『この後でこっそり聞いたっけ。
『ヒノカミの能力ってので、オレのザナルカンドに行けないか?』ってさ。
『移動してみないとどこに辿り着くかわからない』って言われて諦めたけど。
……でもヒノカミはそうやって、ずっと色んな所を旅して、スピラに来たんだな』
「まずはそうじゃな……チャップ。
『1年前の件』を語ってもらえるか?」
「……なるほど、了解。
兄ちゃんたちにはミヘン・セッションの時に言ったよな?
1年前の戦いでオレ、『ヒノカミに助けてもらわなきゃ死んでた』って」
「あぁ」
「でも実は兄ちゃんたちが想像してるのとは状況が違うんだ。
正確には……『死んだままになってた』」
「!?どういうことよ、チャップ!」
「そのまんまの意味だよ、ルー。
一年前に『シン』と戦った時に、オレは一度死んだんだ」
「「!?」」
「『シン』は幻光虫諸共、周囲の死者の魂を取り込む特性を持つ。
故に『シン』と戦い死んだ者は著しく魂が劣化してしまう。
しかし先の戦いで致命傷を負ったチャップが息を引き取ったのは、儂が『シン』を追い返した後じゃった。故に……」
ボッ!
「我が癒しの炎……『不可死犠』による蘇生が間に合った」
「蘇生……蘇生ぃ!?
つまりテメェは、死んだ人間を生き返らせたってのか!?」
「皆の前では治療術として何度か見せてきたが、これは本来治療術ではなく蘇生術じゃ。
ある程度の肉体と万全の魂が残っていれば、死者であろうと蘇らせることができる。
尚、『シン』に殺された場合の他に時間経過でも魂は劣化する。異界送りされた場合も同様に蘇生は不可能となる。
じゃがもしも……もしも『究極召喚による召喚士の死』が、召喚士の魂を劣化させるものでないのなら」
「ユウナが死んでも……生き返らせることができる……!?」
「いかにも。そして『究極召喚を手に入れた召喚士』が死なずに生き続けることになれば?」
「っ!?ナギ節が終わって、『シン』が蘇っても!」
「またすぐにユウナが究極召喚を呼び出して、『シン』を倒してしまえる!」
「復活してすぐに倒しちまえばスピラへの被害は抑えられる……そうなりゃ『シン』も大した脅威じゃねぇ!」
「究極召喚を使う度に私が死んでも、その度に生き返ることができるなら、ずっと……!」
「上手くいけば大召喚士ユウナが健在である限り、スピラの平穏は約束される。
二十年も時間があれば次の大召喚士候補が生まれるまでの猶予も十分じゃろう。
……しかし今度はスピラが、蘇生術を使える儂に依存することになる」
「あ、そっか。ねぇ、その蘇生術ってのアタシたちでも使えるようにならないの?」
「無理じゃな。これは異なる世界の理、この世界の者では理解できまい。
儂自身が理解を深めそのような形で術式を再構築すれば可能になるかもしれん。
しかしこの術を手に入れてから時間を割いて研鑽を積んできたが、才能のない凡愚に過ぎぬ儂では不可能じゃった」
「異なる、世界?異界のこと?」
「いや、儂もまた少年と同じくスピラとは全く異なる世界からの来訪者なんじゃ。
少年とは全く異なる世界からではあるがな」
「「「!?」」」
「儂はかつて望まぬ不慮の事故により故郷の世界から弾き出されてしまった。
それから数多の世界をさまよう内に、自力で世界の境界を越える能力を手に入れた。
今は帰郷を目指す長い旅路の最中じゃ。スピラもまた、その過程で訪れた世界の一つにすぎぬ。
……故に儂は、願うなら一刻も早く、スピラを離れ故郷を探す旅を再開したいんじゃよ」
「っ、待ってくれ!図々しい願いなのはわかってるけど、今アンタにいなくなられたら!」
「安心せい。儂は相手が約束を破らぬ限りは約束を守る。
そして儂はチャップやルッツに『『シン』を倒すために協力する』と約束した。
すぐに復活するとわかっているのに一度倒しただけで『約束は守ったから』と突き放すつもりもない。
だから儂が真に目指しているのは、スピラに『誰かに依存せず誰かの犠牲を前提としない『シン』討伐体系を確立させること』じゃ」
「……具体的な内容を教えてください」
「堅実かつ確実な案は、スピラの成長を待つというもの。
『シン』の被害がほぼなくなればスピラは大いに発展する。
数十年かけてスピラの民が機械を学び、儂の知識で強力な機械兵器を開発して普及させれば、儂や究極召喚抜きでも『シン』を安定して討伐できる戦力が整えられるじゃろう。
要は討伐隊とアルベド族の戦力を、両組織だけで確実にミヘン・セッションを成功させられる状態にまで持ってくわけじゃな。
そうすれば儂や大召喚士といった特定の個人に依存する必要はなくなる。
争いでの犠牲は出るじゃろうが、少なくとも犠牲を前提とする状況からは脱却できる」
「嬢ちゃん、アンタ機械にも詳しいのか!?
