『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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本章完結まで書き終えました。
残り4話を2日に分けて投稿します。


第33話 親子喧嘩

 

ブラスカの究極召喚獣……ジェクトの周囲を、全身に装甲を纏った真っ白な大蛇が緩やかに泳ぐ。

その上には少年やユウナやガードたち。

空に浮かぶ巨体を相手にするなら、彼らも空を飛ぶしかない。

少年を始めとした動きの速い者が巨大な蛇を足場にして積極的に飛び跳ね、ジェクトをかく乱する。

 

『だぁくそ!ちょこまかしやがって、見つけづれぇよ!

 デケェってのもいいことばっかじゃ……ねぇなぁ!!』

 

言葉とは裏腹に、ジェクトは蛇の上を走る少年目掛けて正確に剣を振り下ろす。

 

「そりゃ、おあいにくさまっ!!」

 

左右どちらに避けても合わせてくるだろう。

そう予測した少年は蛇の裏側に回り込んだ。

 

ガキィィンッ

 

『かてぇ!!いてぇっ!?』

 

蛇の体を盾にした少年はぐるりと回って飛び出し、しびれているジェクトの手の甲を斬りつけた。

 

白鎖彗星はヒノカミの具現化したオーバーソウルだ。

特に防御力に優れ、『シン』の本気の攻撃を受け止めるほどに頑強。

たとえ人間より遥かに強大な究極召喚獣と言えども、装甲に傷をつけることなどできるはずがない。

 

 

「……づぁぁぁあああああああっ!!!」

 

 

『いっつ!?』

 

ジェクトの脇腹に痛みが走る。

付近に移動していたアーロンが、丁度蛇の体がジェクトの体の近くを通る瞬間を見計らってすれ違いざまに刀を振りぬいていた。

 

『こンの!やりやがったなアーロン!』

 

「よそ見厳禁だよっ!!」

 

『あぁん!?』

 

蛇の体に隠れてジェクトの顔の近くまでやってきたリュックが、言葉でジェクトの視線を惹きつけた直後に何かを投げる。

 

 

カッ!

 

 

『んがっ!?』

 

アルベド印の閃光弾。

眼を焼く光をまともに受けて、ジェクトの視界が一時的に奪われる。

 

「電光石火……!」

「受けるがいい」

 

”T・サンダガ”

”レクイエム”

 

その隙にルールーとシーモアが魔法を詠唱し打ち込む。

このまま連続で押し込もうとしたようだが、ジェクトの回復は彼らの予想よりもはるかに早かった。

 

『あめぇぜガキどもぉっ!』

 

”ジェクトビーム”

 

ジェクトが大きく開いた目から光線が発射される。

二人は逃げる余裕もなく直撃を受けた。

 

 

”プロテス”

”シェル”

”リジェネ”

 

「……グルルルルル!」

 

 

かと思いきや、二人の前にはユウナの多重障壁を纏ったキマリが立ちはだかっていた。

 

「ガァァァァッ!!」

 

”ジャンプ”

 

ロンゾ族自慢の頑強な体で致命の一撃を防ぎ切ったキマリは、蛇の上を何度も跳ねてジェクトの上にまで飛び上がり、相手の顔面目掛けて槍を突き立てようとする。

 

『くらうかよ……っ!?』

 

”ジェクトフィンガー”

 

左腕でキマリを掴み取ろうとしたジェクトは、突如目の前に現れたあまりにも場違いな物体に目を奪われ動きを止める。

 

ブリッツボール。

 

彼自身もザナルカンドで選手を務めていた、水中格闘技の呼び名を冠するスポーツの競技用ボールだ。

 

キマリの槍は途中で動きを止めたジェクトの掌に刺さり、ジェクトの額にぶつかったボールは空中へと弾かれる。投げたワッカのコントロール通りに。

 

「ぶちかませ!」

「ウッス!!」

 

飛び上がっていた少年の目の前に弾かれたボールが迫る。

まずは脚でボールを蹴る。狙いはジェクトの右手の手の甲に刻まれた切り傷。

 

『いづっ!?』

 

ぶつかり弾かれ戻ってきたボールを、今度は殴り飛ばす。

キマリの槍に貫かれた左手の掌の傷を目掛けて。

 

『あでっ!?』

 

跳ね返ったボールがもう一度戻ってくる。

その間に高速で横回転していた少年は遠心力を利用して、ジェクトの顔面目掛けて全力でのシュートを放つ。

 

『ぐぅっ!?……オメェ、そりゃあ!?』

 

「へっ!なぁ~にが特別だってんだ!!」

 

”ジェクトシュート”

 

その名の通りジェクトが編み出し、己にしか使えぬと豪語していたブリッツボールの必殺技。

それを、息子が使ってみせた。

実演して見せたのはもう10年も前になると言うのに、彼は当時の光景を覚えていたのだ。

 

『……はは、がははははは!

