『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第29話 決戦前夜

 

『ガガゼト山の祈り子はエボン=ジュと関りがある』

 

その一言だけで十分だった。

ヒノカミは思考を高速化させ推理を組み立てていく。

 

エボン=ジュはかつてザナルカンドで最も優れた召喚士の成れの果て。

己とは比べ物にならぬ力の持ち主だとユウナレスカは語っていた。

であれば、あの幾万もの祈り子から何かを召喚できるとしたらエボン=ジュ以外にありえない。

 

では何を召喚しているのか。

 

『シン』ではない。『シン』は大召喚士の呼び出した究極召喚獣だった。

だがスピラには『シン』とは別に、素性の知れない召喚獣がいることに思い至った。

 

ザナルカンドから来た少年だ。彼の肉体は幻光虫で構成された幻想体だった。

だが彼は死人ではない。魔物でもない。であれば消去法で、彼は召喚獣となる。

 

そもそも旅の最中の彼の言動の節々に違和感を感じてはいた。

ヒノカミも当初は彼が語る通り、彼は千年前のザナルカンドから時を超えてやってきたと認識していた。

 

だが千年前のザナルカンドは、ベベルと戦争をしていたはずなのだ。

多少時間がずれていて戦争が始まる前だったとしてもベベルという街そのものはその時代からあったはず。

だと言うのに少年はベベルの名前すら知らなかった。

それどころかザナルカンドの外の事は何も知らないという。

ザナルカンドの誰も、外のことなど話題にもしなかったから。

無頓着で済むレベルではない。まるで最初から『ザナルカンドの外の世界が存在しない』かのよう。

 

そしてスピラのザナルカンドは『召喚都市』。召喚術により発展した街。

だと言うのに少年はやはり召喚術を知らなかった。

少年が語るザナルカンドは機械により発展した争いのない平和な都市。

魔物が現れることすらほぼなく、たまに見つかれば大事件だという。

 

共通点はいくらでもあるのに決定的な部分が違う。

長い歴史を紐解いても戦争の記録が一度もないなど、ありえないほど平和すぎる。

ヒノカミは、彼の故郷はスピラとは別の歴史を辿った平行世界かもしれないと考えていた。

 

 

だが逆だとしたら。

『夢』のように都合が良すぎる世界なのではなく、『夢』だから都合がいい世界だったとしたら。

ユウナレスカ曰く『成れの果て』になってまで、ザナルカンドが滅びて千年もの間召喚を続けるほど、エボン=ジュが執着するものがあるとしたら。

 

 

「あの山の祈り子は、ザナルカンドの住人たち。

 彼らによって召喚されるのは彼らにとって『理想的な』ザナルカンド。

 エボン=ジュはザナルカンドを召喚する召喚士。

 そして『シン』とはエボン=ジュ自身と、エボン=ジュが召喚するザナルカンドを守るための『鎧』。

 そこからスピラに零れ落ちた夢の欠片が……お主とジェクトということか?」

 

「…………参ったなぁ。やっぱアンタスゲェよ」

 

ヒノカミは少年一人だけを自室に呼び出し、追及した。

以前寺院を脅迫するためにベベルに赴いた際、彼とユウナは『祈り子に呼ばれた』と言ってベベルの祈り子の間に立ち寄っていた。

それ以降の彼は挙動不審とまで言わないが、目に見えて平静ではなかった。それこそガガゼト山の祈り子に触れて意識を失った後と同じように。

 

「エボン=ジュを討てば、どうなる?」

 

「……祈り子は、『夢を見ることを止める』って言ってた」

 

ならば祈り子達の夢であるザナルカンドと、その住人である少年もまた。

死人ならヒノカミが力を注ぎ続ければ維持もできる。

だがいわば霊体そのものが消えるとあってはヒノカミではどうすることもできない。

今の彼女に、少年を救う手段はない。

 

「なぜ……なぜ黙っていた!もう少し早く知っていれば、何か手立てを探すことも!」

 

