「ほっ、本当かい!?本当にボクの眷属になってくれるのかいっ!?」
「神ならば嘘でないとおわかりなるでしょう?」
「……リリルカ・アーデと申します。
どうかリリとお呼びください」
「ソーマファミリアで長年サポーターを務めておった子です。
ダンジョンの上層や冒険者のノウハウに非常に詳しいようで。
ファミリア運営とベルのダンジョン攻略にこの上ない助けとなりましょう」
「うんうん!よろしくねぇ~~リリくぅ~~~ん!」
「何サボってんだい!仕事しなぁ!!」
「ゴメンよ店主!バイト終わったらすぐに戻るから、リリくんをボクらのホームまで案内しておいてくれ!」
先に屋台に向かいヘスティアにリリルカを紹介した後、二人はホームの前にギルドへと向かう。
ヘスティアのバイトが終わるのは当分先で、まだコンバートは済んでいないが主神への御目通りまで済ませた以上はほぼ確定であり、先んじてギルドに報告しても問題ないと判断したためだ。
「…………」
リリルカはずっと俯き無言のままヒノカミの後ろを歩いている。
ソーマファミリアを脱退できた。
脱退のために貯めていた金も丸ごと残っている。
次のファミリアの主神はこの短時間でもわかるほど優しく温かいお人好し。
全てが自分に都合が良い方に転がっていく。まるで夢のようだ。
だから彼女は怯えているのだ。『夢』はすぐ覚めるものだと知っているから。
二人がギルドの建物の入口が見えるくらいに近づいたところで。
「アイズ・ヴァレンシュタインさんの情報を教えてくださいっ!!」
聞き慣れた少年の声が聞こえた。
中に入ると白髪の少年が担当のギルド職員に食って掛っていた。
普段のベルならこれだけ接近すればヒノカミの気配を感じ取るのだが、どうやら真後ろに来ても気づかないほど熱中しているらしい。
ゴン
「んがっ!?」
「何を騒いでおるか馬鹿者。くだらん用なら後に回せ」
ヒノカミはそのまま拳骨を落として彼の暴走を止めた。
「エイナ殿、この者のファミリア変更手続きをお願いしたい。
正式に恩恵を刻むのは今晩の予定じゃが、すでに双方の神に話は通しておる」
「あ、はい。氏名と前後の所属ファミリアは?」
「リリルカ・アーデ。ソーマからヘスティアへ。
ベル、これで貴様も団長になるんじゃ。見っともない真似はするなよ?」
「!?ファミリアに入ってくれる人が見つかったんですか!?
よろしくね、リリルカさん!」
「……どうか、リリと呼び捨てでお呼びください。ベル様」
「え、でも、同じファミリアになるのに……」
「リリはサポーター……いえ、役立たずの荷物持ちです。
そんな相手に『さん』付けなどしてはベル様が他の冒険者の皆様に舐められてしまいます」
「……ベル。しばらくは彼女の望むようにしてやれ」
「はい……」
「んで、何を騒いでおったんじゃ?」
「あっそうだった!実はさっき、5階層で……」
「5階層ぉっ!?ベルくん!君はまだ冒険者になって半月でしょう!?」
「えっ、あっ、でも恩恵にも慣れてきたし……」
「何度も言っているでしょう!?
『冒険者は冒険しちゃいけない』って!」
ベルの実力を知らず、ただの新米レベル1冒険者と思い込んでいるエイナが説教を始めてしまった。
彼は恩恵により急上昇した身体能力を把握するために今日まで活動を控えてきたし、背中の恩恵に刻まれたステータス値は低いままなので説得するための材料もない。
「…………リリの手続きは?」
済んだのは個室に連れられ小一時間ベルに説教し終えたエイナが、ヒノカミらを放置したことに気付いて慌てて戻ってきてからとなった。
ギルドを出た三人が教会に辿り着く寸前に、店主に頼んで早めにバイトを切り上げさせてもらったヘスティアが合流した。
「ここの地下がボクらの拠点さ!
中々素敵な場所だろ!?」
「修繕が終わったばっかじゃがな」
教会はヒノカミが知る15年前の姿を取り戻していた。
これならば新入りに見せて恥ずかしくない。ヘスティアはどこまでもご機嫌だ。
「…………」
だがやはりリリルカは口を固く結んで無言のままだった。
同じく修繕され一回り大きく清潔になった地下居住区に案内されたところで。
「さぁ!早速リリくんに恩恵を……」
「ごめんなさい!!」
ついに耐え切れずリリルカが大声を上げた。
「えっ、えっ?もしかしてボクの眷属になるのが嫌だった……?」
「違います、嬉しいです!
でもリリは才能がなくて、鈍臭くて、落ちこぼれで……本当に役立たずなんです!
もう10年近く冒険者を続けているのにレベル1のままで……!
半月で5階層まで辿り着くベル様のように、ご期待に応えることができません!」
大金を支払ってくれて、ソーマファミリアとの交渉も引き受けてもらって、暖かく迎え入れてくれた。
なのに無力で無価値なリリルカには恩人とこのファミリアに返せるものが何もない。
「ごめんなさい、何もできなくてごめんなさい!
立て替えていただいたお金はいつか必ずお返しします!
だからどうか……捨てないでください……!」
「っ、ボクは家族を見捨てたりなんか!」
涙を流し続けるリリルカを立ち直らせようとしたヘスティアをヒノカミが止める。
今彼女に必要なのは慰めの言葉ではない。
『自分がここにいていい』と彼女自身が思える価値を、彼女に自覚させることだ。
「才能が無い?落ちこぼれ?
おいおいリリ、お主は一体どこまで儂に『アピール』するつもりじゃ?」
「「……え?」」
「あ、そうか、そうだった」
困惑するリリルカとヘスティア。だがベルは思い出してのんきな声を上げる。
ファミリアを結成して半月経ったが、まだヘスティアにはヒノカミとベルの強さの秘密を明かしていない。
いや、ヘスティアはベルたちが『強い』ということすら知らない。
そして全てを明かすタイミングは今を置いて他にあるまい。
ヒノカミは和服の上着を脱ぎ、背中を晒す。
ヘスティアは頭に疑問符を浮かべるが、ソーマファミリアでの一幕を目の当たりにしたリリルカは驚愕する。
「恩恵が……ない!?」