『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『『シン』とも渡り合ったヒノカミなら絶対に大丈夫だって信じてはいたけど、だからってほっといていいなんてことにはならない。
 それが仲間だもんな』


第14話 聖ベベル宮

 

マカラーニャ雪原の入り口にある店まで戻ってきた召喚士ユウナ一行は、約束通りその場に残っていた討伐隊の隊員に証拠のスフィアを見せながら全てを暴露。

ミヘン・セッションの一件で彼らは寺院から破門されたままだが、自分たちがスピラの民であるという意識は強い。

特に、ミヘン・セッションの準備のために討伐隊がルカを離れ警備が手薄になっていた隙を突かれて事件を起こされたという事実は強い憤りを抱かせた。

討伐隊チョコボ騎兵隊の隊長であるルチルは部下たちに情報を拡散するよう命じるだけでなく、このまま聖ベベル宮に向かいマイカ総老師に直訴するというユウナたちに同行するとまで言い出した。

その熱意に負け、彼女を始めとした数名の騎兵隊隊員がユウナたちの先導を務めた。

 

マカラーニャの森に戻りグレートブリッジを超えれば、すぐにベベルだ。

ここはエボンの寺院の総本山でありスピラで最も発展した都市でもある。

ユウナたちは門番である僧兵に証拠のスフィアを見せ、寺院の重役に取り次いでもらうよう懇願した。

 

事が事であるためかすぐに老師の一人であるキノックが現れ、寺院として直ちにシーモアを拘束すると宣言した。

グアド兵を多数従えるシーモアの反抗が想定されるために僧兵を揃えてから向かうというキノックに、置き去りにしてきたヒノカミを迎えに行くためにとユウナは同行を願い出た。

 

だがキノックはその申し出を拒絶した。

 

「何故ですか、キノック老師!

 マカラーニャには未だ私のガードが!」

 

「その者のことはこちらに任せたまえ。

 諸君らはベベルの奥へと向かい試練を受けよ」

 

ベベルもまた寺院であり、試練の間と祈り子が存在している。

召喚士として最優先すべきは召喚獣と契約すること、そして究極召喚を手に入れるために成長を続けること。

『余計な問答を続ける方が部隊の編制と出兵が遅れる』と突き放され、キノックの命令を受けた僧兵たちに半ば強引に試練の間へと案内され、召喚士ユウナ一行は渋々指示に従った。

 

「…………」

 

そんなキノックを、かつて僧兵だった頃に彼の同僚であったアーロンが鋭く見つめていた。

 

ユウナとガードたちの中で、彼だけが予想していたのだ。

 

 

エボンが己の不正と失態の隠蔽を優先する可能性を。

 

 

「アーロン!」

「「「アーロンさん!」」」

 

「いいか、出てくるなよ!」

 

『シーモアを捕縛するため』という名目で集められた僧兵たちが祈り子の間の前の広場に雪崩れ込んでくる寸前、アーロンはユウナだけでなく他のガード全員を祈り子の間の奥へと押し込めた。

扉の隙間からの音だけしか聞こえない若者たちを背にアーロンは太刀を構え、たった一人で銃口を向ける軍勢に向かい合う。

 

「……教えに反する武器のようだが?」

 

「時と場合によるのだよ」

 

アーロンの問いに、醜悪な笑みを浮かべたキノックが応える。

 

「討伐隊とアルベドの連中にはスフィアの複製を渡している。

 奴らを通じて、すでにスピラ中に情報は広がっている。

 流石の寺院でも隠しきることはできんぞ」

 

「問題ないさ。先ほど討伐隊全てを反逆者と認定した。

 映像はアルベドのデマとすればよい」

 

「「「!?」」」

 

「フン。いつものように、か。

 ……お前たち、これがエボンの本質だ。

 奴らの言う『教え』は、自らの体制と権力を維持するための方便にすぎん」

 

扉の向こうから、エボンの教えを信じる者たちが息を呑む音が聞こえた。

 

「知られたからには、お前たち誰一人として生かして帰すわけにはいかんな。

 ……あぁ、安心するといい。

 シーモアは後ほど病死ということで処理しておこう。ジスカルと同じようにな。

 全く、あの若造め。余計な手間を増やさないで欲しいものだ」

 

「そうして目障りな連中を排除して今の地位を手に入れたわけか。

 ……愚かだな、キノック」

 

「……何とでも言え……!」

 

かつて、キノックとアーロンは戦友だった。

だがキノックは優れた能力を持つアーロンに嫉妬していた。

彼が上役からの縁談を断り出世街道から外れた時には内心ほくそ笑んでいた。

だがアーロンはブラスカと共に『シン』を倒し、『伝説のガード』となった。

そしてキノックはかつてを遥かに上回る勢いで再び燃え上がった嫉妬の炎を原動力に、あらゆる手段を用いて出世しエボンの老師という地位に昇り詰めたのだ。

 

「総員、構え」

 

ジャキッ!

