『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第25話 『シン』の真実

 

扉を超えて奥に進むと、そこは異空間になっていた。

星のような光が瞬く暗闇がどこまでも広がる世界に、遺跡の一部が浮かんでいる。

 

「祈り子となる者は決まりましたか?誰を選ぶのです」

 

その場で待っていたユウナレスカが、やってきたユウナたちに再び尋ねる。

 

「その前に、聞かせてください。

 父さんの究極召喚獣となったジェクトさんが、新たな『シン』になっていると聞きました。

 ……これは、どういうことでしょうか」

 

「『シン』を倒した究極召喚獣が、新たな『シン』と成り代わり、『シン』は復活するのです」

 

回答を避けようとするのではと考えていたが、ユウナレスカはあっさりと答えた。

 

「それでオヤジが『シン』かよ……」

 

「……何故、究極召喚獣が『シン』になるのですか?」

 

「『シン』は永遠を生きる『エボン=ジュ』の鎧なのです。

 倒された『シン』から抜け出たエボン=ジュは究極召喚獣に乗り移り、新たな『シン』へと作り変えます」

 

「『エボン=ジュ』……それは一体……?」

 

「千年前のザナルカンドにて、最も優れた力を持っていた召喚士の……成れの果てです。

 私とすら天と地ほどの差がある。召喚獣はエボン=ジュの支配を拒むことはできません」

 

「倒す方法はないのですか?」

 

「不可能です。『シン』は究極召喚でしか倒せない。

 そしてエボン=ジュは即座に目の前にある究極召喚獣に乗り移り支配し、次の『シン』に作り変えてしまう」

 

故に『シン』は不滅である。

 

「……人の罪が消えれば、『シン』は消える。

 私たちスピラの民は、そう教えられてきました!

 それだけが……スピラの唯一の希望でした……!」

 

「希望は、慰め。悲しい定めを諦めて、受け入れるための力となる」

 

 

 

『ふざけるな!』

 

 

 

ユウナたちを追い越すように、再び若きアーロンの幻影が現れる。

 

『ただの気休めではないか!

 ブラスカは、教えを信じて命を捨てた!

 ジェクトは、ブラスカを信じて犠牲になった……!』

 

『信じていたから、自ら死んでゆけたのですよ?』

 

『っ!!……ぅぁぁぁああああーーーーーっ!!!』

 

おそらく、今のユウナたちと同じように『シン』の真実を伝えられた直後のアーロンだ。

彼はブラスカたちの仇をとユウナレスカに斬りかかり、しかし反撃を受けて返り討ちとなった。

……『シン』を倒し、おそらくスピラ最強の戦士となったはずの大召喚士のガードが、なぜ死人となったのか。

その答えが、目の前の光景だ。

 

消えていく幻影を前に、今のユウナレスカが続ける。

 

「究極召喚とエボンの教えはスピラを照らす希望の光。

 希望を否定するのなら、生きても悲しいだけでしょう?」

 

絶対に『シン』は倒せない。

スピラの民がその現実に絶望しないようにエボンは嘘で塗り固めた教えを広め。

僅かな可能性があるように見せかけるために究極召喚が作り出された。

 

「さぁ、選ぶのです。貴女の祈り子は誰?

 希望のために捧げる犠牲を……?」

 

ユウナレスカの三度目の問いかけ。しかしそこで彼女も違和感に気付く。

ユウナやガードたちの雰囲気がおかしい。

かつてこの事実を知った者は、先ほどのアーロンのように激昂するか、現実を受け入れ希望に殉ずるか。

だと言うのに目の前にいる者たちからは力強い意思の力を感じる。しかしそれはユウナレスカへの敵意ではない。

 

 

 

 

「いりません」

 

 

 

 

顔を上げたユウナは、堂々と言い放つ。

 

「……今、なんと?」

 

「究極召喚は、いりません。もうスピラには必要ありません」

 

「貴女方は希望を否定するというのですか?」

 

「いいえ、希望はあります!……だよね、みんな!」

 

振り返ったユウナに、彼女の仲間たちは同じく力強い笑みで頷き返す。

 

「あぁ!こんな簡単なことだったたぁなぁ!」

 

「まさか『ミヘン・セッション』が正解だったなんてね……随分と遠回りしてしまったわ」

 

「だが、ここまでの道のりがユウナやキマリたちを強くした。

 そして、希望を信じる意思も!」

 

「……何を、言っているのです……?」

 

「へへぇ~~ん!スピラにはもう、新しい希望があるって言ってんの!……でしょ!?」

 

 

 

「『究極召喚を使わずに『シン』を倒せば復活しない』!

