『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第27話

 

「マイカ・キノック両老師との面会を希望する」

 

巨神を従えベベルに降り立ったシーモアの要請を、寺院は拒絶することはできなかった。

 

最初は武力により排除しようとしたのだ。巨神は無理でも目の前のシーモアくらいならばと。

だが周辺の熱と火は全て巨神の支配下。

彼らが頼りにしてきた重火器はただの装飾過多な棒切れだ。

機械人形はどれも炉に火が入らず、うんともすんとも言わない木偶人形と化している。

かといって数を頼りに剣や槍を持ち出し対処するには、シーモア・グアドという男は強すぎる。

彼が老師として認められていたのはその類まれな魔術の腕とアニマという恐ろしい召喚獣を従えていたからでもあった。

兵器頼りで碌に鍛錬もしていないベベル精鋭部隊とやらでは百や二百で襲い掛かっても蹴散らされて終いだ。

そして彼の後ろには召喚士ユウナとガード衆。特にアーロンの力は言うまでもない。

重火器が使えない今、巨神を抜きにしても彼らだけでベベルが落とされる可能性すらあるのだ。

 

やがて怯えた兵士たちに泣き縋られて、マイカとキノックが現れる。

エボン総老師として……死人となってまで50年以上に渡り寺院を支えてきたマイカは流石の胆力だ。

対してキノックの方は無様なもの。

傍から見ても震えているし、今も小柄な老人のマイカの後ろに必死に隠れようとしている。

巨神が見下ろし続ける広場にこうして現れたあたりマシではあるが、比較対象が寺院の雑兵共なので底辺を争うようなレベルだ。

 

 

 

「究極召喚は失われました」

 

 

「「…………は?」」

 

召喚士ユウナ一行を後ろに侍らすシーモアは、兵士たちを後ろに引き連れたマイカとキノックに残酷な事実を突きつけた。

 

「貴様ら……まさか、ユウナレスカ様を手にかけおったのか!?」

 

「いいえ。誓って手出しなどしておりません。

 彼女は自らの意思で消滅を選んだのです」

 

「馬鹿な!ユウナレスカ様がスピラを見捨てたと申すか!?」

 

「見捨てたのではありません。もう己がスピラに不要だと悟られたのです。

 ……究極召喚をも超える巨神の力を目の当たりにされて、ね」

 

(ククッ、それを突きつけたのはこちら側だがな)

 

(ものは言いようッスね)

 

(あの腹黒さ、味方にすると心強いわね)

 

マイカはユウナ一行のヒソヒソ話に気付かず、シーモアにつられて彼の背後に立つ巨神を見上げる。

マイカが目にするのは初めてだが、この巨神がミヘン・セッションにて『シン』と渡り合う姿は多くの人間が目撃している。

後ろで未だに震えているキノックもまたその場に立ち会い、その脅威を証言している。

シーモアの言葉が事実だとすれば、ユウナレスカはこの巨神がいれば究極召喚がなくとも『シン』を倒せると判断したことになる。

少なくとも、可能性は十分にあるという程度には。

究極召喚を用いなければ『シン』はもう復活しない。故に、ユウナレスカと究極召喚はスピラに不要となる。

 

「すでにお察しのことと思いますが討伐隊とアルベド族、そして我がグアドの精鋭たちはビーカネル島に集結しております。

 そして『シン』との一大決戦に備えている。

 ケルク・ロンゾ氏もロンゾの勇士たちを連れて合流してくださる手はずとなっている」

 

「そして、お主らで『シン』を討つと?」

 

「そのつもりです……が、我々は危惧しているのですよ。

 ことが終わった後で寺院が我らを攻め滅ぼし、功績を掠め取ろうとするのではないかと」

 

「!?貴様、寺院を侮辱するのか!」

 

「……キノック老師。ご自身の今までの振る舞いを胸に尋ねられては?」

 

ワッカやアーロンが誰が見てもわかるほど『お前が言うな』という視線をキノックに向けていた。

流石のシーモアもあきれ顔で額に掌を当てる。

 

「そのつもりがないというのなら、行動で示していただきたいのですよ」

 

「……寺院に何を求める?」

 

「寺院はスピラを守るための組織なのでしょう?

 その責任を全うする時が来たという話です」

 

「責任……?」

 

 

 

「この作戦に参加して頂きたい。

 寺院の持つ戦力、その全てを余すことなく吐き出していただく」

 

 

 

「「な…………!?」」

 

「スピラの全戦力を結集し、『シン』と戦い、倒す。

 スピラを守る組織の義務として、僧兵と寺院にもその命と存亡を懸けていただく」

 

「ふ、ふざけるな!そんなことをすれば寺院が……!」

 

「断ると言ったら……?」

 

「……フフフフ」

 

シーモアが頭上を見上げる。

彼と目を合わせた巨神が顔を上げ、遠くの空を見つめた。

 

そして両肩の巨大な副腕を空へと向けた。掌に膨大な熱量が収束していく。

 

 

乾坤一擲(ブレイジングバーン)

 

 

放出された熱線が雲を貫き、空を焼いた。

ベベルの住民だけでなく、スピラ各地でその力は目撃されただろう。

 

 

「『スピラを守る』。それが寺院の存在意義です。

 散々そのように振舞っておきながら瀬戸際になってそれを拒むというのなら……そんな組織に存在する価値などありますまい?」

 

「ひ、ひぃぃぃっ!?」

 

「我らを……寺院を脅すつもりか!?」

 

「遅いか早いかではありませんか。

 究極召喚は失われたのです。どうやって権威と教えを維持するおつもりで?

 もはやここで『シン』を倒す以外にスピラを守る手立てはない。失敗すれば寺院はスピラごと滅びる。

 そして成功しても……寺院はその後どう動きます?」

 

「…………!?」

 

考え足らずの未熟者はキノックだけでないと、シーモアがマイカに突きつける。

エボンの教えは『シン』が存在する世界でスピラを維持するための詭弁。『シン』が失われると共に力を失う。

過去の戦争や『シン』の再来を掲げて声高に叫ぼうとも、人々はやがて利便性を求めて機械に手を伸ばす。

その新たな世界秩序の中で寺院が権力を維持するには、隠し持っていた機械兵器を持ち出し暴力により支配するしかない。

彼等は寺院ならそうすると確信している。だから絶対にそんなことができないように徹底的に力を削ぐ。

彼等は最初から寺院を潰しに来ていたのだ。

突きつけられた選択肢は『どうやって潰されたいか』という最後通告。

 

 

「選ばれよ。戦って散るか。ここで消えるか」

 

 

シーモアの宣告に合わせて巨神が掌をベベルとマイカたちに向ける。

キノックは失禁し泡を吹いて気を失った。

かろうじて意識を保っていたマイカが、しわがれた声で言葉を絞り出す。

 

 

「……わかった……寺院はその全てを以て、『シン』討伐作戦に協力する……!」

 

 

もはや寺院が生き残るにはこの戦いで多大な功績を示し、少しでも発言権を維持するしかなかった。

 

 

「英断、感謝いたします」

 

 

シーモアは年老いて小さくなった体を更に縮こませるマイカを見下しながら、妖艶に嗤った。

 

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