『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第3話 小人族の少女

ベルは当分は上層で経験を積むところから始めることになった。

恩恵を受けたことによる急激な成長に加え、ダンジョンという環境にも慣れる必要があるからだ。

一応はレベル1の新人がいきなり大暴れするのも悪目立ちするだろう。妥当な判断だった。

 

よって結成したばかりのファミリアはしばらくは貧しいまま。

ヘスティアは引き続きジャガ丸くんの屋台でバイトを続けることになる。

ベルは自分の都合で彼女に楽をさせてやれないことを心苦しく思っていたが、ヘスティアは満面の笑みで『家族ができた、今はこれ以上を望むのは野暮ってもんだぜ!』と言い放った。

 

ヒノカミはそんな二人を支えるべくしばらくは家事手伝いとして働きながら、廃教会の修繕に取り掛かった。

すぐに崩壊するような状態ではないが廃墟同然の建物の地下に暮らし続けるというのはやはり安心できない。

それに、メーテリアが愛した場所だ。

いつか彼女がオラリオに戻ってくる日もあるだろう。

その時に荒れたままでは優しい彼女はきっと傷つく。

 

「……『刻思夢想』が使えるなら一瞬なんじゃがなぁ」

 

だがあの力は目立ちすぎる。何しろ物質創造能力だ。それができてよいのは神の中で特に力あるものだけ。

気配だけでも察する者がいるらしい。なので『どこに神の目があるかわからないところでは絶対に使うな』とゼウスからも忠告を受けている。

だから資材を買い集めて自分の腕で修繕するしかなかった。

だが、ファミリアは貧しくとも彼女は十分なたくわえがあるから材料費に困ることもない。

それに彼女は、何を隠そう『大工の達人』でもある。

彼女一人でも建物一つくらい、半月もあれば綺麗さっぱり元通りにできるのでさした問題ではない。

 

そしてようやく教会の修繕を終えた彼女はその翌朝にダンジョンにやってきていた。

正確にはダンジョンの中でなく、その入り口手前の地上の広場に。

 

「やはり全体的に質が落ちておるなぁ……」

 

目的は今のオラリオの冒険者を観察すること。

そしてあわよくば、ヘスティアファミリアへの移籍に応じてくれそうな原石を見つけ出すこと。

ヒノカミの火種とヘスティアの恩恵の効果をよりはっきりとさせるためにもベル以外のサンプルが欲しい。

しかしまだどこにも所属していない新人が立ち上げたばかりの弱小ファミリアの門をたたくはずもなく、新人が二人になってもヘスティアが対応しきれない。

となれば、冒険者としての経験を長く積んだ者を他所のファミリアから引っ張ってくる形が望ましい。

才能などどうでもいい。むしろ火種との適正を考えればない方がいい。

加えて『現状に不満を持ちながらも完全には腐らず、抜け出したいと強く願い足掻き続ける者』ならば言うことなしだ。

 

 

「あ、いた」

 

 

ヒノカミはガタイの良い冒険者たちの後ろを俯いて歩く、自分の体よりも大きなバッグを背負いボロボロのローブで全身を隠した小柄な少女に目を付けた。

 

「のぅ」

 

「「「うわっ!?」」」

「っ!?」

 

「儂はそこのお嬢ちゃんと話がしたいんじゃが……よろしいか?」

 

「あぁ?……ハッ!別にいいぜ、どうせ大して役にも立たねーだろうしな!」

 

「そうそう、足手まといなんて連れてってもなぁ!