「祈り子に止められてたんだ。アンタにだけは知らせちゃ駄目だってさ。

 ……その理由がやっとわかった。

 だって知ってたらアンタ、『何か見つけるまで『シン』を倒さない』なんて言い出したんじゃないか?」

 

「…………!」

 

彼女が『シン』との決着を先延ばしにすれば、その分だけスピラは被害を受ける。

被害を止めようと彼女が抗えば、『シン』はいずれ彼女を超える強さを手に入れてしまうかもしれない。

そうなれば究極召喚を失ったスピラは滅びるしかない。これが祈り子が想定した、最悪の事態だ。

だから他の選択肢が無くなる状況に至るまでは秘密にしなければならなかった。

 

数時間前、ついに『シン』の再始動を確認した。

赫月と白星からの報告によればゆっくりと、まっすぐにビーカネル島に向かっているらしい。

到達予定時刻は明朝、今は決戦前夜。

戦士たちはスピラ最大の戦いに備えて戦意を滾らせている。

 

今更『待ってくれ』は通用しない。何かを探す時間もない。

『シン』と戦い、倒すしかない。少年を消すことになろうとも。

 

「この戦いに皆命を懸けてる。多分、たくさん死ぬことになる。

 だからオレも命がけで挑む。そんだけッスよ」

 

「違う!彼らは命を懸けて、未来を生きるために戦うのじゃ!

 お主は生きるのを諦めただけ……結果が同じ死であろうと絶対に違う!」

 

「オヤジだって、早く終わらせたがってる。これ以上待たせるわけにもいかないだろ?

 ……それに、今更になってユウナや召喚士の皆の気持ちがわかったんだ。

 皆の未来のためなら、消えるのも怖くないって……。

 生贄は、オレで最後だ。だからさ、皆には内緒にしてくれよ」

 

「キーリカで、儂らは約束した!

 お互いに、必ず故郷へ辿り着こうと……っ」

 

「……悪い。だからアンタだけでも、絶対に辿り着いてくれよ。

 それだけでオレも、救われる気がするから」

 

「……儂は忘れんぞ、忘れるものか。この世界での日々と己の無力を……」

 

「そっか……ありがとな」

 

 

 

 

夜が明け、朝日がスピラを照らす。

ホーム周辺に陣を敷き待ち構える軍勢にも、島の外から迫りくる『シン』の姿が見えてきた。

改めてその巨体を前にして、怯える者は当然いた。しかし逃げ出そうとする者はいなかった。

腐敗していたはずの寺院の僧兵たちすらも。

 

これが『シン』との最後の戦いだ。

ここでスピラに続く死の螺旋を断ち切るのだ。

 

寺院も。

討伐隊も。

召喚士も。

アルベドも。

グアドも。

ロンゾも。

 

彼等は皆スピラの民。スピラの平和を望む気持ちは皆同じだ。

 

『シン』は島の軍勢を見つけても遠方から攻撃して終わりにしようとはしなかった。

そんなことをしても無駄だと悟っていたのか、空を飛んで静かにゆっくりと近づいてくる。

そしてついに、島の内側に入った。

 

 

「甲縛式オーバーソウル、『輪廻天照』!……円陣形態!!」

 

 

陣の中央上空に、かつて『シン』が戦った炎の巨神が現れた。

三つ足の巨大な八咫烏を台座としてその背に座り、体に白蛇が巻き付いている。

巨神は両肩から伸びた巨大なもう一対の腕を大きく横に広げ、掌を叩きつけた。

 

そしてビーカネル島を巨大な領域で覆った。

 

仮に『シン』が遠方から攻撃を仕掛けていたらこうやって防ぐつもりでいた。

そしてこれで戦いが終わるまで、誰も戦場から逃げ出せない。

エボン=ジュが『シン』から抜け出たとしても逃がさない。

この領域が解除される時、それはどちらかが滅びた時だけだ。

 

これより始まるは文字通りスピラの命運をかけた、最大にして最後の決戦。

 

 

 

『……『スピラ・セッション』!!開始!!!』

 

 

 

巨神の号令に呼応した人々の咆哮が響き、『シン』の巨体すらも揺るがした。

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