 それがわかりゃあコッチのモンッスよ!!」

 

 

 

「……愚かな。そんな方法などありはしません。

 それができないから……」

 

「できる者がいるのですよ。今、ここに」

 

「見せてやれ。お前の力を」

 

「承った」

 

一行の奥にいた小柄な女が掌を叩くと、鎧の鬼人となる。

鬼の背中から燃え上がった炎が巨大な炎の巨人となり、鬼の体の中に入り込んでいく。

 

 

「スピリット・オブ・ファイア、イン、鬼相纏鎧。

 甲縛式オーバーソウル、『輪廻天照』」

 

 

そして虚無の異空間を埋め尽くすほどに巨大な、炎の巨神へと変貌した。

 

「な……ぁ……」

 

ヒノカミはかつてルールーに問いかけられた。『ヒノカミの力で『シン』を倒すことはできないのか』と。

それに彼女はこう答えた。『戦士たちの命と資材を費やし周辺への被害を度外視して全力で挑めば一度だけなら倒すことはできるだろう』と。

 

すぐに復活するならリスクにリターンが見合わないと考え挑まなかっただけ。

倒すだけの力ならすでにある。

そして一度倒すだけで全てが終わるなら、リターンはリスクを遥かに上回る。

 

『儂が『シン』を打ち倒し、無防備なエボン=ジュを仕留める!それで終いじゃ!』

 

更に強くなった『シン』を倒すにはヒノカミも死力を尽くさねばならない。

戦いの余波でスピラに生じる二次災害もけた外れとなるだろう。

だがその未来は気休めではない本当の希望に繋がっている。

スピラの民が求めてやまない『永遠のナギ節』がその先にある。

 

 

「親父は、全部終わらせたいって願ってる!

 だからオレたちが終わらせてやる!!」

 

「俺たちはすでに決断した!

 定められた筋書きを離れ、自分たちの心のままに物語を動かすと!」

 

「私たちは、生きます。生きて未来を変えます!

 まやかしの希望はもう、いりません!!」

 

 

「…………」

 

究極召喚が『シン』を倒せるのは究極召喚獣の力が『シン』に並ぶほど強いからではない。

究極召喚獣が『幻光虫を分解する力を持っている』からだ。

故に究極召喚獣は『シン』だけでなく召喚獣や死人や魔物といった幻光虫で構成されている相手を問答無用で消し飛ばすことができ、よほどの事態に陥らない限りは確実に『シン』を倒せる。

 

しかし究極召喚獣が新たな『シン』となって短いナギ節の後でまた復活する。

 

言葉を失ったユウナレスカは、巨神を見上げ見定める。

……すさまじい力だ。純粋な力だけで『シン』に比肩しうる。

それでも確実に勝てるという保証はないが、勝率は決して低くない。

これで『シン』を倒せたならむき出しのエボン=ジュが現れ、そこで逃がさず仕留めることができれば。

 

『シン』は、もう復活しない。

 

 

 

 

「……なぜですか?」

 

「「「え?」」」

 

ユウナレスカは呆然としたまま言葉を絞り出した。

その問いかけは目の前の召喚士とガードたちにではなく、残酷な世界に向けられたものだった。

 

 

「なぜ、今になって現れたのですか?

 なぜ、千年前にあなた方はいなかったのですか?

 なぜ、ザナルカンドを助けてはくださらなかったのですか?」

 

『…………』

 

「私は……何のために私は、千年も!?

 スピラの希望として永遠を生きる覚悟をして、なのに何故今更!?

 私がスピラに強いてきた犠牲は全て無駄だったと言うのですか!?」

 

「ユウナレスカ様……」

 

張り詰めていた心が折れ、抑え込んでいた感情がとめどなくあふれ出す。

死人……いや魔物となってまで維持していたユウナレスカの肉体が形を失っていく。

 

 

「あぁ、ゼイオン……許してください……!

 私は……私は…………!」

 

 

冷たい床に泣き崩れたユウナレスカの輪郭が薄れ、幻光虫となって世界に消えていった。

 




ユウナレスカの所業は許されるものではありませんが、彼女は彼女なりに愛する夫を犠牲にしてまでスピラが絶望に沈み滅ぶことがないよう必死だったので、ただ倒すのは憚られる。
よってこのような決別の形としました。彼女にとってはある意味原作よりも残酷な結末となります。
仲間たちに決意を問うアーロンの原作の言葉も入れたかったのですが、ユウナレスカとの戦いにならない流れでは不自然になるので断念しました。

そして申し訳ありませんが、ここで息切れです。ストックが尽きました。
仕事の多忙とそれに伴う体調不良により現在執筆が止まっています。
本章も残り少しではあるので、完結まで目途がついてから更新再開します。
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