召喚士は祈り子と交信し、祈り子を召喚獣として呼び出す。
究極召喚もその延長上で、ただとんでもなく強力な召喚獣を呼び出すだけのものだと皆が思っていた。
だが違った。『究極召喚』とは召喚獣ではなく、召喚獣を作り出す『技法』だった。
「千年前、私は我が夫、ゼイオンを選びました。
ゼイオンを祈り子に変え、私の究極召喚を得たのです」
召喚士は祈り子と『交信』する。
祈り子と召喚士の繋がりが強ければ交信は容易であり、より強力な姿で呼び出すことができる。
幼い頃のシーモアは召喚士としての修行などまともに積んでいなかったはず。
だが彼の母はシーモアが大召喚士になれると確信していた。
それはそうだろう。祈り子の側から召喚する側に寄り添うのだから、素質があればそれで充分。
『召喚士』に成れない未熟者でも、『大召喚士』には成れるのだ。
そしてザナルカンドへの過酷な旅は召喚士を鍛えるためではなく、旅を通じて召喚士とガードの絆を育むため。
エボンの教えとやらは機械に関してだけでなく、究極召喚においても嘘に塗れていた。
「恐れることはありません。
究極召喚を発動すれば、貴女の命も散るのです。
命が消えるその時に、悲しみは消え去ります」
己の発言に殺気を滲ませた小柄な少女を無視し、ユウナレスカは続ける。
「貴女の父、ブラスカもまた同じ道を選びました」
そこで再び幻影が現れる。
ユウナレスカと、ブラスカと、ジェクトと、アーロン。
おそらく10年前、彼らがザナルカンドに辿り着きユウナたちと同じように究極召喚の真実を突きつけられた瞬間の記憶。
幻影のユウナレスカと共に、今のユウナレスカも奥へと引き返していく。
『まだ間に合う!帰りましょう!』
『私が帰ったら誰が『シン』を倒す?
他の召喚士とガードに、同じ思いを味わわせろと?』
『それは……しかし!何か方法があるはずです!』
『……でも、今は何にもねぇんだろ?』
究極召喚を手に入れるには、ガードを生贄に捧げる必要がある。
アーロンはここにいる。であれば、ブラスカの究極召喚になったのは。
『祈り子にはオレがなる』
ジェクトしか、いない。
彼はザナルカンドに帰りたかった。息子にもう一度会いたかった。
息子を一流のブリッツの選手に育て上げ、頂からの眺めを見せてやりたかった。
だが旅を続ける内にブラスカの覚悟を知り、彼は故郷への帰還を諦めた。
そして諦めは覚悟へ変わっていた。
ブラスカを支え、必ずや『シン』を倒すと。
『だからよ、オレは祈り子ってのになってみるぜ。
ブラスカと一緒に『シン』と戦ってやらぁ!』
『自棄になるな!生きていれば……生きていれば無限の可能性があんたを待っているんだ!!』
『自棄じゃねぇ!オレなりに考えたんだ!
それによアーロン。無限の可能性なんて、信じるトシでもねぇんだオレは』
『ジェクト……』
『なんだ?止めても無駄だぞ?』
『すまん……いや、ありがとう』
『ブラスカにゃあまだ『シン』を倒すって大仕事が待ってる。
……オレの分までブラスカを守れよ?』
『…………!』
『んじゃ行くかぁ!』
ブラスカとジェクトは、ユウナレスカが待つ部屋への階段を上り始めた。
一人残されたアーロンが二人を見上げ叫ぶ。
『ブラスカ様!ジェクト!』
『まだなんかあんのかぁ!?』
『『シン』は何度でも蘇る!短いナギ節の後で、また復活してしまうんだ!
この流れを変えないと……二人とも、無駄死にだぞ!?』
『だが、今度こそ復活しないかもしれない。
……賭けてみるさ』
『ま、アーロンの言うことももっともだ。
……よし、オレがなんとかしてやる』
『!?何か、策があると言うのか!?』
『ジェクト……?』
『『無限の可能性』にでも、期待すっか!』
ハハハハハ!ハハハハハハハハ!!!!
ジェクトたちと笑い声は、扉の向こうに消えた。
若きアーロンの幻影は力なく膝をつく。
「……っ!」
幻影の後ろに、刀を抜いたアーロンが迫る。
「……ぁぁぁぁあっ!
