『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第32話 父と子

 

「なんてデケェ街だ……!」

 

「スゴイよ……人や機械が、こんなに……?」

 

「夜なのに、こんなに光が溢れているのね。眩しいくらいよ……」

 

「我が屋敷のスフィアの記録と、確かに酷似している……。

 ですが直接目にするとやはり違いますね」

 

飛空艇の甲板に立つユウナ一行が眼下の街を見下ろし唖然としている。

 

「おい、どういうことだ?」

 

10年前にこの街に移り住み先日まで過ごしてきたアーロンが、飛空艇に並走する巨神を見上げ疑問を投げかける。

かつて彼は『シン』に乗ってザナルカンドに渡った。『シン』の中に入り込んだわけではない。

 

『推測じゃが……外殻が完全に破壊され、次の憑依対象もない状況はエボン=ジュにとっても生涯初の事態じゃ。

 境界線を失ったザナルカンドが、スピラを侵食する形で実体化しようとしていた。

 そこを儂の領域で囲んだことで輪郭が再度出来上がり、半実体化のような状態で安定したのじゃろう』

 

「なるほど。それで飛空艇ごと渡れたということか」

 

夢のザナルカンドは、エボン=ジュが生み出す夢の中だけの世界だ。

本来は肉体を持った存在では入り込めない。

だが今のザナルカンドは、現実世界に召喚されたような状態に近い。

だから実体を持つユウナや飛空艇でも侵入することができたということなのだろう。

 

『……動きがないな。侵入者があったと言うのに』

 

ヒノカミが確認する限り、ザナルカンドの住人達はこちらに気付いてすらいないようだ。

飛空艇だけならまだわかる。ザナルカンドにも空を飛ぶ乗り物くらいあるだろうから。

しかし巨大な炎の烏に腰掛け、全身に白蛇を巻き付け、炎の光輪を背負う巨神などという非常識の塊が頭上に浮かんでいるのに、誰一人として騒ぎ立てぬなどあり得ない。

……もしかしたら、彼らはなんらかのアクションを受けなければ異物を認識できないのではないだろうか。

ここは千年前のザナルカンドの住人である祈り子たちの思い出でできた世界。

だから祈り子の記憶にない事態には住人たちの反応が鈍くなるとすれば辻褄は合う。

面倒は避けたいので好都合ではあるが、ここまで動きがないと不気味ですらある。

 

 

「……待ってください!

 何故『シン』の中が、ジェクトさんたちのザナルカンドに通じていたんですか!?」

 

 

「あ!」

「そういえば、そうね……」

 

「「「『……』」」」

 

ユウナの疑問にリュックとルールーが同調する。

だが少年と、アーロンと、シーモアと、ヒノカミは無言を貫いた。

アーロンとシーモアは彼女らの戦意を削がぬため。ヒノカミは少年との約束のため。

だが少年が沈黙していたのは別の理由だった。

彼は甲板に出てからずっと眼下にある故郷の街ではなく、遥か遠くの空を見上げ続けている。

 

 

「……呼んでる。オヤジが……!」

 

「え!?」

 

「わかるのか?」

 

「あぁ……ずっと向こう、この先にいる!」

 

『よし、行くぞシド』

 

『おうよ!面舵いっぱぁーーーい!ヨーソロー!』

 

飛空艇と巨神が少年の指し示す方角に向かい、まっすぐに浮上していく。

近づくにつれて少年以外も違和感を覚え始めていた。

目の前には何もないが、何かがある。そう感じ取っていた。

 

『すぐそこに境目がある!このまま突っ込め!』

 

『テメェら、しっかり掴まってろ!』

 

甲板にいる皆が伏せて船体にしがみつく。

間もなく飛空艇の船首に触れた何かが水面のように波打ち、飛空艇はそのまま膜を超えた。

一行の目の前に突如として現れたのはブリッツのスタジアムを模倣した空に浮かぶ遺跡。

中央には同じく浮かぶ舞台があり、その中央には。

 

「人影……?」

「オヤジ!」

 

少年が飛空艇の甲板から飛び降りた。

ユウナたちも彼に続き遺跡の中央の舞台に着地する。

飛空艇は引き返し、スタジアムの外側にいる巨神の傍へと離れていく。

 

 

 

「おせぇぞ、アーロン」

 

 

背を向けたままの男が声を上げた。

 

「……すまん」

 

そこで男は振り返り、少年を見つめ片腕を上げる。

 

 

「よぉ」

 

「あぁ」

 

 

スフィアと、ザナルカンドのドームで見た幻影と全く同じ姿のジェクトが待っていた。

10年ぶりの……死に別れた親子の再会は、ぎこちなく平坦な形で行われた。

 

「へっ!背ばっか伸びて、ヒョロヒョロじゃねぇか!