 

「!?アーロン!オレたちも……!」

 

「下がっていろと言った。これは、『プランD』だ」

 

「!?」

「プラン……『D』!?」

 

アーロンはユウナたちの意思を尊重し彼女らがエボンへ訴えを起こすことは止めなかったが、エボンがユウナたちを裏切り排除に動く可能性を想定した。

だからヒノカミにだけ全てを明かし対策を検討していた。

彼女はエボンを信じておらず単独で戦況を覆しうる。そして彼女から預かった通信機ですでに信号は送った。

 

「事態を把握した奴はすぐにここまでたどり着く。

 それまでの時間を俺が稼ぐ。

 これがお前たちには伝えずにいた『プランD』だ」

 

「フン、笑わせるな。誰だか知らんがたった一人で……」

 

「ミヘン・セッションで『シン』と互角に戦った鬼だ。

 ベベルの全戦力を注ぎ込もうとヒノカミは止まらんぞ」

 

「!?」

 

あの小柄な少女が討伐隊の鬼人の正体であることは、ユウナ一行以外はごく一部しか知らない秘密だ。

キノックも彼の側近たちもミヘン・セッションの見物に訪れていた。

もしあの巨体がベベルに侵攻してくるとなれば。

 

「そもそも、討伐隊を反逆者に仕立て上げた時点で奴はエボンの敵になる。

 例え奴がユウナのガードになっていると知らずとも、ここまで短絡的な行動を取るとは思わなかったがな。

 ……見事だキノック。お前の愚かさは、俺の想像を遥かに超えていた」

 

「~~~~っ!アーロンを殺せ!

 他の連中は生かして捕らえろ!」

 

ユウナたちをヒノカミへの人質にするつもりだろう。

僧兵たちは銃の引き金に指をかけた。

 

 

「……ずぁぁぁぁっ!!!」

 

 

しかし裂帛の気合と共に振り下ろされたアーロンの刀が生み出した衝撃波を受け、僧兵の陣形は薙ぎ払われた。

 

「ぐっ、このっ!」

 

ガァン!

 

陣の端にいて攻撃を免れた兵が苦し紛れに銃を撃ち、アーロンの胴に直撃した。

だが間もなくアーロンの傷口は、衣服まで含めて逆再生するかのように消えていく。

 

「な、なぁ……っ」

 

「ふん。まさかこんな身体がここまで役立つことになるとはな」

 

今のアーロンは死人だ。実体を持たず幻光虫で構成された幻想体。

ヒノカミに言わせればオーバーソウルに近い彼の体には、プランDを実行するにあたりあらかじめ彼女から膨大な巫力を注がれている。

彼が引き出せる力の上限は生前の全盛期までだが、だからこそ幻想体を再構成するための力ならいくらでも余っている。

力が尽きない限り、死人である彼は不死人でもあるのだ。

 

「奴があまりにも年長者として振舞うのでな……。

 たまには俺もそれらしいところを見せねば、立つ瀬がない!」

 

アーロンが軍勢へと突っ込み、あふれ出る力のままに太刀を振るう。

流石のエボンでも試練の間や祈り子の間を過剰に破壊するわけにはいかず、僧兵たちが持ち込んだ機械の兵器は大した威力のないただの銃だけだった。

それではザナルカンドまでたどり着いた伝説のガードは止められない。

 

 

 

ドガァァァン!!

 

 

「「「!?」」」

「来たか……!」

 

戦いが続くこと数分後。

エボン総本山であるベベルの奥の、祈り子の間にまで巨大な地響きが轟く。

この状況でその原因は一つしか思い浮かばない。

 

 

「ほ、報告いたします!」

 

間もなく伝令役の僧兵が一人、キノックに情報を伝えるために戦場に駆け込んできた。

 

「外部からの襲撃です!鎧姿の大男が……!」

 

「えぇい!たった一人だろう!?何としても食い止めるのだ!」

 

「違います!鎧姿の男が、『大量の魔物を引き連れて』襲撃を……!!」

 

 

ボォン!

 

 

伝令は報告を終える前に爆炎に呑みこまれた。

 

「な……!」

 

「加減はした。殺しはしていない。

 ……それが彼女との取り決めなのでな」

 

祈り子の間への扉を守るアーロンと、半ば瓦解した僧兵部隊。

そのどちらでもない妖艶な声が戦場に響く。

 

「……あれ?」

「この声って……!」

 

扉の向こうに押し込められているユウナたちにも聞き覚えのある声だった。

アーロンからの攻撃の余波に巻き込まれ豪華な僧衣をボロボロにしたキノックが、乱入者に指を向けてヒステリックに叫ぶ。

 

「何故ここにいる!?シーモア!!」

 

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