『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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綺麗なまま、シリアスなままで物語を終えたい方は前話で本章完結としてください。
ここからはご都合主義のお時間です。


第35話 帰還

 

スピラの戦力を結集した『シン』討伐作戦より数日。

ルカのスタジアムにて戦勝式典が開かれることとなり、ユウナ一行も当然その場に招待されていた。

開始までもう間もなく。だが彼女らはスタジアムではなく人気のない埠頭にいる。

 

死人であるアーロンと、旅人であるヒノカミ。二人を見送るためだ。

 

「ど、どうしても消えちまうんですか……?」

 

「せめて式典だけでも……」

 

戦いの後でアーロンが既に死人であると聞かされたワッカたちは、それでも彼を引き止めようとする。

 

「俺はもう終わった人間だ。

 伝説だなんだと持てはやされるのも、そろそろ億劫でな」

 

「右に同じ。儂はこの世界の人間ではない。

 無駄に爪痕を残しても後の面倒になるだけじゃろ」

 

「……寂しく、なるなぁ……」

 

立て続けに訪れる別れ。

間もなく開かれる祝典には似つかわしくない空気が若者たちにのしかかる。

 

「それに……アイツらを、十年待たせているからな。

 これからは生きている者たちで歴史を紡げ。

 ……後を頼むぞ、キノック」

 

「フン、役目を終えて消滅が決まっている組織の長など押し付けられてもな」

 

これが最期だと言うのに相変わらずキノックは悪態をつく。

『シン』討伐の報告を受けた途端、マイカは一人で満足してさっさと異界に旅立った。

これでエボンの老師はキノックただ一人。よって繰り上がりで彼がエボン総老師となる。

彼もずっとその地位を狙っていたはずだったが喜ぶ気配はまるでない。

当然だ。『シン』がいなくなり『エボンの教え』という屋台骨を失った寺院は消えていくしかない。何とか民衆に見放されぬよう別の形で存続できるかどうかの瀬戸際だ。かつてない苦境が待ち受けていると断言できる。

キノックがスピラ・セッションで総指揮として多大な貢献をし、特に作戦に参加していた者たちの間で彼の評価が大きく上がっていることを含めてもだ。

 

「……だがまぁ、そうだな。

 手に入れた地位も功績も、それを見せつける相手がいないというのは……張り合いが無かろうな」

 

「……ククク」

 

「ではな、アーロン。とっとと逝ってしまえ」

 

言いたいことを全てを言い終えたキノックは、背を向けてスタジアムの方へと足早に去っていく。

同じく式典に参加する予定だが彼はユウナたちとは違い巨大な組織の長。

時間の余裕などないし、事実グアド代表のシーモアや他の代表たちは会場で奔走している。

だと言うのに、彼はわざわざこの場に足を運んでいた。アーロンにはそれだけで十分だった。

 

若者たちを見渡し、キマリの胸を軽く叩いた後、アーロンは海の方へと歩いて立ち止まり、最後に振り返る。

 

 

 

「もう、お前たちの時代だ」

 

 

 

幻光虫がスピラの青空へと消えていった。

 

 

 

「では、儂も失礼する」

 

「お前は、消えちまうわけじゃねぇんだよな!?」

 

「また会えるんだよね?ねぇ!?」

 

感傷に浸る間も与えず逃げるように立ち去ろうとするヒノカミに、戦友たちが慌てて声をかける。

 

「貴女が故郷に辿り着くことを祈ってるわ。

 ……でもいつか必ず、またスピラに来てちょうだいね」

 

「どれほど未来でも構わない。

 キマリとスピラの民は、お前から受けた恩を忘れない」

 

「それはむしろ忘れて……?いや……」

 

「「「?」」」

 

突如ヒノカミは顔を伏せて何かを考え始めた。

戦いの後からずっと、彼女は『少年を見殺しにした』と己を責め消沈していた。

だが今顔を上げた彼女の目には強い決意の炎が宿っている。

 

「……わかった、必ず戻る。

 どれだけ時間がかかろうと、いつか、必ず」

 

「本当ですか……?」

 

「あぁ、約束しよう。スピラのことは絶対に忘れない」

 

「わかりました。また会える日を心待ちにしています」

 

頭を下げるユウナに軽く手を挙げて応え、うっすらと笑いヒノカミは消えた。

何の跡形も残さずに、忽然と。

 

 

 

 

 

「くけけけけ。あぁ、忘れたことはなかったさ」

 

 

 

 

 

