり!……って『たまに』は余計だっての」

 

ようやく面倒な問題が解決しそうだと少年も笑顔を見せる。

ユウナが『シン』を倒すまでに少しでも猶予ができるならとリュックも乗り気になり、多数決により方針が決定した。

 

その後もいくつかの議論を続け、シーモアの出方に対する対応を決めたところで、ようやく一行は雷平原を後にした。

 

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