『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第30話 スピラ・セッション

 

『ジシャァァァァーーーーーーッ!!!』

 

「撃てぇーーーーーっ!!!!」

 

巨神に巻き付く巨大な白蛇の全身、島に配置された無数の砲台、そしてグアド兵や魔導師の魔法が一斉に火を噴いた。

白蛇の口から放つ霊力弾と全身の突起から放つ霊子の矢は砲台とは比べ物にならないほど強力ではあるが、ミヘン・セッションで振るっていた燃え盛る炎の剣には及ばない。

『シン』に直撃しても表面を削るだけであり、剥がれた表面がコケラという無数の魔物になる。

 

しかし小さなコケラは巨神が島の地上全域に広げている白い癒しの炎に焼かれて即座に消滅する。

巨神は自身が腰かけている巨大な八咫烏……赫烏封月の熱を吸い取りエネルギーに変え、領域の内側を常に不可死犠の炎で満たしていた。

空に浮かぶ『シン』ですら、地上に降りればこの浄化の炎に焼かれ手傷を追うだろう。小さなコケラなど一瞬で燃え尽きる。

大型のコケラは焼かれながらも機械兵器を破壊しようと軍勢に迫るが、討伐隊の剣士やチョコボ騎兵隊や勇猛なるロンゾの戦士たちが立ちはだかり後衛部隊を守る。

当然無傷では済まないが、白い炎を浴びると戦士たちの傷はたちまち癒えて活力がみなぎってくる。

 

この決戦に備え、あらかじめヒノカミは大量の兵器と弾薬を実体化し揃えていた。

彼女の記憶にある強力な機械兵器は扱いが難しく、暴発した際の被害も大きく、具現化が維持される時間も短い。

対してこう言っては悪いが、程度が低く粗雑なスピラの兵器ならば一度具現化すれば数日は消えない。

魔導士たちの魔力も不可死犠の炎がある限り無尽蔵だ。

 

『シン』はミヘン・セッションでの戦いを覚えており、巨神を最大の障害と見なしていた。

機械の兵器からの攻撃も鬱陶しいが、真っ先に目の前の巨神を排除するためその巨体を重力のバリアで覆って突撃する。

両肩から伸びた巨大な副腕を体の前で合わせたまま巨大な炎の鳥の上に座る巨神は、巨獣が目の前に迫っても動かない。

 

パァン!

 

だが激突する直前に巨神は内側にあるもう一対の掌を叩き、巨神の体をもう一つの結界で覆った。

二対の腕を持つ巨神は領域を二重に展開できる。

物理的な障壁ではなく空間を断絶する概念結界は、どれほどの衝撃を受けたとしても小動もしない。

結果、『シン』の防壁のみが一方的に損傷し大きく揺らいだ。

 

『ジシャァァァァーーーーーーッ!』

 

巨神は即座に領域を解除し、飛び出した白蛇が霊力弾をぶつけて『シン』の防壁を消し飛ばした。

 

『シン』を逃がさないために島を領域で覆うとなれば、それを維持するために巨神の力を割かねばならない。

絶対に領域を解くことがないよう、巨神は『シン』からの攻撃を徹底的に防御するしかない。

そして防御に注力していてはどうしても攻撃が手薄になる。

『シン』にも再生能力はあるのだ。良くて千日手、最悪の場合、戦いの中で『シン』が成長し均衡が崩れる可能性もある。

だから不足している攻撃力を、スピラの戦力で補う。

一つ一つは小さく弱い力であっても、ここにはまさにスピラの全てが結集しているのだ。数とはそれだけで力なのである。

 

「キノック老師!巨神の攻撃で『シン』のバリアが剥がれました!」

 

「よしここだ!飛空艇、外すなよ!」

 

『まかせろ!砲門開け!主砲、発射ーーーーーっ!!!』

 

唯一の航空戦力として『シン』の周囲を飛翔していた飛空艇が巨大な槍『ヴァジュラ』を展開。

その先端からほとばしる雷が『シン』の肩に露出したエネルギーコアを貫き、誘爆させて『シン』の肩を引きちぎった。

 

「やった!」

 

「気を抜くな馬鹿者!前線の戦士で包囲し攻撃を集中させろ!アレがコケラになるぞ!」

 

「!?ハッ!」

 

地上に落ちた『シン』の腕は白い炎に焼かれながらも変貌し巨大な魔物となった。

流石にあの大きさとなると生身の人間で対処できる規模を超える。

飛空艇の主砲は虎の子の兵器。連射はできず回数制限もある。『シン』以外に浪費するわけにはいかない。

 

「チッ……アレの付近の砲撃部隊の攻撃対象を『シン』からコケラに変更させろ!

