『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『オレはザナルカンドから来たから、腹は立ったけどそれだけだった。
 だからスピラの皆が感じてた辛い気持ちを分かち合うことができなかった。
 それが、少しだけ悔しかった』


第15話 エボンの真実

 

ベベル全域に絶え間なく轟音が響く。

しかし祈り子の間の前の広間は今は静かになっていた。

想定以上の反撃を受け、キノックと僧兵たちが撤退したからだ。

 

「さて皆さん。もう出てきていただいて結構」

 

祈り子の間の扉を開き出てきたユウナたちが目にしたのは、彼らが予想した通りシーモアだった。

彼はアーロンを援護する形で僧兵たちを魔法で攻撃し、連中を追い返したのだ。

 

「……助けてやった、などと恩に着せるつもりはありません。

 ですがそのように敵意を向けられては話もできない」

 

「テメェ、どの口で……!」

 

食い掛る少年をアーロンは手で制し、続けてシーモアが持っている物に視線を向けるよう無言で促す。

 

「……あ!『ヘルメスドライブ』!」

 

「えぇ、彼女から預かりました。

 まさかこれほど小さな転移装置が存在するとは……エボンの老師として様々な機械に触れて来た私ですが、驚きを隠せません」

 

これに重量制限付きの転移機能まであるとユウナたちが知らされたのもマカラーニャ寺院に突入する直前だった。

ヒノカミしか取り出せず、使い方を知らないはずの道具。ヒノカミから力づくで奪い取ることも使いこなすことも不可能。

であれば彼女がシーモアを送り出したというのは間違いなさそうだ。

 

「状況は道すがらお話します。

 彼女と私の部下が僧兵たちをかく乱している内に、脱出を」

 

「……案内しろ」

 

「お任せを。ベベルの作りに関してはマイカ総老師に次ぐ知識を持つと自負しております」

 

状況を受け入れきれてはいないが、いち早くベベルから脱出せねばならない状況であることは事実。

ユウナたちはシーモアとアーロンに続き試練の間を後にする。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

ユウナたちがマカラーニャ寺院を脱出した後。

シーモアとグアド兵は無抵抗なヒノカミに全力で攻撃を続けたが、倒すどころか掌を離させることすらできなかった。

ヒノカミはそんな彼らをあざ笑い、絶望を突きつけるようにユウナたちがベベルに向かったことを明かした。

百歩譲ってジスカルの暗殺はグアド族の問題と押し切ることもできるだろう。だがルカの襲撃事件は言い逃れができない。

寺院もシーモアを庇うことなく、グアド族ごと切り捨てるだろう。

場合によってはグアド族という種族そのものがスピラの敵と見なされるかもしれない。アルベド族のように。

ジスカルの尽力によりようやくスピラの一員として受け入れられるようになったばかりだというのに、また迫害が始まるとなれば兵たちの士気は下がると考えた。

 

だがシーモアを絶対視する兵たちは揺らぐことなく、突如『停戦交渉を行いたい』と提案してきたシーモアに異議を申し立てることもしなかった。

 

シーモアはエボンの老師だ。老師だからこそ彼はエボンの腐敗ぶりを嫌と言うほど知っている。

彼はマイカ総老師がエボンという組織にわずかな汚点が付くことも認めず、事態の隠蔽とユウナたちの排除に動くと確信していた。

 

シーモアの目的はユウナを手に入れること。

手に入れてどうするかまでは明かさなかったが、老師という地位よりもユウナの方が優先度が高いと言う。

ヒノカミは相手が嘘をついているかを察することができる。そしてシーモアの発言に嘘は感じられない。

であれば彼とのにらみ合いで時間を浪費するのはヒノカミにとっても望むところではない。

アーロンとだけ相談し万が一の事態に備えてはいるが絶対でもない。

よってヒノカミは提案を呑み、シーモアと一時休戦。

ユウナたちを救出するまで協力することとなった。

ユウナを悲しませぬよう、誰の命も奪わぬという条件付きで。

 

当初は陽動はグアド兵たちの生み出した魔物だけに任せて、ヒノカミとシーモアは揃ってユウナたちのところに転移で直接乗り込む予定だった。

だがベベルの奥からルチルを始めとした討伐隊の者たちの気配を感じ、彼女らまで捕らえられたと察した。

そこでヒノカミはグアド兵の陽動に協力しながら彼女らの救出に向かうことにした。

そして騒動の隙にユウナたちを連れてベベルを脱出するよう、シーモアに依頼したのである。

 

 