いやそうか。その鎧を見りゃ、少なくともオレたちアルベド族より……」
「しかし先程付け加えたように、究極召喚に伴う死が召喚士の魂を劣化させる場合はこの計画が破綻する。
じゃが究極召喚を手に入れさえすればそれがどのようなものかを学び理解することができる。
儂が扱う力はこの世界の召喚術とは違うが、似通った部分もあるでな。
そこから『召喚士の魂を劣化させずに使える究極召喚』を作り上げる。
可能ならばさらに踏み込んで『召喚士が死ぬことのない究極召喚』を完成させたい。
そして先ほどの案の流れに持っていく。これが次善策じゃ」
「ミヘン・セッションで見たあの馬鹿でけぇ姿……。
確かにアレを呼び出せる技が使えるお前なら、究極召喚に手を加えることができるのかもしれねぇな……!」
「じゃがまぁ見通しが甘い点を除いたとしても、儂に言わせればこれらは妥協案じゃ。
儂が長くこの世界に拘束されることになるしな。
よって実現可能か否かを脇に置いて言えば、儂らが真に目指すべきは……」
「目指す、べきは……!?」
「『シン』を完全に消滅させる方法を見つけ出す」
「……おい、おいおいおい!
『シン』を倒して、ユウナを死なせない、おまけに『シン』の復活まで止めようってか!?
全部叶えば最高だけどよ!」
「欲張り過ぎると……全部失敗するわ」
「たわけが。求めぬ限りは手に入らぬ。
不条理溢れるこの世の中で、10を求めて手に入るのは精々6か7。
ならば掲げる目標は15であるべきよ。それでようやく10が得られるというもの」
「……千年だ。千年だぞ?
テメェは千年続いたスピラの歴史を根底からひっくり返そうってのか?」
「たかが千年がなんじゃ。
儂の実年齢は、そろそろ万の桁に達するぞ?」
「「「……はぁぁっ!?」」」
「旅の過程で、儂は飢えも老いも失った。千年なぞ、『たかが千年』じゃ。
こんな小娘一人に満たぬ歴史にどれほどの重みがある?」
「は……はは、がっはっはっは!!
大ボラ吹きやがったなクソガキ!!」
「儂は冗談や誤魔化しは言うが、嘘はつかんぞ」
「だったらそのホラを現実にして見せろ。現実にして初めて、ホラ吹きは英雄になれんのさ。
……となりゃあ、寺院だのグアドだのアルベドだの、そんなどうでもいいことにテメェらを関わらせてんのは時間の無駄だな」
「うむ。全ては究極召喚が何かを知らねば始まらぬ。
我らは急ぎザナルカンドへ辿り着かねばならぬ。『シン』が活動を再開するより先に」
「わぁった。オレぁテメェに賭ける!
面倒はこっちで引き受けてやっから、とっととザナルカンドに行ってこい!」
この時点のヒノカミは『究極召喚の真実』と『どうやって『シン』が復活するか』を把握していません。
それらを知っている者から見れば彼女の計画は問題が山積みです。