『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第2話 ヘスティア

 

「へぇ~~、タケからの紹介だったんだ。今度お礼言っとかなきゃ」

 

「は、はいっ!」

 

「本当に儂もよろしいので?どこぞで安い賃貸でもと考えておりましたが」

 

「いいのいいの!師匠なんでしょ?

 だったら一緒に住んでもらった方がベルくんのためにもなるだろうし!

 ……あ、勿論キミも心変わりして眷属になってくれるって言うならいつでも大歓迎だぜ?」

 

「かたじけない。訳あって眷属になることはできませぬが、働きで返させていただく」

 

「あっははは。そう堅苦しくなくても……っていうか、まともな場所じゃなくて悪いんだけど……」

 

ヘスティアが立ち止まったのはボロボロになった廃教会。

 

「ボクが住んでるのはこの下なんだ……でも大丈夫!見た目ほど悪い場所じゃないよ!」

 

取り繕うように言葉を足しながらヘスティアは奥へと入っていく。

続こうとしたベルは、足を止めて感慨深げに教会を見上げるヒノカミに尋ねる。

 

「どうしたんですか?」

 

「……いや、これも運命かとな。

 メーテリアはここが好きで、よく入り浸っていた」

 

「お母さんが……!?」

 

「しかし随分荒れてしまったな……『大抗争』とやらでか。

 このままではあ奴も悲しもう。

 ここで暮らすなら本格的に修繕しておこうかの」

 

「おーい、どうしたんだーい?」

 

ヘスティアに呼ばれて、二人はようやく歩き出す。

教会内部、講壇の下に隠された階段を降りると中に部屋があった。

地下は表の建物ほど破壊されていないらしく、3、4人程度ならなんとか暮らせるだろう。

 

「ささ、背中を出して横になっておくれ!

 今からキミにボクの『神の恩恵』を刻むよ!」

 

「……はい」

 

ぎこちないベルの様子を、ヘスティアは『緊張しているから』だと考えていた。

神の力を授かり超人となるのだから、冒険に夢見る年頃の少年が強張るのも無理はないだろうと。

 

だが違う。確かに彼は緊張しているがそれは力を手に入れることに対してではない。

恩恵を受け入れることで『自分がどう変わってしまうのか』を恐れているのだ。

 

「ベルくん?」

「ベル……」

 

「……お願いします!」

 

意を決して上着を脱ぎ、ベッドにうつぶせになる。

ヘスティアが指先に傷をつけ神の血を背中に落とし、神聖文字を刻むことで人間の能力を引き出す。

やがて彼の背中にはヘスティアの権能をかたどる炎の図柄が浮かび上がった。

 

 

「……終わったよ。はい、これがステータスの写しさ」

 

ヘスティアが一枚の紙切れを掲げ、ベルに渡す前に改めて自分で確認する。

 

「レベル1、ステータスオール0。

 キミはここから成長していくんだ!」

 

「はい」

 

「ベル、どこか不調はないか?」

 

「いえ……不調どころか力がみなぎってくるような……?」

 

「あははは、それは当然さ!

 恩恵があるのとないのじゃまるで違うからね!

 それに『スキル』の影響もあるかもね」

 

「スキル?」

「いきなりですか?」

 

「うん!しかも2つ!

 でも初めて聞く名前なんだよね。変な名前だし……レアスキルかな?

 『天神武装(テンカムソウ)』と……『不可死犠(フカシギ)』?」

 

「「っ!?」」

 

「うわっ!」

 

ベルとヒノカミが揃ってヘスティアからステータスが書かれた紙をひったくる。

 

「『不可死犠』……ホントだ、書かれてある!