うあぁっ!でああぁっ!!」
消し去りたい過去を、何度も何度も斬り払う。
しかし彼の前にある現実は、過去の幻は、変わらず存在し続けていた。
「そして……何も変わらなかった……!」
それが、アーロンの物語だった。
「……シーモア、お主がルカで使ったという見慣れぬ召喚獣。
それが貴様の『究極召喚』で……貴様の母なのか?」
「えぇ。その通りです」
「「「!?」」」
「究極召喚は、呼び出せば死ぬのではなかったのか?」
「絆の力を極限まで高めて呼び出すことで初めて、究極召喚は究極召喚足りえるのです。
他の召喚獣と同じ範疇に収まる程度に弱めて呼び出せば、召喚士が命を落とすこともない。
……次はこちらからお尋ねしましょう。
貴女の蘇生術とやらは、祈り子となった者まで元に戻すことができますか?」
「……無理じゃ……肉体が残っていなければ。いや、仮に残っていたとしても。
『死人』や『祈り子』といった特異な魂に変貌しては、儂の力では蘇生ができん……!」
誰も犠牲を出さない。その覚悟でそこまで来た。
犠牲になると知っていた召喚士を救うための手はずも整えて来た。
だが召喚士の他にも犠牲が必要だと知らなかった。知らないことに、対策は取れない。
「おまけに、『究極召喚を理解し改変する』こともほぼ無意味となった」
シーモアがすでに究極召喚を手に入れているなら、彼から学ぶことができる。
だが究極召喚は、召喚士にとって特別な祈り子を用いるから究極召喚なのだ。
たとえ召喚の在り方に手を加えても、祈り子という犠牲は避けられない。
「……では、シーモアさんに私の代わりの位置に収まってもらえないでしょうか?
すでに究極召喚を手に入れているのでしたら……」
「無理じゃろうな」
彼がその役を受け入れるか否か、という理由ではない。
アーロンとシーモアと、ケルクの反応、そしてユウナレスカは死人として残っているのに『ゼイオンは消えた』という事実。
それらからヒノカミが推測した最悪の可能性。彼女は、嫌な予感ほどよく当たる。
「一回限りで消滅するんじゃろ!?究極召喚の祈り子は!!」
「「「な……!?」」」
「そうです。『シン』を倒すと共に、祈り子は失われる。
根源的な理由であるため究極召喚に手を加えて対処することも不可能です」
「あぁくそ!どこまでも合理的じゃなぁ!」
究極召喚は召喚士と祈り子で一対。
究極召喚で召喚士が命を落とすのなら、祈り子だけが残っていても意味がない。
むしろ他の召喚士にとって大して使い物にならない祈り子には、消えてもらった方が都合がいい。
究極召喚を使った代償として召喚士が命を落とす事態は、ヒノカミがいれば避けられるかもしれない。
しかし究極召喚を手に入れるためにガードを一人犠牲にしなければならない。
そして召喚士が生き残っても、究極召喚は失われる。
究極召喚は祈り子に依存したものだから、模倣も改変もできない。
ヒノカミの計画は根底から破綻していた。
希望は潰え皆が絶望で沈黙する中、ルールーとワッカが無言で見つめ合い頷く。
「誰かが犠牲になる必要があるのなら……私、いいよ?」
「オレもだユウナ!オレとルーで、究極召喚が2回!
ナギ節がそんだけ続けば、『シン』を倒せるくらいにスピラを発展させられるんじゃねぇか!?」
「何言ってんのさワッカ!ルールーも!」
「……そういうことであれば私も立候補させていただきましょう。
仮にも婚約を申し込み、ユウナ殿にとってのゼイオンになると誓った身。
どちらにせよ命を落とすなら、私が究極召喚を呼び出すよりもユウナ殿の究極召喚となりたい。
そして『シン』を倒す。これ以上の誉れはありません」
「やめてよ、シーモアも!
誰も犠牲にしないって、そのためにきたんだよ!?
ユウナんが生き残っても皆がいなくなるのはヤだよ!!」
焦燥に駆られた者たちが口論を始める。
ヒノカミは思考に集中し全く動きを見せない。
「……まだだ!」
その混乱に、少年が一石を投じた。
「まだわかってないことがあるだろ!?
なんで『シン』を倒してもまた復活するのか!それと……!」
「なんで『オヤジが『シン』になった』のか!!」
「「……」」
「「「!?」」」
反応が二つに分かれた。
ユウナやヒノカミたちが驚愕する中で、アーロンとシーモアだけは動じなかった。
「なんだそりゃ!?」
「どういうこと!?」
「『シン』はオヤジだ。オヤジが『シン』になったんだ。
理屈とかわかんないけどさ……でもオレ、感じた。
『シン』の中に、オヤジがいる……!」
ジェクトは10年前、祈り子となりブラスカの究極召喚獣として『シン』と戦い、倒した。
そのブラスカが今の『シン』だと言うのなら。
……『シン』が蘇る理由とは。
「……ユウナレスカに問いただす!行くぞ!!」
ヒノカミが顔を上げた。
その表情には決意がみなぎり、そして瞳には希望が映っていた。
公式設定によると、究極召喚を使っただけで召喚士が死ぬことはないそうです。
しかし究極召喚獣と召喚士が強固にリンクしているため、『シン』を倒した後に『究極召喚獣が受ける侵食』が召喚士にもフィードバックされ、こちらに耐え切れず命を落とすのだとか。
よって、召喚士の死はヒノカミにより蘇生可能です。
ですが今の実力のヒノカミでは、魂が変質したり肉体が十分に残っていないと蘇生できません。よって祈り子は蘇生不可となります。