『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第34話 夢の終わり

 

召喚獣の力は強大だ。だから周囲にいると巻き込む可能性が高く、生身の人間は距離を取るのが常である。

だが今、ユウナたちは召喚獣の隣で戦っている。

炎や氷や雷が飛び交う戦場で、人間たちも力を振るい召喚獣に負けじと活躍している。

 

 

トタギ(おやじ)タップニトエサヒコ(やっぱりおれたちも)!』

 

ヨナネノッユッサガノフダ(こらえろっつっただろうが)

 ……ジェクトさんよ、おれぁアンタがうらやましいぜ。

 ウチの息子は見てくればっかで、この腑抜け具合でよぉ……!』

 

娘たちを信じ、任せると決めた。

シドは情けない長男を叱り、戦場から離れた今の位置で飛空艇を待機させるよう改めて指示する。

飛空艇の隣にいる巨神もただ静かにじっと彼らの戦いを見つめていた。

 

エボン=ジュにも幻光虫を集める力があるようだが、出力は『シン』には遠く及ばない。

ましてや今のザナルカンドは巨神の二重領域の内側。

たとえ彼らが命を落としても瞬時に蘇生すれば間に合うと判断していた。

だからこそ完全に決着がつくまで、ひたすらに待っている。

この戦いの最後に訪れるであろう一瞬を見逃さぬように。

 

 

『……!?』

 

そして、ついにその時が来た。

 

”スパイラルカット”

 

空中で身を捻り回転する力を乗せて振り下ろした少年の一撃が、ブラスカの究極召喚獣の体を深々と切り裂いた。

斬魄刀による浄罪の力が究極召喚獣の核にまで届いた。

力なく降下していく究極召喚獣は先ほどまでいた舞台の上に剣を突き立て支えにしたが、堪えきれず崩れ落ちていく。

 

「オヤジ!」

 

少年とユウナを乗せたヴァルファーレが究極召喚獣の傍に近づく。

 

「「!?」」

 

その瞬間を狙って究極召喚獣から『何か』が抜け出て少年たちへと迫る。

無理矢理引き剥がされるはずの『何か』は己の生存をかけて最後まで醜く抗った。

 

『雷鳴の馬車、糸車の間隙 、光もて此を六に別つ!

 縛道の六十一!六杖光牢!!』

 

だがこの展開を予想していた巨神が鬼道を発動し、帯状の拘束具で『何か』の動きを封じる。

そして『何か』は卵のような実体となった。

これが、エボン=ジュ。

側面に生えているいくつかの棘のような物をうごめかせ拘束から抜け出そうとしているようだが、鬼道は虚と戦うために生み出された、霊体相手に特化した技だ。

巨神の馬鹿げた出力で発動された術式に寄生虫ごときが抗えるものか。

 

究極召喚獣の体が薄れて消えていく。

戦いが終わったと判断した飛空艇は巨神と共にスタジアムを模した遺跡へと近づいていく。

 

 

「……オメェの勝ちだ。やるじゃねぇか、流石はジェクト様の息子だ」

 

「あぁ……なんたってオレはアンタの……自慢の息子だからな……!」

 

少年は元の姿に戻ったジェクトを抱き抱えていた。

何とか彼を消滅に追いやる前に祓うことができたようだ。

……僅かな違いでしかないのかもしれないが。

二人は揃って頭上を見上げる。彼らの視線の先には未だエボン=ジュがうねうねと抗い続けている。

しかしその行動はどうやらただの本能のようなものらしく、自我が感じられない。

改めてみればその姿は人どころか魔物と比較してすら異質。まさしく『成れの果て』ということなのだろう。

もはや哀れにすら思えるが、これは『シン』を生み出しスピラを苦しめ続けている元凶なのだ。自我すらないなら和解も不可能、倒して止めるしかない。

 

 

「……どうすりゃいいか、わかってんな?」

 

「……あぁ」

 

ジェクトも全てを理解しているのだろう。

少年はジェクトから離れ斬魄刀を構え、仲間たちが見守る中で一歩ずつエボン=ジュへと近づく。

 

 

『待て!』

 

 

彼の歩みを、スタジアムの傍まで戻ってきたヒノカミが言葉で止めた。

 

『少年、もう一度だけ聞く。

 ……本当にいいのか?』

 

少年は無言で俯く。

その悲痛な表情を見てユウナだけでなく全員が悟った。

 

何故『シン』の中に少年のザナルカンドがあったのか。

エボン=ジュは何を召喚していたのか。

エボン=ジュを倒すと言うことは。

 

「おい……おい!」

「アンタ、まさか……!」

「……むぅ……!」

「ねぇ、待ってよ!!」

 

「…………」

 

少年は仲間たちの顔を見渡した後、ユウナの顔をじっと見つめる。

 

「……勝手で悪いんだけどさ」

 

そして前を向いて駆け出し、剣を振りかざす。

 

 

 

「これが『オレの物語』だ!!」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

ビーカネル島上空に浮かぶ漆黒の球体が形を失っていく。

島を覆っていた巨大な領域も同様に。つまりそれは、戦いの決着がついたということ。

戦士たちはみな固唾をのんで空を見上げる。

そしてついに彼らの視線の先が晴れ渡る。雲一つない青空に浮かんでいたのは。

 

「「「……!?」」」

 

飛空艇……だけ。

巨神も『シン』もいない。

間もなく飛空艇の外部スピーカーからシドの声が響く。

 

 

 

『『シン』は、もういない!もう復活もしない!

 オレたちの……スピラの勝利だぁーーーーーーーっ!!!!』

 

 

 

戦士たちの大歓声が島を揺らす。天高くに浮かぶ飛空艇にまで届いている。

僧兵も討伐隊もグアドもロンゾもアルベドも、肩を抱き涙を流し喜びを分かち合う。

数え切れないほどの戦友を失った。

それでも、スピラはついに永遠のナギ節を手に入れたのだ。

 

 

だが飛空艇の甲板に立つこの作戦の中核を担った功労者たちの間には重苦しい沈黙が漂っていた。

 

「オレ、帰らなくちゃ」

 

夢のザナルカンドの消滅と共にジェクトは消えた。

そして少年の体も色を失い始めている。

 

「……じゃあな」

 

仲間たちの顔をまともに見ることができず、少年は飛空艇の船首の方へと歩き出す。

仲間たちも何を言えばいいのかわからない。

だがただ彼を引き留めたい一心でユウナが少年の背へと駆け出した。

 

「「「!?」」」

 

もはや触れることすらできなかった。

少年の体をすり抜けたユウナは飛空艇の冷たい装甲の上に投げ出される。

 

 

「……ぅ……ぐっ……うぅぅ…………!」

 

 

覚悟していたはずだった少年の嗚咽が聞こえる。

彼の体からあふれ出た幻光虫が『シン』や死者たちの生み出したそれと混じり、世界に拡散していく。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

立ち上がったユウナはまだ彼へと届く音に、その一言に、想いの全てを込めた。

 

少年もまたユウナに応えた。

触れられない己の体を彼女に重ね、伝わらない温もりと伝えきれない想いを彼女に伝えようとした。

 

そして輪郭すら失い始めた少年はユウナを追い越し、前へと歩き出す。

 

 

「……っ」

 

 

堪えきれず駆け出し、飛空艇を飛び出し、少年は空へと消えた。

 

夢は終わった。

悪夢は消えた。

 

数え切れないほどの命を捧げて、スピラは未来へと歩き始める。

 

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