 1ヴァリスの報酬すら勿体ねぇっての!」

 

「あっ……」

 

少女は冒険者たちに罵倒されその場に置いていかれてしまった。

色々な相手に声をかけて、ようやくサポーターとして自分を雇ってくれる冒険者が見つかったというのに。今からでは他のパーティーを探すのも難しい。

日銭を稼ぐのに必死な少女にとっては、一日分の収入が絶たれるだけでも死活問題だ。

 

「……それで、お姉さんはリリに何の御用でしょうか?」

 

「ふむ、リリと言うのか」

 

「リリルカ・アーデと申します」

 

「儂はヒノカミじゃ」

 

リリルカは苛立ちを隠し努めて明るく応対する。

目の前の女が何者かは知らないが、必要とあれば誰であろうとどこまでも媚を売る。

それが彼女が過酷な日々の中で学んだ生きる術だった。

 

 

「単刀直入に言う。ヘスティアファミリアに移籍せぬか?」

 

 

「…………は?」

 

「儂はそこの眷属ではないが、世話になっとる食客でな。

 まだ眷属一人の新興ファミリアじゃが主神のヘスティア殿は善神じゃ。

 少なくとも今の状況のお主を放置する神よりも神格者であることは保証する」

 

「……何故、リリのような役立たずのを?」

 

「応じてもらえぬ内は明かせぬが、誰でもいいわけではない。

 儂はリリルカ・アーデという人材を求めている。

 して、どうじゃ?その気があるなら今のファミリアとの交渉は全てこちらで引き受けよう」

 

予想外の問いかけにあっけに取られていたリリルカは、しかしすぐに顔を俯かせ自嘲気味に笑う。

 

「リリのような者にお声かけ頂き光栄なのですが……無理ですよ。

 リリの所属するソーマファミリアは、脱退するには多額の違約金が必要なのです」

 

あそこは家なんかじゃない。

あそこに住んでいるのは家族なんかじゃない。

あそこ以外ならどこのファミリアでも構わない。

リリルカは一刻も早くあの場所から抜け出すために大嫌いな冒険者相手に媚びへつらい、コソ泥のような真似を続け、日々の生活を極限まで切り詰めて、必死に金を貯めているのだから。

 

「ソーマファミリアか……ふむ、いくらじゃ?」

 

「一千万ヴァリスです。どうです?お姉さんに支払えますか?

 できると言うのならばリリは喜んでお仕えさせていただきますが?」

 

大手ファミリアに所属する上級冒険者でもためらう額だ。

弱小ファミリアに身を寄せているような小娘が用意できるはずがない。

道楽か同情かは知らないが、これでさっさと立ち去ってくれるだろう。

『無駄に夢なんか見せないでほしい』、『期待なんてさせないでほしい』とリリルカは願っていた。

 

 

「安いもんじゃな。では行こうか」

 

 

「はぇ?」

 

巨大なバッグを背負ったリリルカを片腕でヒョイと持ち上げたヒノカミは飛び上がり、ソーマファミリア目掛けて建物の屋根の上を疾走する。

 

(速っ!?まさか、本当に上級冒険者!?)

 

いくら小人族とはいえ人一人、おまけに『縁下力持(アーテル・アシスト)』という重量軽減のスキルをもっているリリルカでも辛い量の荷物があるのに、それを片手で持ち上げこの速さで走るなんて。

 

(レベル4……いえ5!?

 オラリオの第一級にこんな方いましたか!?)

 

「見えた、アレじゃな」

 

「へっ?ひぁぁぁっ!」

 

リリルカが思案している内にソーマファミリアの拠点に辿り着いてしまったようで、ヒノカミは速度を落とさぬまま敷地内の広場に飛び降りる。

 

ドォン!

 

「なっ、なんだ!?」

「襲撃か!?どこの奴らだ!」

 

 

「たのもぉーーーーっ!」

 

 

「なんだ、あのアマは?」

「なんか抱えて……ありゃウチのクソパルゥムか?」

「また馬鹿やらかしたんじゃねぇの?

 そんで『責任取れ』って殴り込みかぁ?」

「だったら知るか!無視だ無視!」

 

 

「リリルカ・アーデをヘスティアファミリアにスカウトしたい!

 ここの団長殿はおられるか!?」

 

 

「「「はぁ!?」」」

 

「こ、この人、本気で……!?」

 




本作において、ヒノカミを縛っているのは『ゼウスとの約束』です。
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