 でもなんで!?僕はこっちの適性はなくて結局使えなかったのに!?」

 

「え?キミたちはこのスキルについて何か知ってるのかい?」

 

「ベル、ちょっと調べさせろ!」

 

ヘスティアを放置してヒノカミはベルの背中に触れ、彼の身の内に宿る炎を感じ取る。

 

「…………っ!?」

 

「師匠?」

 

「……これは……まさか!?」

 

そこでヒノカミがようやく、困惑しているヘスティアに視線を向ける。

 

竈の炎を司る炉の神。聖火。護り火。不滅の炎。

羅列したのはヘスティアという神の権能。

彼女は神だ。だがその在り方は人に寄り添う優しき善神。

しかもその権能は『炎を維持し強く燃え上がらせる』ことに特化している。

 

もしヘスティアの恩恵が彼女の立てた仮説の通りであれば。

 

 

「ベルぅ!彼女こそ我らの救いの女神さまじゃあ!誠心誠意崇め奉れぇ!!」

 

「ははぁーーーーーーっ!!!」

 

 

「一体何なんだいキミたちはぁーーーーーっ!!!」

 

何も明かさぬまま五体投地を始める二人を前に、小さな女神の絶叫が教会地下に響き渡った。

 

 

 

街が寝静まった夜、一人で教会を抜け出したヒノカミは神ヘルメスと対面していた。

彼はオラリオを追い出され辺境の農村へと引き籠ったゼウスに逐次情報を持ってきてくれていた旅の神。

ヒノカミはもちろん、ベルとも顔見知りである。

とにかく胡散臭いが悪神ではなく、英雄の誕生と黒竜討伐の成功を誰よりも強く望んでいる。その点だけは信用がおける神だ。

 

「……ねぇ、もっかい言って?」

 

「聖火の女神であるヘスティア殿の恩恵には、儂の授ける火種を燃え上がらせる力があるようじゃ。

 天神武装だけでなく、素質に左右されるはずの不可死犠も無条件で習得可能。

 更に相乗効果で強化倍率がとんでもなく上がっとる。

 おそらく、成長率もな」

 

「……はは、はははははは!!最っ高だぜベル君!

 よし決めた!オレは彼に全ベットする!

 英雄に至らんとする彼の覇道のため、このヘルメスが全身全霊!ファミリア総出で支援しようじゃないか!!」

 

「引き当てたベルの幸運もあるが、むしろ予想外のジョーカーはヘスティア殿じゃがな。

 ……神々に知れ渡れば必ず騒ぎ立てる。

 ずっと隠し通すのは無理じゃろうが意図的に広めてくれるなよ?」

 

「わかってる。絶対に口外しないさ。

 ……だとすると『あの二人』もヘスティアにコンバートした方がいいのかい?」

 

「いずれは。だがあ奴らを呼び寄せるにもヘスティア殿を連れ出すにも下準備が必要じゃ。

 それに、その前に儂の仮説が正しいかを他の者でも確認しておきたい」

 

「了解。じゃあオレからメーテリアちゃんに伝えておくよ。

 『ベルくんの門出は順風満帆だ』ってさ♪」

 

 

「アルフィアにもな」

 

 

「……勘弁してよぉーーーっ!ベルくんが出立する時点でめちゃくちゃ不機嫌になってたじゃん!

 嫉妬と八つ当たりでゴスペられちゃう!オレ送還されちゃう!!」

 

「ベルを支援するんじゃろ?男に二言はあるまい」

 

「そうだったよチクショウオレの馬鹿!

 ……パッと行ってパッと伝えてパッと逃亡……いけるかな?」

 

「げらげらげら。そのくらいは使いこなせるようになったか?」

 

「まぁねぇ。オレがオレの名を冠する道具を使いこなせないなんて沽券に関わるからさ。

 ……よし。じゃあ行ってくるよ」

 

ヘルメスはヒノカミから譲り受けた六角形のプレート……『ヘルメスドライブ』を操作し、オラリオから消えた。

 




スキル『天神武装(テンカムソウ)
・任意発動。
・身体能力と生命力を向上させる。
・成長により固有の武装を発現する。
・習熟によりスキルの複製を他者へと譲渡可能。

スキル『不可死犠(フカシギ)
・任意発動。
・傷・病を癒し呪いを打ち消す。
・習熟によりスキルの複製を他者へと譲渡可能。


ヒノカミ来訪のタイミングは原作より15年以上前。
呼び寄せたのは妹の救済を願ったアルフィアです。
この世界の強度ならヒノカミに治せない病はありません。

本作のヘルメスは最初から味方ルート。
ベルに英雄を目指す覚悟があり実力もすでに十分なので試す理由もありません。
そして『ヘルメスドライブ』に散々お世話になったヒノカミはその名の由来であるヘルメスという神に対し幾分好意的であるため、彼が余計なことをしなければ敵対関係になりません。
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