『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『討伐隊と、グアド族と、アルベド族と……全部敵に回すようなことをするなんて思ってもみなかった。
 エボンって一つの組織がそんなに大きな力を持ってることを、オレは実感していなかったんだ。
 でもみんなに……スピラにとってはそれが当たり前だったんだな』


第16話

 

召喚士ユウナと、ガード7名。

ルチルやチャップが率いる討伐隊十数名。

シーモアと彼に仕えるグアド兵部隊。

合流場所にしたマカラーニャの泉の傍はそれなりの広さがあるが、これほどの人数となるとどうしても手狭だ。

しかしまだここはベベルの目と鼻の先。見つからないように潜むしかない。

 

討伐隊からはチャップ、グアド族からはシーモアが代表として、召喚士ユウナ一行との議論を始める。

ルチルではなくチャップが選ばれたのは、彼はヒノカミの正体を知っているからだ。

知らなかったルチルは鎧を脱いだ彼女を目にして以降使い物にならなくなったので、他の隊員たちのまとめ役を押し付けている。

 

「まずはシーモアよ。ユウナらを救い出してくれたことを感謝する」

 

「いえいえ、これも私から提案した契約なれば」

 

「……で、どうする?契約はここまでじゃが、改めて儂らとやり合うか?」

 

「やめておきましょう。グアド族の総力を上げようと貴女には敵いそうもない。

 寺院を完全に敵に回した今、お互いに余計な争いと消耗は避けたいはず」

 

「その通りじゃな。皆もそれで構わんか?」

 

一同は疲れた顔で頷く。

ジスカルを殺し、ルカを破壊し、ユウナを手に入れようと強硬手段に出たシーモアに思うところはある。

だがそれ以上に醜悪な寺院の正体を目の当たりにして、特に敬虔なエボンの民であったビサイド出身者たちは完全に参ってしまっていた。

だから『シーモアがもう手出ししてこないなら』と不満を呑みこんだ。

 

「さて、これからどうするか……。

 ユウナ、旅を続ける覚悟はまだあるか?」

 

「……はい。エボンがどのようなものであろうと、反逆者と呼ばれようと……私はスピラのために『シン』を倒すと誓いました」

 

「そうか。であれば我らは引き続きザナルカンドを目指す。

 となれば問題は、グアド族と討伐隊じゃな」

 

エボン総本山であるベベルに侵略したのだ。流石のマイカもシーモアの不祥事の隠蔽ではなく、抹消に舵を切るはず。

『グアド族全てが敵』とまでは言い出さないだろうが、シーモアとグアド兵は間違いなく全員反逆者にされる。

シーモアの命令とは言えグアド兵たちが侵略した理由が『ユウナを助けるため』なのだから、見捨てるのは寝覚めが悪すぎる。

 

そして反逆者と認定されたのは討伐隊もだ。

彼らはミヘン・セッションで『シン』に手傷を負わせた功績もありスピラ各地で相応の信頼を勝ち取ってはいたが、歴史あるエボンの反逆者認定を覆すほどではない。

届く情報によれば、穏当に街や村を出ていくよう促されるくらいで済んでいるらしいのでまだマシか。

 

「せめて寺院が容易に手出しできんよう、勢力を結集すべきだ」

 

「で、あろうな。グアドはシーモアが命じれば従うとして……討伐隊はグアドを受け入れられそうか?」

 

「厳しいかもな。マカラーニャ寺院の件を聞いた討伐隊の皆はグアド族に対する嫌悪感をあらわにしてた。

 ユウナちゃんはミヘン・セッションで死んだ仲間たちの異界送りを請け負ってくれたから、皆からすごく人気があるんだ」

 

「嘘でもなんでもでっちあげて無理やりにでも受け入れさせろ。

 今の共通の敵は寺院だ」

 

「ふむ……では私は『エボンの不正を知り、それをスピラに知らしめるための計画の一環としてユウナ殿を利用しようとしていた』ということにしましょうか」

 

「……説得力はあるが当人から提案されると腑に落ちんな。

 あとは集まるにしてもどこにするか……」

 

方々に散らばったままでは寺院に追い立てられ狩られることになる。

だがどこの街にも寺院の手は伸びている。

討伐隊だけでもとんでもない人数がいるのに、そこにグアド兵まで加わるとなれば彼らが集合できる場所は限られる。街どころか野営キャンプすら難しい。

 

 

「……あのさ!」

 

意を決して手を挙げたリュックに全員の視線が向く。

 

「アルベド族のホームに来ない?

 まだエボンの奴らには見つかってないはずだし、そう簡単にはたどり着けないとこにあるから!」

 

「なるほど。討伐隊とグアドに加え、アルベドまで団結すれば寺院も容易には手出しできんだろうな」

 

「堂々とベベルから機械兵器を持ち出すわけにもいきませんからね。

 民の目を盗んで運び出すにも限界がある。

 強力な機械の武器がなければベベルの僧兵など物の数ではない」

 

「そうそう!そんで秘密にしてほしいんだけど、ホームの場所は……」

 

「『ビーカネル島』か?」

 

「うぇっ!?なんで知ってんの!?」

 

「以前、『シン』の偵察に出している者が偶然見つけてな」

 

ヒノカミがこの世界に来てから今に至るまでほぼずっと、疲れ知らずの霊体である赫月と白星がスピラ中を飛び回り『シン』の足取りを追い続けている。

そんな中で無人と言われている砂漠の島のど真ん中に巨大な機械の建造物があれば嫌でも目を惹く。

数百人規模が収まるかと言われれば怪しいが、周囲に仮設キャンプを広げれば何とかなるだろう。

 

「どうやってスピラ中に散らばっている連中を島に連れていくかはともかく、まずはアルベド族のトップに交渉せねばなるまい」

 

「それなら任せて!族長はアタシの親父だから!」

 

「討伐隊とグアドの代表として、私とチャップさんも同行するべきでしょう。移動手段は?」

 

「あー……リンの店でホームに連絡入れて迎えの船を……」

 

「時間が惜しい。道は儂が『斬り』開く」

 

「「「?」」」

 

ヒノカミが立ち上がり集団から少し離れる。

 

パン!

 

そして勢いよく掌を叩きつける。

 

「召喚士の旅で横着はまずいようじゃが、今回の件は寄り道じゃから例外でよかろう」

 

掌を離した彼女は、虹色に光り輝く剣を握っていた。

 

 

「次元刀」

 

 

そして剣で空間を切り裂いた。

裂け目の向こうには別の場所の光景が……砂漠の中にそびえたつアルベド族のホームが見えていた。

 

「ほれ、行くぞ。

 ……早うせんかい。時間が経てば裂け目が閉じる」

 

「「「「「…………」」」」」

 

ひょいと裂け目を飛び越えたヒノカミは、砂漠の上に立ち森の中にいるユウナたちを手招きする。

半ば思考停止した一行は言われるがままに裂け目を超えた。

 

「んじゃ、アルベド族に話を付けてくる。留守は頼んだぞー」

 

最後に裂け目から上半身を乗り出したヒノカミは離れた場所で口を開けて硬直しているルチルに一方的に後を任せた。

ヒノカミが引っ込んでまもなく完全に裂け目は閉じた。

何の痕跡も残っていなかった。

 

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