 ちゃんとメシ食ってんのか?あぁん!?」

 

「…………」

 

「……でかくなったな」

 

この期に及んでも、ジェクトはかつてのように息子に悪態をついた。

しかし父の愛を知ってしまった少年は、かつてのように反抗的な言葉を返すことができなかった。

言いたいことはたくさんあったはずなのに、うまく言葉が紡げない。

 

「……まだ、アンタの方がデカイ」

 

「はっはっは!なんつってもオレは『シン』だからな!」

 

「笑えないっつーの」

 

「はははは……なぁ、なんだ、その……」

 

何を言っていいのかわからないのはジェクトも同じだった。そこで続ける言葉を失ってしまった。

だから今度は少年が言葉を投げかける。

 

「オヤジ」

 

「お?」

 

 

「……ばか」

 

 

その一言に込めきれない想いを込めて。

 

「はははははは……それでいいさ」

 

少年以外は誰も口を開かずにいた。二人の対話を邪魔しないように。

だがジェクトが顔を上げ、スタジアムの外でこちらを見下ろしている巨神に言葉を投げかけた。

 

「嬢ちゃん、だったか?……あんがとよ」

 

『む?』

 

「オメェがオレを何度も殴り飛ばしてくれたおかげでよ、オレは今まで踏みとどまれた。

 いい気付けになったぜ。だからよ……最期にもいっちょ頼まぁ」

 

『…………』

 

「オメェならオレに憑りついてる『コイツ』ごと、まとめて消し飛ばせんだろ?」

 

成長した息子を見ることができた。

わずかとはいえ息子と対話することもできた。

ジェクトはすでに満足していた。

だからまだはっきりと自我が残っている内に、無抵抗でいられる内に。

 

「オレがオレでいられる内に……やっちまってくれや」

 

 

 

 

『断る』

 

 

 

 

「あぁ!?」

 

スピラ・セッションにおいて、ヒノカミは『シン』との戦いに専念しなければならない。

だからもしその後でジェクトと戦う事態となれば少年たちに任せる手はずになっていた。

仮にヒノカミが戦える状態でその場に居合わせたとしても、窮地に陥らぬ限りは見守ると決めていた。

 

『満足するのは、まだ早い。

 貴様は父親としての一番のイベントを済ませておらんじゃろう?』

 

「イベントぉ?なんだってん……!?」

 

ジェクトが少年を見る。

彼は決意をみなぎらせ、身構えていた。

彼の傍に立つユウナたちもまた。

 

 

『不器用な父と子が向き合ったなら、やることは決まっておろう。

 うまく言葉にできぬのならば……拳で語れ』

 

 

親子喧嘩。

 

子が己の成長を親に示すための儀式。

そして今この瞬間が、少年の仲間たちが彼ら親子のために整えた『送別会』だ。

 

 

「……がっはっはっはっは!

 まさかオメェ、このジェクト様に勝とうってのか!?」

 

「絶対負けねぇ!もう、アンタには負けねぇ!」

 

 

「そうかよ……じゃあ、いっちょやるか!!」

 

 

ジェクトは両腕を顔の前で交差させ、力を集中させる。

彼の体から光があふれ出し、呼応して眼下のザナルカンドの街が輝きを増す。

光は少年たちの頭上に昇り再構成され、ジェクトの面影を残す巨人の形を取った。

 

 

『さぁ、来いよガキんちょ!

 オレを……超えてみせろ!!』

 

 

これが、ブラスカの究極召喚獣。

全長十数メートルという巨人がその身の丈に迫る巨大な剣を抜いた。

 

 

『白鎖彗星!赫烏封月!』

 

『ジシャァァッ!』

『カアァァァッ!』

 

巨神の体から離れた巨大な白蛇が少年たちに近づき、少年たちは白蛇に飛び乗った。

白蛇はブラスカの究極召喚獣の周囲の空をゆるやかに泳ぎ、少年たちの足場となる。

続けて巨神が腰かけていた八咫烏が離れて小さくなり、少年の前に留まり、その身を真っ赤な刀身の刀に変える。

 

それは斬魄刀。

斬ることで相手の『(sin)』を雪ぎ、その魂をあるべき場所へと送り出す浄罪の剣。

 

白蛇の頭に乗って究極召喚獣の目の前に立つ少年は、掴んだ斬魄刀を正面に突きつけ、泣き笑いのような表情で宣誓する。

 

 

「すぐに終わらせてやるからな!さっさとやられろよ!!」

 

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