 だったらオレはその上を見せてやるしかねぇなぁ!!』

 

蛇を置き去りにする勢いで急上昇したジェクトは右手に掴んでいた剣を頭上に放り投げ、異空間より召喚した巨大な隕石を両手で受け止めた。

 

”真・ジェクトシュート”

 

隕石をボールに見立てたジェクトは回転しながら、力の限りを込めて眼下の人間たちへと投げつける。

 

「うわっ、うわわっ!?」

 

「炎よっ!……ダメ!止まらないわ!」

 

「隠れろぉっ!」

 

人間たちは直撃を防ぐために大急ぎで蛇の装甲を盾にしようとした。

 

 

「乗れっ!!」

 

 

だがアーロンは蛇の上に立ったまま刀を裏返して構え、少年を見て叫ぶ。

 

”流星”

 

意図を察した彼はアーロンの刀の峰に飛び乗り、アーロンが刀を振る勢いを利用して空を飛ぶ。

隕石を躱し、ジェクトよりも更に上まで飛んだ少年は、ジェクト目掛けて少しずつ落下しながら刀を振り上げる。

ジェクトは彼の攻撃が届く前に落ちてきた自分の剣を掴み、迎撃に当たった。

 

城壁のように武骨で巨大な剣と、小柄な少女が使うサイズの小さな刀。

普通に考えればどちらが勝るかなどわかり切っている。

だが少年が持つ刀は、ヒノカミの斬魄刀だ。

彼に一時的に貸し与えているだけでその強度と込められた霊力はヒノカミの力に準じている。

加えて斬魄刀は『霊体を切り裂くことに特化した刀』。

 

『ぐぅあぁっ!?なん、だとぉっ!?』

 

究極召喚獣と同じく、この武器にもまた幻想体を切り裂く力が付与されている。

ジェクトの大剣は融けたバターのように易々と切り裂かれ、そのまま彼の胸に深い刀傷が刻まれる。

だが流石のジェクトはやられっぱなしではなく、左腕を振り下ろし少年を乱暴に殴りつけた。

少年は咄嗟に防御したが、真下の大蛇から離れた方角へと飛ばされていく。

 

「掴まって!」

 

「!?あぁ!!」

 

”ヴァルファーレ”

 

巨大な鳥を模した召喚獣に乗って先回りしていたユウナが伸ばした手を取る。

二人を乗せた召喚獣はそのままジェクトを中心にして空を緩やかに旋回する。

 

『いつつつつ……ったくよぉ!ガード多すぎだろユウナちゃん!

 ブラスカなんざ、オレとアーロンの二人だけだったんだぞ!?』

 

「ガードは、召喚士が命を預けてもよいと思える仲間です!

 こんなにもたくさんのガードと共にいられることが……私は誇らしい!」

 

ジェクトの悪態に、ユウナは迷うことなく胸を張って答えた。

ジェクトは視線を蛇の上へとずらす。

攻撃をまともに受けて負傷したアーロンは、シーモアの回復術を受けながら仲間たちの肩を借りて立ち上がろうとしていた。

 

『……そうかい。仲間が、できたか』

 

「あぁ。ザナルカンド・エイブスにも負けない、最高のチームだ」

 

息子の隣に成長したユウナがいて、アーロンがいて、ロンゾもアルベドもグアドもエボンの民もいて。

眩しかった。スピラの未来を託すに足る者たちだ。

もう少し彼らを見ていたくもあるが、残念ながらそれも叶いそうにない。

 

ジェクトの消耗に伴い、彼の中にいるエボン=ジュが暴れ出した。

今はまだ必死に押しとどめているが、このまま戦いを続ければジェクトは呑みこまれ暴走してしまうだろう。

だからここで戦いを切り上げ、大人しく討伐してもらう。

これがスピラにとってのベストだ。

 

『……ふざけんな』

 

だが彼の意地がそれを認めない。

折角息子とその仲間たちがここまでお膳立てしてくれたというのに、全力も出せないまま降参して何が喧嘩だ。

 

負けられない、負けたくない。

だから思い切りやってやる。

 

『すまねぇが……もう手加減なんてできねぇぞ!!』

 

ジェクトは敢えて激情に身を任せた。

スピラや後の事はもう考えない。ただ、全力でこの喧嘩に勝ちに行く。

 

 

『ウォォォォォオオオオオオーーーーーッ!!!!』

 

 

究極召喚獣の背中からいくつもの棘が伸び、折れていた剣が再構成される。

そして放つ圧が変わった。闘志が殺気へと変わっている。

 

「……っ!?」

 

「ユウナ?」

 

「聞こえる……祈り子様たちの声が……!」

 

ヴァルファーレの上にいたユウナが立ち上がり、杖を高々と掲げる。

その先端に宿ったほのかな光は強い輝きとなって散らばり、形を取った。

 

『『『『ォォォォーーーーーッ』』』』

 

既にヴァルファーレを召喚しているはずのユウナの周りに、彼女と契約した全ての召喚獣が同時に顕現した。

成長したユウナであっても複数の召喚獣を同時に呼び出す力はない。

だがここを最後の戦場にすると決めた祈り子たちが、己の魂すら燃やし尽くす勢いで彼女に同調し、強引に戦場へと現れた。

 

「……フフフ、やはり貴女は素晴らしい。

 では……我々もゆこうか、アニマ!」

 

シーモアもまた彼女の母を祈り子とする召喚獣を呼び出した。

召喚獣たちはその身に戦士たちを乗せ、あるいは魔導士と肩を並べ。

スピラの螺旋を断ち切るために、ブラスカの究極召喚獣に挑む。

 

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