 前線に機械人形兵器を20投入だ!急げ!!」

 

「「「ハッ!!!」」」

 

不可死犠の炎は蘇生術。

しかし『シン』の暴れるこの戦場では『シン』に魂を吸い取られ蘇生ができない。

生きていれば致命傷だろうとすぐに復活するが、即死となるとどうしようもない。

 

そして今この島全域が巨神の領域。

その内側で消えていく命を、ヒノカミは全て感じ取ってしまう。

 

(……ビラン……エンケ……っ!?ルッツ!!)

 

死んでいく。勇敢で仲間想いで気のいい奴らから、真っ先に命を散らしていく。

 

『……おい!やっぱりオレたちも!!』

 

『こらえろワッカ!お主らはこの作戦の要じゃ!

 例えどれほどの被害を目の当たりにしようと機が来るまで決して動くな!!』

 

飛空艇に乗り込んでいるワッカが眼下の惨状に耐え兼ね声を上げたが即座に押しとどめる。

少年は『シン』の中にジェクトがいると言った。

ユウナレスカは、『シン』は鎧だと言った。

ならばあの中にエボン=ジュに憑りつかれたジェクトが……ブラスカの究極召喚獣がいるはずだ。

それを見つけ出し倒すにはジェクトと繋がっている少年と、誰よりもジェクトを知るアーロン。

そしてこの二人と連携して究極召喚獣と戦うことになるユウナ一行が必須となる。

この戦いはエボン=ジュを倒さぬ限り終わらないのだ。

だからこそ彼らを『シン』との戦いに参加させ消耗させるわけにはいかず、少しでも戦力を増すためにシーモアもグアド兵の部隊指揮ではなく突入部隊に参加している。

 

ギャォォォォォ……

 

多大な犠牲を出しながら、スピラの戦士たちは『シン』の片腕のコケラを撃破した。

『シン』本体は白蛇の妨害により未だにバリアの再展開ができずにいる。

 

(地上部隊は……討伐隊が5割、ロンゾが4割を切った!?

 後衛はまだ7割以上残っとるが、これ以上落とされては!)

 

寺院の機械人形はほぼ壊滅している。生物ではないから、破壊されればヒノカミの炎では復活しない。

召喚士たちも、人間を守るための肉壁として召喚獣たちを使い潰してしまった。

魔力ならヒノカミの炎で戻るが、祈り子との交信に伴う精神的疲労は戻らない。

彼等は今も必死に踏みとどまり魔導士として奮戦しているが、前衛が減りすぎている。

このままではすぐに戦線が維持できなくなってしまう。

 

『っしゃあ!次行くぜ!急いで船を逆側に回り込ませろ!』

 

「もう片方が来るぞ!部隊の立て直し急げ!」

 

『キノック!もう一方の腕を落としたら地上部隊の攻撃対象をそのコケラに集中させろ!

 砲撃部隊もじゃ!『シン』への攻撃のペースを落としコケラの出現を減らせ!』

 

「なんだと!?これは短期決戦のはずだろう!?」

 

『このまま削り切るにしてもまだ当分『シン』は落ちぬ!

 その前に息切れし瓦解しては意味がない!最悪の持久戦を覚悟せよ!』

 

「えぇい!損害の大きい部隊を一時全て下げろ!

 部隊長クラスに統合と再編を進めさせろ!

 残る全軍、攻撃を『シン』から次のコケラに変更!……いいぞ!」

 

『発射ぁぁーーーーーっ!!!』

 

飛空艇の槍が再び雷で『シン』を貫き、もう一方の腕が落下していく。

砲撃部隊は飛空艇に当たらぬよう射線を調整し墜落中の『シン』の腕に攻撃を続け、前衛部隊はコケラに変貌し動き出す前に包囲網を形成しようと一斉に駆け出す。

 

 

 

ォォォォォ…………

 

『……なんじゃ?』

 

『シン』が巨神から距離を取り始めた。

巨大な両腕が落ち身軽になった体で、白蛇からの攻撃を受けながらも上空へと登っていき、領域の天井近くでようやく止まる。

 

『なンだ……?何をしようとしてやがる……!?』

 

『上を向いて、口を……?』

 

地上部隊はコケラに集中している。

『シン』の動きに気が付いているのは巨神と飛空艇だけ。

 

 

…………ォォォォオオオオオオオオオ

 

 

『『『!?』』』

 

『シン』が口に重力を集中させ巨大なエネルギー球体を作り出した。

あまりの超重力で周辺の空間が歪んでいる。

 

スピラの戦士たちは、頑張りすぎた。

『シン』は彼らを『鬱陶しい羽虫』ではなく『無視できない敵』と認識した。

 

だから先に彼らを排除することにしたのだ。

この島ごと、領域の内側を全て消し飛ばして。

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