『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第22話 『夢の』ザナルカンド

 

「……あ?」

 

意識を取り戻した少年が周囲を見渡す。

仲間たちの姿はなく、カガゼト山の光景もない。

彼の目の前に広がっていたのは。

 

「ザナル……カンド?」

 

眠らない街、ザナルカンド。少年の故郷。

人伝に聞いたような廃墟ではなく、繁栄の限りを尽くした都市。

そして彼が生まれ育った家を兼ねる船が目の前にあった。

 

「…………」

 

少年は喜ぶよりも先に困惑し、そして沈黙していた。

 

(……静かすぎる)

 

ザナルカンドは眠らない。

時間帯は夜であり、ここは街外れの港だが、いくらなんでも人の一人もいないなんてことはありえない。

 

少年は恐る恐る、家の扉を開ける。

……間違いなく自分の家だ。焦がれた光景だ。何ヶ月ぶりの帰宅だろう。

だがあまりに突然すぎる。

実感が……いや、『現実感』が湧かない。

 

 

『おかえり』

 

 

気付けば部屋の中に、誰かいた。

フードを深く被った子供が部屋の隅で座り込んでいた。

 

『ベベルで会ったよ。覚えてる?』

 

「……あぁ」

 

アーロンに無理矢理押し込められた、祈り子の間でだ。

祈り子像の上に、この子供がぼんやりと浮かんでいた。

 

『けど、アレが最初じゃないよね?」

 

思い出してきた。

ザナルカンドで『シン』に出会う直前、そしてスピラに来たばかりの時に、この子供……祈り子が何度も夢に出てきた。

 

「ここは?」

 

『変なこと言うなぁ。キミの家だろ?』

 

「!?」

 

答えてすぐに祈り子が姿を消した。

同時に、少年の周囲に仲間たちの幻影が現れる。

 

『どうしちまったんだよ、おい!?』

『ねえ!起きてってばぁ!』

『お願い、目を開けて!』

 

ザナルカンドまでの旅の記憶はしっかりと彼に焼き付いている。

ガガゼトで祈り子像に触れる瞬間までのことも覚えている、

であれば、今の少年が見ているこの光景は。

 

「……全部、夢だろ?」

 

『あたり』

 

再び姿を現した祈り子が言い放つ。

少年はこの夢を見せているのが目の前の祈り子だと推測した。

 

「ざけんなっての!夢なんて見てる暇ないんだからさぁ!」

 

 

『ちがうよ。キミは夢を見てるんじゃない。

 キミが夢なんだ』

 

 

少年は家の外へと駆け出していく祈り子を追いかける。

 

船の上から遠くのザナルカンドの街並みを見つめながら、祈り子が呟く。

 

『……昔、大きな戦争があった。

 ザナルカンドとベベルが戦ったんだ』

 

ベベルから逃げ出す時にシーモアも同じことを語っていた。

少年は無言で続きを促す。

 

『ベベルの軍隊は皆機械で……ザナルカンドの召喚士たちは、ばたばたやられちゃったよ。

 ザナルカンドは、滅びるしかなかったんだ。

 だから……姿だけでも残そうとしたんだよ』

 

「なに……したんだよ?」

 

『生き残った召喚士たちと、それに街の人たちもみんな……祈り子になったんだ。召喚するためにさ』

 

「召喚って……『シン』!?」

 

 

『ちがうよ……『ここ』だよ。

 祈り子たちの夢を束ねて、『ザナルカンドの思い出』を召喚したんだ』

 

「!?」

 

 

眠らない街ザナルカンドそのものが、祈り子となった街の住人たちの思い出であり夢。

であればそこで生まれ育った人間も……。

 

 

「オレも……『夢』?」

 

 

祈り子は無言で頷いた。

 

『キミも、キミのお父さんもお母さんも、祈り子たちの夢。

 だから、祈り子たちの夢が消えたら……』

 

世界が急速に色あせていく。

きらびやかな光が怪しい瞬きとなり、空に禍々しい雷雲が立ち込め街を包み込む。

 

 

「やめろよ。

 ……夢でもなんでもいいよ。

 オレを……消すな」

 

 

『キミとキミのお父さんは、もうただの夢じゃない。

 スピラの死の螺旋の中心にある『シン』に触れ、形となった』

 

「……どうしろってんだよ?」

 

『……ずぅっと夢を見てて、なんだか疲れちゃった。

 でもキミとキミの仲間たちなら、きっと僕たちを眠らせてくれる。

 だから……このことは誰にも言わないで。特に、ヒノカミには絶対に』

 