ルカの遥か上空、肉眼では見えぬほど遠くの空からその一幕を眺めていた者がいた。

炎の光輪を背負う、たった今消えた少女によく似た女。その傍らには祈り子が浮かんでいる。

 

『さて、君の知る通りに過去の君は旅立ったわけだけど……本当にやるの?』

 

「やるも何も、後は仕上げだけじゃろが。それに儂はこの時誓った。

 この瞬間を迎えるために、必ずスピラに戻るとな」

 

『……そんなことばっかりしてるから変な宗教作られちゃうんだよ、君は』

 

「げらげらげら……残念ながら筋金入りでな。

 十万年近く経とうと、そこは変わらんかったよ」

 

彼女の言葉の通り、ここにいるのは先ほどこの世界を旅立ってから数万年後のヒノカミだ。

彼女は己の肉体を捨て、神へと至り、成長を続け、『少年を救う力を手に入れて』再びスピラに戻ってきていた。

ただし今この瞬間にではない。彼女は『過去の己がスピラを訪れるより前』の時間軸にひっそりとスピラを訪れ、『霊体』であり『グレートスピリッツ』である己の特性を利用して、『スピラのグレートスピリッツ』とも言える異界の最奥部に己のコミューンを作り上げ隠れ潜んでいたのだ。

過去のヒノカミが異界を避けていたのは無意識の同族嫌悪。

祈り子が少年にザナルカンドの秘密をヒノカミに明かさないように伝えたのは歴史改変が生じる可能性を下げるため。

そして祈り子が恐れていた最悪の事態とは、スピラが神霊ヒノカミの知る歴史と違う流れを辿ることだった。

 

過去の歴史への干渉による平行世界の分岐を過剰に恐れる彼女が、なぜ危険を冒してまで過去の己がいる時間軸にやってきたのか。

それはもちろん過去の己が救えなかった少年を確実に救うためだ。

 

何故少年は消えてしまうのか。それは夢のザナルカンドが消えてしまうから。

何故夢のザナルカンドが消えてしまうのか。それは夢のザナルカンドを召喚していたエボン=ジュを倒してしまったから。

そしてエボン=ジュの消滅を引き金として祈り子達が夢のザナルカンドの維持を放棄したから。

 

『だったら夢のザナルカンドを丸ごと引き継げばいい』。

 

それができるだけの力を手に入れたと確信した神霊ヒノカミは過去の己と決して出会うことがないように、過去の己がスピラに来る前に異界に隠れ潜んだ。

そしてスピラ・セッションの開始と同時に『過去の己が領域を作り上げ内側に引き籠った瞬間』を見計らって異界を離れ、ガガゼト山へと移動。

『シン』が討伐され消滅する直前の、最新の状態の『夢のザナルカンドの情報』を幾万もの祈り子から余さず読み取り自分にダウンロードした。

ザナルカンド崩壊が始まり領域が解除されるまでの間を見計らって再び異界に隠れ、異界へと流れ着いてきた祈り子たちの魂の欠片を片っ端からかき集めた。

その後数日をかけて自分が潜んでいたコミューンを改築し、異界の中に『夢のザナルカンドのコミューン』を再構成した。

その過程で一度夢のザナルカンドごと消えてしまった少年が今コミューンの中に存在していることは確認済み。

ちなみに彼は状況が理解できず困惑しており、『全部夢だったのか?』と力いっぱい頬をつねっているようだ。

後はヒノカミがオーバーソウルの要領で再び少年をスピラに呼び戻し、肉体を与えるだけ。

というか早く呼び出してやらないと深い混乱状態に陥り本当に全部夢だと思い込んでしまいかねない。

 

 

「しかしスピラの新たな門出……このくらいの奇跡は許されていいじゃろ?」

 

『はぁ~~……どうなっても知らないよ?』

 

「げっげっげ……じゃあ、やるかぁ!!」

 

 

今のヒノカミならば、肉体が残ってなくても魂が十全に残っていれば生き返らせることができる。

生前の情報が集まっているならば魂の欠片からでも蘇生可能だ。

スピラの死者の魂は全て異界へと送られてくる。よって異界で待ち構えていれば欠片は手に入る。

 

そして彼女は覚えていた。数万年経った今も。

スピラ・セッションにて己の領域の内側にいた数千人もの戦友たちのことを。一人も漏らさずに。

 

 

 

間もなく式典を待つルカの街で騒ぎが起きる。

『シン』との戦いで死んだはずの戦士たちが、次々と蘇り現れた。

 




スピラにハチャメチャが押し寄せてきました。
次回の最終話にてシリアスを跡形もなくぶっ壊します。
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