「今使用しているこの通路も、エボンの高僧でなければその存在すら把握しておらぬもの。

 見つかることはまずないでしょう。このままベベルの外へ……いかがなさいました?」

 

「……決まってんだろ!教えはどうなってんだ!?教えは!!」

 

「ワッカ、気持ちはわかるけれど今は声を抑えなさい」

 

無理もない。シーモアに案内された通路はどこもかしこも機械だらけだったのだから。

彼らが立っているのも自動で動く足場の上だ。

祈り子の間の前でアーロンから『エボンは自らの教えを破っている』と聞かされてはいたが、それにしても度が過ぎている。

 

「……外に辿り着くまでまだ時間がある。

 よろしい、もう少し教えて差し上げよう。

 千年前にスピラで起きた戦争はご存知ですね?」

 

「二つの巨大都市による戦争のこと、だよね?」

 

「えぇ。それは『召喚都市ザナルカンド』と『機械都市ベベル』の戦いでした」

 

「!?」

「ザナルカンドと……ベベル!?」

「機械都市ですって!?」

 

「ベベル寺院に機械があるのではなく、機械都市ベベルが寺院を偽装しているだけなのですよ。

 そして千年たった今も、ベベルの高僧たちは機械の恩恵を受けて華やかな暮らしを送っているわけです。

 『人間が罪を償えば『シン』が消える』という教えが正しいのであれば、ベベルとエボンがある限り罪は消えない。

 彼らこそが『シン』を生み出した争いの元凶の末裔なのですから。

 『エボンの教え』とは彼ら以外が機械という力を持つことを認めず、彼らが受けるべき罰をスピラの民に押し付けるためのもの。

 エボンはこの千年一度たりとも、己の示した教えを守ったことなどないのですよ」

 

「人を……コケにしやがって……っ!!」

 

「エボンの奴ら、そんなんでアタシらアルベド族をずっと……!」

 

「……まもなく到着です。お話はまた後程」

 

足場が止まり、一行はシーモアの案内で外に出る。

そこはグレートブリッジの途中で、周辺にはおそらくヒノカミに破壊された機械兵器の残骸が散乱していた。

振り返ると遠方に見えるベベルには煙が上がっており、何度も爆発音が聞こえてくる。

 

「……恐ろしいものです。

 まさかベベルの誇る機械兵器群を、こうも容易く破壊し尽くすとは」

 

「奴は炎を扱う力に長けているらしい。

 火薬を内蔵した兵器など、奴ならば睨むだけで爆破できるそうだ」

 

「なるほど。であれば機械頼りのベベルはどうあっても彼女には敵わないわけですか」

 

シーモアとアーロンは冷静に話をしているが、ユウナたちはエボンが隠し持っていた機械兵器の規模に戦慄し言葉を失っていた。

なのでベベルとは逆の方向から駆け寄ってくる一団に気付かなかった。

 

 

「兄ちゃん!ルー!」

 

「「チャップ!?」」

 

十数人の討伐隊員たちを率いたチャップが、兄の姿を見つけて駆け寄る。

 

「おめぇ、なんでここに!?」

 

「オレらもよくわかんねぇんだって!

 頼まれた通りグアドの件を広めてたら、いきなり寺院から『反逆者だ』なんて言われてさ!

 近くにいた皆を集めて、マカラーニャにいるはずのルチルさんと合流しようとしてたんだ!

 そしたらベベルでとんでもない爆発が起きてるのが見えたから、確認しなきゃって……!」

 

「その人物なら寺院に捕らわれていますが、ヒノカミが救出に向かいました。

 まもなく揃って脱出するでしょう」

 

「シーモア老師!?なんで!?

 兄ちゃんたちと敵対してたんじゃ!?」

 

「……説明は後だ。とにかくベベルを離れるぞ。見ろ」

 

アーロンに倣ってベベルの空を見上げると、何かが遠くの空に飛んでいくのが見えた。

大きさと尾を引く炎から、間違いなく鎧を纏ったヒノカミだろう。

 

「彼女と兵たちとの合流地点は、マカラーニャの森の泉です」

 

「わかった。走るぞ!」

 

召喚士ユウナ一行は、シーモアと討伐隊員たちを連れグレートブリッジを走り抜ける。

 





原作ではベベルの試練の間は機械だらけでしたが、何も知らない召喚士用に機械が全くないルートもあると思います。
なので本作のユウナたちがここに来るまでは上記の道を、ここから出る時は原作の試練の間と似たようなルートを通っているとイメージしていただければ。
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