「……はぁ?なんでアイツだけ名指しで?」

 

『ダメなんだ。彼女にだけは絶対に知られるわけにはいかない。

 すべてが最悪の方向に転がっていくかもしれないから。

 それほどの力と影響力を、彼女は持っている。

 だから僕たちは、彼女と顔を合わせることすらできないんだ』

 

「……わかった。約束する」

 

彼女が圧倒的強者ということだけは間違いない。

少年は祈り子の必死の懇願に応じることにした。

 

『ありがとう。さぁ起きて……泣かないで』

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「大丈夫?……よかったぁ」

 

目覚めた少年を仲間たちが気遣う。

しかし少年はぼんやりとしていて反応が薄い。訝しんでユウナが尋ねる。

 

「どう、したの?」

 

「……何でもないよ。気ぃ失って、夢見てた」

 

軽快に立ち上がった少年は大きく背伸びをして向き直る。

 

「よく寝たし、気力回復!んじゃ、行くッス!」

 

先陣を切って歩き出した少年を、仲間たちは訝しみつつ追いかける。

祈り子に警戒されているヒノカミもまた周囲に倣った。

 

 

一行は山頂に辿り着き、立ちはだかる番兵の魔物を一蹴した。

後はもう山を下りるだけ。その先が彼らの旅の目的地ザナルカンド。

 

「おう、どした?行こうぜ」

 

その目前で動きを止めた少年を訝しみ、ワッカが声をかける。

 

「ほんとに……もうすぐなんだよな」

 

「とうとうここまで来ちまったなぁ……。

 だが、オレたちはユウナを犠牲にしに来たんじゃない。

 一緒に生きる未来を見つけるために来たんだ。

 だからさ、胸張っていこうぜ」

 

「……おう」

 

やはり先ほど意識を失ってから少年の様子がおかしい。

だが彼が口を閉ざしているのでそれ以上追及することもできずにいた。

 

「フッ……うらやましいことだ」

 

「どうしたんですか、アーロンさん?」

 

「ザナルカンドに近づくほど、昔の俺は揺れた。

 辿り着いたらブラスカは究極召喚を得て、『シン』と戦い、死ぬ。

 覚悟していたはずだったが……いざその時が迫ると、怖くなってな」

 

「……アーロンさんも、迷うことがあったんすね」

 

「あぁ。あの頃の俺はお前と同じくらいの年で、ただの若造だった。

 何かを変えたいとは願っていたが……結局は、何もできなかった。

 それが、『俺の物語』だ」

 

「アーロン……」

 

「だがお前たちは違う。きっと違う物語を紡ぐことができる。

 それを見届けるためだけに、俺は……」

 

「?」

 

「……語りすぎたな。行くぞ」

 

「……おう」

 

ナギ平原から山頂までの道のりは険しかったが、山頂からザナルカンドまでの道は傾斜が急なだけの一本道だった。

大昔の建物の残骸の間を通ってすぐに下山を終えた一行は、ついにザナルカンドを望む小高い丘に辿り着く。

 

焚火の後がある。アーロンによればブラスカたちもまた、ここで最後の休息を取ったそうだ。

今は夕方。過酷な山越えで疲労していたことも確かなので、ユウナたちも夜まで休息を取ることにした。

 

大召喚士ブラスカとアルベド族の女性の娘。

元ブリッツボール選手の青年と、女魔導士と、ロンゾの戦士。

ザナルカンドから来た少年。

大召喚士ブラスカを支えた伝説のガード。

『シン』に並ぶ力を持つ異邦の鬼人。

アルベド族族長の娘。

グアド族族長にして元エボンの老師。

 

よくもまぁ、これほど多様な人間が揃ったものだ。

彼らは小さな炎を囲んで静かに座り込んでいる。

どうやら皆、ここにきて期待よりも不安が大きくなってきたようだ。

誰も口を開かず、どこかそわそわとして落ち着かない。

 

座ったまま体を前後に揺らしていた少年が不意に立ち上がり、傍にある小さな坂道を上り、夕日に照らされたザナルカンドを見つめる。

 

ユウナが助かる保証はない。

『シン』を倒しスピラを救える保証はない。

そして『少年自身』が、旅の果てにどうなるかも。

 

だからだろうか。

少年はザナルカンドを見つめたまま、仲間たちにこう提案した。

 





『最後かもしれないだろ?だからぜんぶ話しておきたいんだ』
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